2026年9月、作家の柚木麻子さん、朝井リョウさん、タレントのでか美ちゃんさんによる書籍『
柚木麻子・朝井リョウ・でか美ちゃんの宇宙のどこにも見当たらないようなハロプロの話を50万字しよう
』(シーディージャーナル)が発売されます。同書は、音楽雑誌『CDジャーナル』で2015年から10年以上続く連載を書籍化したものです。
3人は「柚木麻子with Journal2」というユニット名で、ライブ活動もされています。でか美ちゃんさん主催フェスでのパフォーマンスに向けた練習に力が入る都内某所のダンススタジオで、詳しいお話を聞きました。なぜ、小説家とタレントは文学館でライブを続けるのか。文化施設も集客を求められる時代に、柚木麻子with Journal2の3人が“音楽”活動を続ける理由とは。そして、その客席にはどんな景色が広がっているのか。パフォーマンスさながらに息のそろったお三方の思いがあふれる内容を4回に分けてお届けします(今回は3回目)。
「文学館ライブ」をライフワークにしたい
柚木麻子(以下、柚木):友人が森鴎外記念館で働いているんですけど、場所も展示も素晴らしい。だけど、森鴎外って人間として欠点がなさすぎて、どう注目をさせるか、って工夫をしながら企画を考えている。やっぱり娘のはちゃめちゃな森茉莉のほうが人は気にするので。でもいい展示なんですよ。
文学館とか美術館、博物館って、今は「売り上げを上げないと存続が難しい」っていう時代になってきている。だから、文学館で我々がイベントすることで人が来てくれるなら、それはライフワークとして続けていきたい。「一応作家だから、文学だから」っていう肩書きで生きてきた身として、それで少しでも役に立てるならいいなって、ちょっと思った。
朝井リョウ(以下、朝井):「文学館に人が来ない」っていうのは、私にとっても盲点でした。文学館で歌って踊る、ということの不可思議さにばっかり目がいってたけど、そもそも文学館全体として集客が厳しいということには疎かったし、自分が何かできるともあまり思っていなかった。
作家
でか美ちゃん(以下、でか美):そもそも文学館が集客を求められているということ自体、私は知らなかったんです。政治や社会の変化が、こんな身近なところにも影響しているんだなって。文学館とか美術館って「存在していることに意義がある」と思っていたから。そして「人を呼ばなくちゃいけない」時代になっているとしても、自分にできることなんてないと思っていた。でも、たまたまこんなに身近なところで立ち上がる人がいた。「じゃあ私も一緒にやろう」って思えました。
朝井:言論の世界って、とある一つのNGワードによって、あっさり分断が起きちゃったりする。「同じ思想だと思ってたけど、◯◯を✕✕と呼称する人だったなんて」みたいな感じで。でも例えば、世田谷文学館でパフォーマンスをしますってなったら、普段だったら一堂に会しにくそうな考えの違う人たちが、どちらも来てくれたりするんだよね。
でか美:お互いがそんなに近しくない人たちも、柚木さんのパフォーマンスを見るために来てくれている印象がありますね。
タレント・アーティスト・歌手
柚木:意見が違う人も、同じ空間で見てくれるのはすごくありがたいことだなと思う。なんで来てくれるのか考えてみたんだけど、それは、私たちの歌が絶対サブスクには上がらないからなんだよね。商業的な回路には乗らない。
朝井:「目撃しておかなきゃ」の類って、現場に行くしかないもんね。
柚木:朝井さんも最近、『 イン・ザ・メガチャーチ 』(日経BP/日本経済新聞出版)で書いていたよね。資本主義にどう対抗するかというと、自分にしか持てない、資本主義のサイクルからこぼれ落ちた時間を大事にすることなんじゃないかって。サブスクに乗らないんだったら、見たい人は現場に来るしかない。そうなると、普段は分断だらけの社会でも、とりあえず同じ場所で一緒に聴くことになるじゃない。
朝井:音楽の本来の力というか、音楽の持つ原始的な力に指が触れたような気持ちになるとは、ですよ。
柚木:私、音楽的な教養って全然なくて。学ぼうと思ったこともないし、そんなに音楽をたくさん聴く人でもないんです。でも、ハロー!プロジェクトは、インドから、ロシアから、スカから、オールディーズまで、本当にいろんな音楽を取り入れている。50年代から現代までのアメリカ音楽史と政治の結びつきみたいなことを後から学んだときに、「あ、これ全部ハロプロで触れてたんだな」と気づいて。ハロプロって、私に教養を授けてくれていたんだなと思った。
朝井:というように、ひたすらプラスの方向にハロプロにまつわる物事を解釈し続けているのが、私たちの連載なんです。
作家
「人に靴を履かせる」ことの難しさとうれしさ
でか美:ステージ自体も、2人がすごく慣れてきましたよね。私のイベントにも出ていただいていますけど、最初は良くないほうの緊張で、筋肉が固まって声は出づらいし、柚木さんが見たことない目で一点を見つめてたり、動線を間違えたり。でも最近は、「今日もやりますか!」「今日も楽しませますか!」みたいな感じになってきて。私は毎回それを見ていてうれしくなります。
柚木:でか美さんのイベントのバンドの人たちって本当にすごい人たちだよね。音量を上げてくれて、私の歌が下手なのがバレないようにしてくれるってわかってからは、すごくリラックスできるようになった。あと、楽屋でスマホをいじりながら「今日が一番良かったっすよ」ってさらっと言ってくれて。それが一番うれしかった。
朝井:あれ、本当に胸キュンだった。
柚木:そんな楽しいこともいっぱいあって。それは、でか美さんが場を作ってくれているから。私たち2人だけだったら、どうにもならない。昔、2人だけで青山ブックセンターで踊ったときは、みんな固唾をのんで見てたじゃん。
朝井:やっぱりマジックショーとかと同じで、衣装とか照明とかそういう雰囲気で開演前から説明をしておくことが大事なんだなと思った。作家2人が何の前置きもなしにいきなり2分間踊り始めたら、それはショーというより事件。
柚木:今はもう、朝井さんが出てきただけで「キャー!」みたいな感じだけど、あの頃はみんな「え?」って顔してたよね。中学生のお子さんを連れた親子のお客さんとかもいて。お客さんたちも緊張していたし、私たちも緊張してた。でも今はみんなリラックスしてる。それは、でか美さんのおかげです。
でか美さんは、そういう場づくりだけじゃなくて、集客の考え方もすごくしっかりしてる。予定枚数が完売になって「ソールドアウトです」って言おうと思えば言えちゃうんですけど、それはでか美さんの美学に反するんだよね。
でか美:もちろん、ソールドアウトは目指すんです。でも、「完売したから成功」っていう話ではなくて。即日完売するっていうことは、単純にこっちが押さえているキャパを間違えているだけでもあるんですよ。来たい人が来られない状況は作りたくないので、決して完売だけが素晴らしいことではないと思っています。タイミングで押さえられる会場も様々なので、一概には言えないんですけどね……。
朝井:我々はソールドアウトって言葉に即大喜びだけど、その裏で来られなかった人もいるっていうことが、でか美さんには見えてる。
柚木:でか美さんって、本当に全部見えている人だよね。お弁当の数までちゃんとチェックしていて。楽屋のお弁当の話になったときも、「そんなことまで気にしてるんだ」って驚いた。
でか美:私がすごいなと思ったのは、お2人のファンがうちわを作ってきてくれたり、歌い終わった後に列を作ってまで話しかけようとしてくれたりする人がいたことなんです。私みたいなタレントのファンと、作家のファンって客層は全然違うと思っていたんですけど、それでも、みんな何かを熱烈に応援したいっていう気持ちは同じなんだなって。
さすがに作家さんのサイン会にうちわを持っていくのは違うから、今まではやらなかっただけで、そういう場があれば、ちゃんとやってくれるんだって。何かを好きになった気持ちや愛情を発露したいっていう気持ちは、みんな共通なんだなっていうのが、新鮮でした。
柚木:私、日本でサイン会って、ちゃんと本屋さんで椅子に座って、一人でやる形はほとんどなかったんです。でも実は昨日あって。そうすると、一人ひとりの顔がすごく見えて。「あ、この人来てくれてるんだ」とか、「この人、のど自慢にも来てくれた人だ!」とか、わかるんだよね。
朝井:お笑いコンビ「にぼしいわし」の伽説(ときどき)いわしさんの言葉なんですけど、「人に靴を履かせる」ことがいかに難しいかって。コロナ禍を経て、家から出ないでできることが本当に増えましたよね。本だけだと、人に靴を履かせることはやっぱりなかなか難しい。
でも、「作家が歌って踊ります」となったら、本に興味のない友達を誘ってくれたり、初めての人を連れてきてくれたりもする。人生の変な時間って、見る側もやる側も、やっぱり思い出になりますよね。だから、柚木麻子with Journal2の活動は、人に靴を履かせる装置として作家も機能できるということを感じられて、私はすごくうれしいです。靴を履かずに味わえるものも、靴を履かないと目撃できないものも、どちらも本にまつわる出来事として提供できるって貴重だなと思うので。
(第4回に続く)
取材・文/金澤英恵 写真/鈴木愛子 撮影協力/BUZZ新宿4丁目スタジオ









