2022年10月27日、出版界が一丸となった新たな取り組み「 秋の読書推進月間 」が、全国の書店でいっせいにスタートした。前回「 秋の読書推進月間 本との新しい出会い、はじまる。BOOK MEETS NEXT 」に続き、JPIC(出版文化産業振興財団)特別委員会委員長で、「本の日」の店頭活性化委員会委員長でもある、ブックエースの奥野康作社長に、「本の日」ブックカバー大賞について、また今後のリアル書店のあり方、地方行政や地域と共に取り組む書店による町おこしについて伺った。

「本屋大賞」のような存在になれば

「ブックカバー大賞」について教えていただけますか。

 実は、これはもともと2018年に弊社でやり始めたことなんです。本のブックカバーって、昔はその書店に行く理由になるようなものでした。書皮(しょひ)といいますが、あのブックカバーが欲しいからその書店に行くとか、どこの書店のカバーを持って歩いているとおしゃれだとかかっこいい、ということがありまして。

出版界の厳しさが深刻になるなか、「初めて業界団体の枠を超えて出版界が一つにまとまり始め、非常にいい流れになっている」と語る奥野さん
出版界の厳しさが深刻になるなか、「初めて業界団体の枠を超えて出版界が一つにまとまり始め、非常にいい流れになっている」と語る奥野さん
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 ブックカバーは、その書店のアイデンティティーが出ているものです。それなら11月1日の「本の日」の時期に全国からデザインを募集し、そのおしゃれなブックカバーがもらえれば、書店に行く理由になるのではないか、と考えました。それで2018年に茨城県の一つの書店でデザインを一般公募したのですが、全国から130件くらい集まったんです。非常に面白いなと思って「本の日」のプロジェクト会議でお話ししたら、全国的にやってみようと。昨年はコロナ禍でしたが応募が500件以上あり、老若男女、上は70歳くらいの方から小さいお子さんまで、米国からも応募がありました。

大賞を受賞された方はどういう方なんでしょうか。

 昨年は、プロのイラストレーターのセキサトコさんという方です。山口県出身の女性です。その前の年も女性ですが、やはりプロの方。今年はヨーロッパからも応募が来ていましたね。海外の人に本のカバーって分かるのかなあ、と思っていましたが、グローバルな企画になりつつあります。選考は、参加書店での選出を経て審査員による審査会を開催し、入賞作品を決定します。今年の大賞は卯月小春さんの「本を持って旅をする」に決まりました。11月1日に受賞者をお呼びして、表彰式をすることになっています。

昨年の受賞作はセキサトコさんの「本のまち」(写真上)。今年は卯月小春さんの「本を持って旅をする」(写真下)が受賞。今年のテーマは「本を持って出かけたくなるブックカバー」
昨年の受賞作はセキサトコさんの「本のまち」(写真上)。今年は卯月小春さんの「本を持って旅をする」(写真下)が受賞。今年のテーマは「本を持って出かけたくなるブックカバー」
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 今、「ブックカバー大賞」に参加している書店は250店舗くらいです。大賞に選ばれた作品は、参加書店で文庫をご購入された方に配布されます。まだまだ大手の書店が参加されていないのが現状で、ぜひ多くの書店で実施されるようにしたいですね。「本屋大賞」のように書店企画の目玉になる存在になればいいなと思いますし、デザインをやっている人の登竜門になるとか、そんなビジョンを描いています。

リアル書店の価値は上がってきている

この2年間、コロナ禍があってなかなかお客様との接点がつくりにくかったと思うのですが。

 コロナ禍のなか、オンラインによるイベントなどデジタルでの取り組みはいろいろとやりましたが、結局コロナ禍が収束に向かってくると、デジタルだけでは収まらない世界というか、やはりリアルもあって、デジタルとリアルの選択肢があることが生活を豊かにするのだな、ということが分かり始めてきました。今は、リアルのお店のほうをより強化していくことを考えています。

「本の日」もそういう契機になれば、ということなんですね。

 そうですね。これだけデジタル化が進んでしまった世界に、今さら売れ筋だけ置いている書店が必要なのかといわれると、やはり小さなお店は経営が厳しくなっているところもあります。家族で行きたくなる大きいお店、居心地がいい、新しい発見がある、品ぞろえが豊富なお店は逆に売り上げが伸びていますので、空間価値の高い書店に変えていかないといけない。デジタルもあるけれどリアルもある、デジタルを経験した後にリアルの価値が上がっている、そんな感じがします。

「ブックエースは1986年に郊外型複合書店として茨城県水戸市で創業。書籍、映画、音楽、ゲームといったエンターテインメントコンテンツを、地域の皆さんに提供しています」
「ブックエースは1986年に郊外型複合書店として茨城県水戸市で創業。書籍、映画、音楽、ゲームといったエンターテインメントコンテンツを、地域の皆さんに提供しています」
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行政と一緒に大きな書店で町おこし

 茨城県は、消滅可能性都市といわれる都市がいくつかあります。その都市の市長さんから、子育て優遇策とかいろいろやっているけれど、若い人が移住してくれないと聞きました。移住してくれるために何が必要かと聞くと、買い物をするところとかコミュニティーだそうで、市が支援策を準備した後は、街にそういったものを誘致することに課題が移ってきたというんです。

 そういう場所として、書店は有力でしょう。ならば、書店を地域の指定業種にして誘致し、若い人たちが住んでくれる街にできるかどうかチャレンジしてみようと、今、先の市長さんと大きな書店をつくる取り組みを始めています。

 最近、書店のない都市が増えて、行政から出店依頼を受けるようになりました。優遇策をやるからぜひ一緒に、と。住民にも、ある程度、文化とか教養レベルを保っていくには書店は必要なんだと思われています。リアルのお店があることが、豊かな街の象徴であるみたいな。でも、従来型の書店のままではダメなので、ネットのある時代にどう書店が生き残るのかを模索しながら、2022年11月には新しいタイプのブック&カフェを出店します。

新しい価値のある複合型書店ですね。

 そうですね。本だけではなく、文房具や、子どもたちや大人にもはやっているトレーディングカードを置いたり、みんなで一緒に遊べる場所を提供したり、新しいかたちの書店にチャレンジしています。デジタル化が進んだからこそ、リアルに必要なものをもっと追求していかなければならないと感じています。

 今年は、弊社の川又書店(茨城県水戸市)が150周年を迎えました。長年地元にお世話になってきたこともあるので、この夏1500円以上購入された方を対象に、高級料亭への招待や老舗写真館での写真撮影、酒蔵での試飲体験など、地元でのすてきな体験が当たるキャンペーンを実施したんです。すると応募総数が7600件もありまして。お店への応援コメントや思い出のメッセージも1500人くらいの方からいただきました。子どもの頃にご両親に連れてきてもらったことや受験生時代の思い出、なかには祖父母の代から50年通っていますというコメントもありました。

確かに、子どもの頃に通った書店さんは鮮明に覚えていますね。

 そうなんですよね。地元に帰ったときに、駅前に大きな書店があることにホッとする、と。これからも頑張ってください、というメッセージをたくさんいただきました。やっぱり自分の郷土は大事なんだと改めて感じています。地元でずっと続いている書店が、街の人の気持ちを落ち着かせる場所みたいなものになっているんだろうなあと。地元とのつながりをさらに大事にしないといけないと強く思っています。

取材・文/武安美雪 写真(人)/尾関祐治