「コミュニケーション能力を上げよう!」というと、どうしても「伝える」ことに重きを置きがちです。それくらい、意思を伝えるのは確かに難しいのですが、そこだけにポイントがあるわけではありません。

 お互いの意思疎通を明確にするには、相手を理解する必要がありますし、相手が話しやすい環境をつくるなどの工夫が必要です。また、自分のメンタルを安定させて話すことが求められますし、表現する「言葉」自体も鍛える必要があります。

 コミュニケーションについて書かれている本は数多ありますが、ベースとなるアプローチはそれぞれ異なるものです。ベクトルが自分に向かっているのか、チームや他者に向かっているのか、理論を中心に構成されているのか、すぐ使える実践に重きを置いているのかなど、さまざま。今回は、前・日経文庫編集長で、コミュニケーションの書籍を数多く担当してきた細谷和彦が、コミュニケーションを単なるテクニックととらえず、「自分と相手への洞察力を高める」ことをテーマに、ロングセラーからベストセラーまで「自分、チーム・他者、理論、実践」の4象限に分類し、11冊の良書を選びました。

画像のクリックで拡大表示

 コミュニケーションの力は一生もの。聴く力や伝える力だけでなく、自分や相手を理解し読み解く力を高めることができれば、人間関係がもっと楽になり、仕事や人生が円滑に進むはずです。

【理論/自分】

怒りをうまく扱えたら、人生が変わる

1. 『アンガーマネジメント』(戸田久実著、日経文庫)

『アンガーマネジメント』(戸田久実著、日経文庫)/画像クリックでAmazonページへ
『アンガーマネジメント』(戸田久実著、日経文庫)/画像クリックでAmazonページへ

 コミュニケーション以前に、自分の心をフラットにしておかないと、会話の途中でいらだったり、相手の話をさえぎったりしてしまうことがあります。そうなると、互いに建設的なコミュニケーションをとることができなくなりますよね。

 「アンガーマネジメント」は1970年代にアメリカで開発され、日本にもその考えが輸入されました。著者は、現在、日本アンガーマネジメント協会の代表理事を務める戸田久実さん。企業研修などを通して、30年以上コミュニケーションのこつを伝えてきた戸田さんが、アンガーマネジメントの理論から実践までを具体的に解説しています。

 人間誰しも、「~すべき」という思いを持っているもの。ただ、その「個人のものさし」から外れているものを見たときに、人間は怒りを覚えることが多いといいます。その「べき」は正しいものなのか。自分の「べき」は他人にとっても「べき」なのか。DEI(多様性・公平性・包括性)が求められる今、個人それぞれが、ものさしを見直す必要がある場面はたくさんあります。

 この本は、怒ってはいけないということではなく、怒りで後悔しないことを目指しています。怒る必要のないところで怒らず、適切な怒り方ができるように、この本で怒りをコントロールする訓練をしましょう。

10万部超えのベストセラー コミュニケーションの本質とは

2. 「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか? 認知科学が教えるコミュニケーションの本質と解決策(今井むつみ著、日経BP)

「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか? 認知科学が教えるコミュニケーションの本質と解決策(今井むつみ著、日経BP)/画像クリックでAmazonページへ
「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか? 認知科学が教えるコミュニケーションの本質と解決策(今井むつみ著、日経BP)/画像クリックでAmazonページへ

 本書は、「私たちが抱えるコミュニケーションの困り事について、認知科学と心理学の視点から、その本質と解決策について考えて」いく本です。

 「前にも言ったのに、何で伝わらないの?」と思う場面はよくありますよね。それは、「言い方」の問題ではなく、「心の読み方」なのだ、と著者は言います。言い換えると、「相手の思考や知識」(スキーマ)によるところもあるということです。

 理解し合うことの難しさをテーマに、人の認知や記憶の仕組みについて、学者の視点から解説していきます。

 コミュニケーションは相手を理解した上で成り立つもの。相手を知ることで、こちらの伝え方も工夫ができるようになるでしょう。いま注目の認知科学の研究者・今井むつみさんによる10万部を超えるベストセラー作品です。

【実践/自分】

「聴く」はいいことづくし 体験談が詰まった良書

3. 『LISTEN 知性豊かで創造力がある人になれる』(ケイト・マーフィー著、篠田真貴子監訳、松丸さとみ訳)

『LISTEN 知性豊かで創造力がある人になれる』(ケイト・マーフィー著、篠田真貴子監訳、松丸さとみ訳、日経BP)/画像クリックでAmazonページへ
『LISTEN 知性豊かで創造力がある人になれる』(ケイト・マーフィー著、篠田真貴子監訳、松丸さとみ訳、日経BP)/画像クリックでAmazonページへ

 「コミュニケーション」というと、「伝え方」に意識が向き、「聴くこと」を忘れがちです。実は「耳を傾けることは話すことよりもずっと大切」だと、本書でも語られています。

 人は、「聴く」ことで、相手に好感を持ってもらうだけではなく、最高の知性が得られ、孤独感を感じることもなくなる。いいことづくしなのです。

 著者のケイト・マーフィーは、ジャーナリストという立場から、いろいろな業種の人間とコミュニケーションする機会があり、自分の立場からだけでなく、さまざまな人に「聴くことの効用」について尋ねています。500ページ超の長い本ですが、難しい文章ではなくとても読みやすい。体験談がたくさん詰まった良書と言えるでしょう。

「ただ聴く」のではない、ビジネスに役立つ傾聴術

4. 『アクティブ・リスニング』(戸田久実著、日経文庫)

『アクティブ・リスニング ビジネスに役立つ傾聴術』(戸田久実著、日経文庫)/画像クリックでAmazonページへ
『アクティブ・リスニング ビジネスに役立つ傾聴術』(戸田久実著、日経文庫)/画像クリックでAmazonページへ

 先ほどの『 LISTEN 知性豊かで創造力がある人になれる 』でも、「聴く」ことの効用について触れました。「聴く」ことによって相手の信頼感を得られ、コミュニケーションが円滑になることは紛れもない事実でしょう。

 本書は、さまざまな「傾聴」についての本がある中で、さらに「アクティブ」に踏み込みます。「聴く」ためには、適切なうなずきと、適切な問いがあるわけで、それらを通して話の主導権を奪ってしまおうというのが、アクティブ・リスニングなのです。アクティブ・リスニングでは、「話の方向性を管理し、ビジネスを誘導する」、そんなことも可能になります。

 DEI(多様性・公平性・包括性)や心理的安全性が注目される時代に、「聴く」ことの意義はさらに高まっています。1on1ミーティングをする企業も増えています。「すべてのコミュニケーションは聴くことから始まる」。ぜひ、『LISTEN』と合わせて手に取ってみてはいかがでしょうか。

エレガントに言い換えると… 読んで痛快、学びも満載

5. 『エレガントな毒の吐き方』(中野信子著、日経BP)

『エレガントな毒の吐き方』(中野信子著、日経BP)/画像クリックでAmazonページへ
『エレガントな毒の吐き方』(中野信子著、日経BP)/画像クリックでAmazonページへ

 本のカバーに「相手をいらだたせずに、自分も“もやもや”を飲み込まない 大人の上手な伝え方」とあります。これはあとで紹介する「 アサーティブ・コミュニケーション 」にも通じる考え方です。

 著者の脳科学者・中野信子さんは、「京都の人はコミュニケーション巧者だ」といいます。そして、「相手を気持ちよくさせると同時に、NOの突きつけ方も非常に上手なのだ」と主張します。それを、中野さんはこの本で「エレガントな毒を吐く」という言い方に変えました。

 言いにくいことを伝えたり、上手に断ったりして、今日も明日も、お互いのコミュニケーションは存続できるものです。この本では、レッスン形式で「褒めているように見せかける」「褒められて居心地が悪いときは『受け入れて、流す』」「『笑い』に持ち込む」などの実践例がたくさん紹介されていて、読んでいて面白い。同時に、自分でもできそうな気になります。

言葉そのものを鍛えると、考える力がついていく

6. 『「言葉にできる」は武器になる。』(梅田悟司著、日本経済新聞出版)

『「言葉にできる」は武器になる。』(梅田悟司著、日本経済新聞出版)/画像クリックでAmazonページへ
『「言葉にできる」は武器になる。』(梅田悟司著、日本経済新聞出版)/画像クリックでAmazonページへ

 本書は、「言葉をコミュニケーションの道具として」のみとらえるのをやめ、「言葉」そのものを鍛えようという本です。コミュニケーションというと、対人関係を磨くスキルだと考える人も多いのですが、この本では、「自分の意見をしっかり育てなければ相手に伝えることも難しい」という論が展開されています。

 著者の梅田悟司さんは元電通のコピーライターで、「言葉にできる」ように訓練に訓練を重ねてきた方です。「内なる言葉」をキーワードに、その言葉をどのように鍛えてアウトプットするかを、具体例をあげながら説明しています。

 考えがまとまらないうちに話し始めて、「話がかみ合わないな」「いらぬ方向に話が行ってしまった」という経験はないでしょうか。改めて、コミュニケーションとは「その場で発揮するスキル」ではなく、それまでに積み上げてきた思考力、ひいては人間力が大事なんだと気づかされます。

【実践/チーム・他者】

現場仕込みの豊島キャスターが教える「伝え方」22の鉄則

7. 『不器用だった僕がたどり着いた「伝え方」の本質』(豊島晋作著、日経BP)

『不器用だった僕がたどり着いた「伝え方」の本質』(豊島晋作著、日経BP)/画像クリックでAmazonページへ
『不器用だった僕がたどり着いた「伝え方」の本質』(豊島晋作著、日経BP)/画像クリックでAmazonページへ

 現在、テレビ東京の番組のメインキャスターを務めている、著者の豊島晋作さんは、実は「話すのも聞くのも苦手な人間」だったというから驚きです。

 本書には、豊島さんがこれまでのキャリアの中で得てきた伝え方の鉄則が22本出てきますが、鉄則ZEROとして「スマホ撮影から始める」ことが挙げられています。自分が話している姿を、実際に見てみようということです。豊島さんはさすが現場で鍛えられてきた方ですよね。自分の姿を客観的な視点で明らかにすれば、改善点も見えてきます。そして、改善しながらまた撮影をするのだそうです。

 伝える力を鍛えるために話す量を増やすことを主張しているわけではありませんが、私はこの本から、もともと得意じゃなかったからこそ伝えるにはどうしたらいいのかを追求し続けた豊島さんの気概を感じました。「中学生にもわかるように」という鉄則を、論理として学ぶとともに、会議やプレゼンだけでなく日常会話などでも、実践に役立つ本だと思います。

 ちなみに、最後の22本目の鉄則は「書店を歩き回る」です。書店に行くと、スマホからは絶対に得られない良質な情報がとれるからと豊島さんは言います。ぜひ、この本だけでも書店で購入し、店内を散策してみてはいかがでしょうか。

リーダー必読 チームづくりのコミュニケーション技法

8. 『チーム・ビルディング 新版』(堀公俊著、日本経済新聞出版)

『チーム・ビルディング 新版』(堀公俊著、日本経済新聞出版)/画像クリックでAmazonページへ
『チーム・ビルディング 新版』(堀公俊著、日本経済新聞出版)/画像クリックでAmazonページへ

 本書は、どちらかというとリーダー向け、「チームづくり」に主眼をおいた本です。2007年に初版が出てロングセラーとなり、2024年の新版の発行とともに、オールカラーとなりました。

 著者の堀公俊さんは、ビジネスや教育の分野でファシリテーションをベースとしたスキルを執筆や講演活動を通して伝え続けてきました。

 チーム・ビルディングのためにはコミュニケーション以外のものももちろん重要ではありますが、第1章で優れたチームをつくるための基本を述べたうえで、真ん中の3章分をたっぷり使って、「会話」「対話」「議論」について紹介しています。やはり、「話す」ことはチーム・ビルディングに大事なんですね。

 チームで議論をすると、話の輪に入れない人が出てきたり、全体で結論を決めても満足できない人が生まれたり。気難しい人もいれば、元気がない人もいる。そんな場面でチームの疲労や消耗をいかに避けるのか、どうやってメンバーの力が最大限引き出せるようにするのか。さまざまな実践例などを通して解説してくれています。いいチームをつくりたいリーダーは必読です。

【理論/チーム・他者】

10万部突破のロングセラーの改訂版 会議で変わる

9. 『ファシリテーション入門 第2版』(堀公俊著、日経文庫)

『ファシリテーション入門 第2版』(堀公俊著、日経文庫)/画像クリックでAmazonページへ
『ファシリテーション入門 第2版』(堀公俊著、日経文庫)/画像クリックでAmazonページへ

 こちらは、先ほど紹介した、『 チーム・ビルディング 新版 』と同じ堀公俊さんの著書です。堀さんは自ら、日本ファシリテーション協会を立ち上げ、ファシリテーションの普及に努めてきました。

 ファシリテーションという言葉がまだ耳慣れない方もいるかもしれませんが、「集団による問題解決」などを指します。その中でも、本書は、「会議」による話し合いに焦点を当てて、事例や仮想ストーリーをふんだんに使いながら、その理論とスキルの活用法を解説しています。

 2004年の初版以来、10万部を超えるヒットになり、2024年に改訂版を出版しました。コミュニケーションでチーム力や会議力を高めたいという方におすすめです。

約60年も前から読み継がれてきた古典的名著

10. 『話し方の心理学』(ジェシー・S・ニーレンバーグ著、小川敏子訳、日経ビジネス人文庫)

『話し方の心理学』(ジェシー・S・ニーレンバーグ著、小川敏子訳、日経ビジネス人文庫)/画像クリックでAmazonページへ
『話し方の心理学』(ジェシー・S・ニーレンバーグ著、小川敏子訳、日経ビジネス人文庫)/画像クリックでAmazonページへ

 この本は、なんと今から60年以上も前の1963年が原書の初版という翻訳書の超ロングセラーです。そういう事実を聞いただけでも、コミュニケーションの悩みは世界で、そして長い期間にわたって、課題であることがよく分かりますね。

 本書の著者はアメリカの心理学者ですが、学問だけでなく、知識を応用することにも関心があったのではないかと、訳者があとがきで分析しています。

 「そもそも人は他人の話など聞こうとしない」というのが、この本の出発点。「聞く気のない相手を引き付けるには?」「本質には関係のない反論を見抜くには?」「忠告を聞き入れない人に対処するには?」といったビジネス現場でのあるあるシチュエーションに役立つさまざまな会話例なども盛り込まれています。

 しかも、読みやすい文庫本です。この古典的名著から、「話す」の奥にある心理を学び、上手に話を伝えて理解してもらうヒントをつかんでみてはいかがでしょうか。

今必要なのは、相手を傷つけずに主張する力

11. 『アサーティブ・コミュニケーション』(戸田久実著、日経文庫)

『アサーティブ・コミュニケーション』(戸田久実著、日経文庫)/画像クリックでAmazonページへ
『アサーティブ・コミュニケーション』(戸田久実著、日経文庫)/画像クリックでAmazonページへ

 「アサーティブ・コミュニケーション」も、元はアメリカから日本に輸入された考え方です。簡単に説明すると「相手を尊重しながら、自分の意見も主張する」ことですね。

 考えや意図を明確にしなければ、仕事やプロジェクトは進んでいきません。パワハラはもちろんあってはならないことですが、相手を傷つけまいと、必要以上に萎縮して、主張を遠慮しすぎていることはないでしょうか。

 相手をしっかり巻き込みながら、自分の考えはしっかり伝える。意見をすることは、相手を否定することではありません。「取引先からの無理なお願いを断るとき」「繊細な人に注意を促すとき」など、具体的な事例も豊富です。自分が持っている、無意識な思い込みに気づかせてくれます。

 前述の 『アンガーマネジメント』 とセットで読むと、理解が深まりますよ。

文/細谷和彦(日経BOOKプラス副編集長)