その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は高岡憲人さんの『 家族じまい・ひとりじまい 誰もがおひとりさま時代の終活最前線(日経プレミアシリーズ) 』です。
【はじめに】
「おひとりさま」「終活」「墓じまい」――。近年こうした言葉を目にしない日はない。2025年には、綾瀬はるかさんが演じるシングル女性が終活に挑むNHKドラマ「ひとりでしにたい」が放送された。「綾瀬はるかが終活かよ!」(心の声、敬称略)と驚いたが、幅広い層から支持を集めたようだ。
それもそのはずである。日本は今や世界一の超々高齢社会「ウルトラ・エイジング・ソサエティ」だ。未婚化が急速に進み、1980年代に5%に満たなかった生涯未婚率(50歳時点で結婚したことがない人の割合)は2020年に男性28・3%、女性17・8%に達した。長寿化が進み、配偶者がいたとしても、先立たれた後には長い一人暮らしの期間がある。遠方に住む子どものサポートを受けられない人もたくさんいる。
「ご臨終の場面」と聞いた時、どんな光景を思い浮かべるだろうか。昭和世代は、年老いた親が畳の上に敷かれた布団に横たわり、子や孫に見守られながら、息を引き取る光景を思い浮かべるかもしれない。懐かしのザ・ドリフターズのコントではおなじみの場面だった。
だが令和の現代、そんな光景に遭遇する人はほとんどいない。少子高齢化が進む日本が直面しているのは、最期は誰もがひとりになる「一億総おひとりさま社会」だ。
家族の縁が薄くなり、1年間に160万人が亡くなる多死社会では、どんな異変が起きているのか。日本経済新聞は24年9月に連載企画「多死国家のリアル」を開始し、「家族」を社会の基準としてきた日本で顕在化しつつある不都合な事実に向き合った。
親の世話や死後の手続きを民間業者に委託する「家族代行サービス」。墓守がいなくなったため、忽然と姿を消した「偉人たちの墓」。同居する家族がいても死んだことに気づかれない「同居の孤独死」――。多死社会の実態を取り上げた連載は反響を呼んだ。
本書は日経新聞や電子版に連載した記事をベースに、新たに取材した話などを盛り込んで書き下ろした。記事の時制や事実関係は原則、掲載時のままにしている。
本書のタイトルは一見穏やかでない印象を与えるかもしれない。しかし令和の日本では、高齢者の世話を家庭に依存する社会システムが崩壊しつつある。少子高齢化で「おひとりさま」が急増し、介護疲れや毒親問題などで親子関係が疎遠になる場合もある。実家が遠いため、物理的に親の面倒をみれない子どもも多い。そもそも、子どもには子どもの人生がある。
本書を通じて伝えたいのは、誰もがひと任せにせず、自分の終わり方をプロデュースする時代を迎えたということだ。
通院の付き添いや介護、葬儀や埋葬といった、家族が担ってきた役割を代行する民間サービスが増え始めている。自立期から入居できて、みとりまで対応してくれる有料老人ホームもある。
使えるサービスが登場しつつある今こそ、「親の面倒は子がみる」といった昭和の価値観を見直す時期だ。親の介護を他人に任せるのは親不孝。そんな決めつけには別れを告げたい。自宅でひとりで亡くなる孤独死は悲劇か。それも違う。身辺を整理し、死後すぐに誰かに見つけてもらえる準備を整えた死は「孤高死」だ。
他人の力を上手に活用しながら、自分の最期を家族任せにしない活動を「家族じまい」「ひとりじまい」と捉えたい。家族がいても、身寄りがいなくても、高齢者一人ひとりが充実した人生を全うするための新しい「解」を見つけだす時代がきた。
第1章では、家族が担えなくなった高齢者の世話や介護、みとりを支える「家族代行サービス」の実態に注目する。第2章では、「おひとりさま」がいつ、どんな場面で困るのかを検証し、必要な備えを「見える化」する。第3章と第4章ではお墓、実家、仏壇の「3しまい」に役立つ情報と、変わりゆく「弔い」事情を探った。第5章では、高齢者の生活を豊かにする「資産使い切り術」の極意に迫った。最終章では、人生100年時代を生きるための「スマート終活術」を紹介している。
各章は独立した内容になっている。興味が湧いた章から読み進めてもらいたい。
「終活といっても何から始めたらいいかわからない」
「親の老い支度にどこまで寄り添えばいいのか」
「近くに頼れる家族や知人がいない」
本書が、人生の「周没期」を迎えた人やその家族の不安の解消に役立つことができたら、これに勝る喜びはない。
日本経済新聞社 社会・生活報道ユニット
くらし経済グループ部次長
高岡憲人
【目次】





