商業施設「マルイ」「モディ」やエポスカードを中心とした金融サービスなどを展開する丸井グループ。同社では、「共創型コミュニケーション」を生み出す場として「共創HALL」「共創LOUNGE」を2025年秋に開設しました。共創LOUNGEには「ライブラリー」があり、約1600冊の本が置かれ、社員に貸し出しています。ライブラリーの設置・運営に関わる丸井グループの宮地泰人さん、見目(けんもく)貴子さん、杉村真紬子さんにインタビューし、ライブラリーから選んだお薦めの本や、今後の展開について聞きました。
「好き」をビジネスに生かすには
日経BOOKプラス編集部(以下、──) 前回はライブラリーがある共創LOUNGEの成り立ちについて聞きました。今回はみなさんがお薦めする本について教えてください。
丸井グループ 共創投資部 リーダー 見目貴子さん(以下、見目) 私はライブラリーの中にある「私の好きなもの」というジャンルから2冊を紹介します。丸井グループは「『好き』が駆動する経済」という経営ビジョンを掲げており、「好き」は当社にとっても大きなテーマです。
1冊目は『 推し活経済 新しいマーケティングのかたち 』(瀬町奈々美著/リチェンジ)です。こちらは2023年に刊行された本で、著者は当時、立教大学の学生だった瀬町奈々美さん。瀬町さん自身がアニメ、漫画、アイドル、ボーカロイドなどさまざまな推し活に熱心なこともあり、「若者はなぜ推し活をするのか」という背景や現状に加えて、推し活をビジネスに生かす方法や国内外の推し活の事例について詳しく紹介されています。
企業の事例としては、「たべっ子どうぶつ」「北欧、暮らしの道具店」など幅広く取り上げられています。実際に推し活に励んでいる著者が、その背景や行動の理由を深掘りしているため、面白く読めました。「推し活って聞いたことはあるけれど、どういうこと?」と知りたい初心者にお薦めです。推し活をどうマーケティングにつなげるかも具体的に解説されているので、仕事に役立つと思います。
丸井グループ 共創投資部 リーダー
2冊目のお薦め本も推し活に関するものですね。
見目 はい、三宅香帆さんの『 「好き」を言語化する技術 推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない 』(ディスカヴァー携書)です。この本は「推しの素晴らしさを語りたいのに『やばい!』しかでてこない」というサブタイトルが刺さりました。私も言語化が苦手で、なかなか言葉がうまく出てこなくて…でも、「自分が感じたポジティブ、ネガティブな感情を、一言で片づけずにいったん立ち止まって細分化し言葉にしていくことで、その人独自の感想が出来上がる」というように説明されていて、私にも実践できる気がして救われました。「好き」だけではなく、いろんな対象を言語化するときに応用できると思います。
言語化は仕事でも求められますね。
見目 そのとおりです。チーム内でミーティングをしたり社外の人と話したりする機会が多いので、そうしたときに「この企画のポイントはどこか」「良い点を深掘りするとどうなるか」などと考え、自分なりの言葉にするようになりました。ありきたりな言葉で表現すると伝わらないので、気をつけています。
それからこの本には、「相手の情報量とのギャップを埋める工夫をするといい」とも書かれています。私も「相手はこの情報を知らないかも」「興味がないかも」「この部分は反応してくれそう」と事前に想像してから話すようになりました。言語化だけではなく、「伝え方」にも役立つ技術も多く紹介されています。
なるほど。先ほど「好き」が丸井グループのテーマだという話がありましたが、どういうことですか。
見目 先にも触れましたが、丸井グループの経営ビジョンは「『好き』が駆動する経済」です。そのビジョンを実現するための戦略として「『好き』を応援するビジネス」を推進しています。さまざまな漫画、アニメ、アーティストなどとコラボレーションし、クレジットカード、イベント、グッズ事業を展開しています。また、ペットやスポーツなど、社員一人ひとりの「好き」を起点とした新たな取り組みも生まれています。丸井グループでは、そうした「好き」を事業の可能性につなげていくことを大切にしています。
丸井グループ 不動産・建築部 企画・開発課 リーダー 杉村真紬子さん(以下、杉村) 単純に「好き」を応援するだけではなく、その「好き」を生かし、社会に貢献するビジネスをすることが目的です。
エポスカードでは、お客様の「好き」を応援するさまざまなカードを展開しています。例えば「ミュージアム エポスカード」では、ご利用を通じて美術館・博物館の支援につながる仕組みがあります。日常的な消費行動を通じて、意識せずとも誰かのため、社会のためになることをしている。一人ひとりの「好き」を応援し、それによって社会にインパクトを与え、利益と両立していくビジネスモデルを目指しています。
丸井グループ 不動産・建築部 企画・開発課 リーダー
成長には「変化」が必要
次に、宮地さんのお薦めの本を教えてください。
丸井グループ 人事部ワーキングインクルージョン推進担当 宮地泰人さん(以下、宮地) 丸井グループは企業理念で「人の成長=企業の成長」と掲げています。人の成長に何が必要かというと、「変化」だと思っています。ポケットモンスターのヒトカゲもリザード、リザードンと変化するとステータスが変わって、強くなりますよね。
ただ、人は変化を嫌がる生き物です。「安全なところにいたい」のは生存本能なので仕方がないのですが、それではいつまでたっても変化しません。変化とまではいかなくても、ちょっと試すぐらいのことはしてみたい。「うまくいきそうだ」と思えば続ければいいし、「失敗しそうだ」と思えば撤退をすればいい。
丸井グループ 人事部ワーキングインクルージョン推進担当
私が担当する障がい者雇用においても、成長や自己実現を支援するのが自分の役割だと考えています。ただ、業務に取り組む中で、悩みや迷いで気持ちが入らない場面もありました。そのときに勇気をもらった本として、今回は3冊を紹介したいと思います。
1冊目は何でしょうか。
宮地 『 仕事は楽しいかね?[新版] 』(デイル・ドーテン著/野津智子訳/英治出版)です。こちらは25年前にベストセラーになった『仕事は楽しいかね?』に加筆修正し、新訳で復刊された新版です。カバーに「試してみることに失敗はない」と書かれていて、私が日々大事にしていることと近いため、思わずライブラリーから手に取りました。
この本では、主人公が吹雪で空港に足止めされて腐っていたところ、謎めいた老人と出会い、「成功のための戦略」について一晩の講義を受けます。あまり言うとネタバレになるので控えますが、「まずは挑戦するんだ」と背中を押してもらえるストーリーです。普通は挑戦よりも先に「目標を立てること」が大事だと思いがちですが、そうではないと気づかされます。私自身も仕事で悩んでいたときに読み、自分をポジティブに変化させることができた1冊です。
宮地さんにとってタイムリーな1冊だったのですね。
宮地 はい。2冊目は『 戦略的暇 人生を変える「新しい休み方」 』(森下彰大著/飛鳥新社)です。こちらは意識して暇な時間、空いている時間を作ることで、自分自身のパフォーマンスを上げようと説いています。
そのために必要なステップは3つです。第1段階はデジタルデトックス。デジタルから離れて、回復するための時間を作る。第2段階はタイパ・コスパに追われるのをやめる。第3段階は凝り固まった自分を解き放ち、自分デトックスをする。
今はデジタル技術が発達していて、どうしても、1つのことに時間をかけるよりも「短時間でパフォーマンスを出すことが正義」と考えがちです。個人的には「そうじゃないよな」と思っていたので、この本が答えを提示してくれたように感じました。
また、この本では、デジタルデトックスをして空いた時間で「他人と会話をして自分を知ろう」と提案しています。これは丸井グループが「対話」を大事にしている姿勢と通じます。デジタル社会でAI(人工知能)を使っていると、自分の興味がある話題ばかりが都合良く集まってきます。どんどん自分の視野が狭くなり、「自分はこの分野に詳しい」とエゴも強くなる。でも、他人と対話をすることで、「世の中には自分の知らないことがある」「自分の知らない好きがある」と気づけるはずです。
ライブラリーでこの本を見つけ、私自身も多くの気づきと学びを得られました。
空いた時間で人と対話するのが大事だということですね。3冊目は何でしょうか。
宮地 大ヒット漫画の『 宇宙兄弟 』(小山宙哉著/講談社。リンクは1巻)です。このライブラリーで最も借りられている本でもあります。私は大学生のころからこの漫画のファンなので、多くの社員に愛されていてうれしいですね。
この物語には、チームワーク、困難への向き合い方、コミュニケーションの取り方など、成長に必要なことがたくさん書かれています。主人公が宇宙飛行士を目指すストーリー自体が面白いのはもちろんですが、それに夢中になっていると、「こういう考え方もあるんだ」「コミュニケーションは、ここに注意すればもっと円滑になるんだ」などと、忘れたころにためになるメッセージがやって来ます。
同じく愛読者の友人に聞いてみると、どの言葉が響くかは人それぞれのようですが、面白いだけではなく、学びが多い本ですね。先に紹介した2冊とは違って漫画なので、読みやすい。普段は本を読まない人にもお薦めです。
特にハッとさせられたエピソードはありますか。
宮地 数え切れないぐらいあるのですが、1つ例を挙げると、2巻の「情をはさむなってんなら パソコンにでも決めさせりゃいい」という言葉です。主人公がJAXA(宇宙航空研究開発機構)の選抜試験を受けたとき、ある面接官が主人公を落とそうとします。それに対し、副部長が主人公を推薦すると、その面接官は「私情をはさまないでいただきたい」と反論。それに対し、副部長が上記の言葉を言い放ちます。結局、その人と一緒に働きたいかどうかは情の部分なんだ、と心に響きました。
名言ですね。みなさんからお薦めの本を教えてもらいましたが、ライブラリーはこの先、本を入れ換える予定はあるのですか。
杉村 社員が自由に本を入れ換えることができる「社員が育てる本棚」とすることも考えていますが、ブックディレクターの幅允孝(はば・よしたか)様が本当に一冊一冊丁寧に選んでくださったので(前編 「丸井グループ 社員との対話で厳選した1600冊が並ぶ『ライブラリー』」 参照)、変更する際は、まずは改めて幅様に相談することを検討しています。
見目 私は「共創LOUNGEプロジェクト」という社内プロジェクトに参加しているのですが、そちらでは共創LOUNGEで読書会を開催しました。そのときは幅様をお呼びし、「1600冊の本棚に隠された物語」というテーマで、ライブラリーから10冊程度を紹介していただきました。社員への事前アンケートでは「本を読む習慣がない」「どういう本を選んだらいいのか分からない」という声があったので、幅様のお薦め本を紹介してもらって役立ったようです。
杉村 読書会は、社員同士の新たな対話を生み出すきっかけにもなりうると感じています。今後も継続的に企画していきたいですね。
取材・文/三浦香代子 写真/品田裕美






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