2026年7月に新刊『 推したちとどう生きるか 』(新潮新書)を出版した文芸評論家・三宅香帆さん。その発売に合わせ、東京・下北沢の本屋B&Bでリアルとオンラインの参加者が90分間、同時に新刊を読む「Miyake Book Club」が開催されました。現地では抽選で選ばれた約20人、オンラインでは300人超が参加しました。新刊に込めた思い、そしてこのようなイベントを開いたきっかけを三宅さんと本屋B&Bの内沼晋太郎さんに聞きました。

本屋B&Bの内沼晋太郎さん(左)と三宅香帆さん(右)
本屋B&Bの内沼晋太郎さん(左)と三宅香帆さん(右)
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本の「感想」よりも「一緒に読む時間」を共有したい

日経BOOKプラス(以下、――) 今回、初めての「Miyake Book Club」開催となりましたが、このようなイベントを実施しようと思ったきっかけを教えてください。

文芸評論家・三宅香帆さん(以下、三宅) はい。新刊イベントの新しい形、そして、本を盛り上げる一環として、読書会ができたらと思っていました。著者としては、なるべく新刊の発売直後にイベントができるとうれしい。ただ、「本を買ってもらう」かつ「読んできてもらう」のは負担が大きいので、「みんなで一緒に読む」というスタイルにしました。

これまで「読書会」というと、事前に本を読んで参加する形式が多かったと思います。でも、今回の「Miyake Book Club」は90分間で全員が同じ本を同時に読むというのが新鮮でした。

三宅 「事前に読んできてもらう」となると、参加するハードルが上がりますよね。世の中にはたくさんの新刊が出ていますが、それを読む時間は日常の中でなかなか取れないのでは。この読書会で一緒に読むことで、「仕事や子育てといった日常から少し離れられた」「本を読む時間が取れた」という充実感を味わってもらえたらと思いました。

参加者は90分間、会場で同時に本を読む。事前に読んでくる必要がないため、参加のハードルは低い
参加者は90分間、会場で同時に本を読む。事前に読んでくる必要がないため、参加のハードルは低い
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応募者多数で、リアルの参加者は抽選でした。これだけ読者との距離が近いと、生の声が聞けますね。

三宅 たくさんご応募いただいて、うれしかったです。これまで新刊が出たばかりの時期に、読者のみなさんから生の声をいただく機会はあまりなかったので、ありがたいですね。普段はサイン会でお話を伺ったり、SNSで目にしたりした意見を、次作のヒントにしています。

本屋B&B代表取締役・内沼晋太郎さん(以下、内沼) そんな貴重なイベントを本屋B&Bで開催してくださり、ありがとうございます。しかも、読書会当日はB&Bの14周年だったんですよ。

三宅 おめでとうございます。14年もたつんですね。

内沼 はい。でも、14年間の歴史の中で、こんなにたくさんの人が同じ本を読むのを見たのは初めてでした。なかなかすごい光景でしたね。

三宅 著者から見ても「おおっ」と。緊張しちゃいました。

内沼 三宅さん自身も自分の本を読んでいましたね。普段は出版された後に読み返すのですか。

三宅 いつもは基本的に読み返しません。テレビや動画、ポッドキャストは後学のために振り返るのですが、本の場合、「もう出版してしまったものは、書き直せない」という思いが胸に来てしまって。今日は「誤植があったらどうしよう」「今ならこういう一文を書き足したいな」
 なんて思いながら、初めて読み返しました。面白い体験でした。

内沼 読み返してみて、手応えは感じましたか。

三宅 普通に書けていて、安心しました(笑)。いつも最終原稿に目を通すとき、「面白くなかったら、どうしよう」と思うんですよ。「私」と最も興味の範囲が重なっている「自分」が読むわけだから、それで面白くなかったら、ほかの人も面白いわけがありませんから。

内沼 なるほど。みなさん、90分間でどれくらい読めたんでしょうね。読み切った人はいないかな。

三宅 みなさん、半分ぐらいは読み終えたのでは。

全員で同じ本を同時に読む意図としては「充実感」が大きいでしょうか。やはり、働いていると本が読めなくなりますので。

三宅 そうですね。よく「なかなか本を読む時間がない」「隙間時間に読んでも読んだ気がしない」という声を耳にします。90分間の読書タイムを憩いの時間にしてもらえたらと思いました。

「『Miyake Book Club』では、一緒に本を読む時間を共有できたらと思います」(三宅さん)
「『Miyake Book Club』では、一緒に本を読む時間を共有できたらと思います」(三宅さん)
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最近、海外ではブッククラブが盛んです。日本でも作家が参加する読書会が増えてきました。そうした動きも意識しましたか。

三宅 日本国内の読書会は「みんなで感想を言い合う」形式が多いですよね。私も主催したことがあり、それはそれで楽しかったのですが、ちょっと難しい部分があるかなと。
 実は本好きな人の中には「別に他人と本の感想を共有しなくてもいい」という人も多いんです。感想よりも「一緒に本を読む時間」を共有できたらと思いました。

感想を言い合うはずが、一歩間違えると参加者同士でマウントの取り合いにもなりそうです。

三宅 そう、だから今回は読者同士の交流はいらないかなと(笑)。ほかの参加者の方がいても、読者と著者という1対1で向き合ってもらえれば。

『推したちとどう生きるか』(三宅香帆著、新潮新書)/画像クリックでAmazonページへ
『推したちとどう生きるか』(三宅香帆著、新潮新書)/画像クリックでAmazonページへ

「推し活=過激」という見方は違う

今回の新刊『推したちとどう生きるか』は「推し」がテーマです。この本を通じて、読者に伝えたいことはありますか。

三宅 「推し活」と聞くと、ここ数年で出てきた熱狂文化のように感じますよね。でも、日本人の文化の流れを考えると出てくるのは必然でしたし、「推し」は単なるはやりのものではなく、「自分の人生にとって、かけがえのないもの」と思う人たちがいると伝えたかったんです。

この本を読んで、「アイドルと推しの違い」「推しの誕生にはインターネットが関係している」と分かり、納得がいきました。今、「推し活」というと課金競争などのマイナス面が取り沙汰されることも多いのですが、好きなものを応援してもいいのですよね。

三宅 私自身はそう思っています。ファンの共同性が暴走すると大変な騒動を起こしてしまう場合もありますが、それはごく一部の過激なファン。推し活=過激と思われるのは違いますよね。

「推しはハレの日を与えてくれる」という言葉がしみる人も多いのでは。

三宅 趣味があるほうが人生は楽しい。読書もそうですし、読書じゃなくても、何か仕事以外で自分の人生を豊かにしてくれるものがあるといいですよね。

読書会の参加者の中には「三宅さんが推し」という人もいました。次回の「Miyake Book Club」の予定は?

三宅 まだ何も決まっていませんが、ぜひ2回目、3回目を開催したいですね。最終的には1カ月に一度ぐらいのペースで、オンラインは誰でも参加できるようにしたい。課題図書は別に私の新刊でなくてもいいですし、みんなで本を読んで、私が本の内容について話す、という気楽な読書会にしたいです。
 みんなで森や海辺など、自然の中で読むのもいいですね。でも、私、虫が嫌いだからな…。

内沼 自然が見える部屋の中で開催しましょうか(笑)。

三宅 そうですね。海外では公園でキャンプをしながら読書会をしているのを見かけました。寝転がりながら、本を読みたいですね。

取材・文/三浦香代子 構成/市川史樹(日経BOOKプラス) 写真/稲垣純也