商業施設「マルイ」「モディ」やエポスカードを中心とした金融サービスなどを展開する丸井グループは、「共創型コミュニケーション」を生み出す場として「共創HALL」「共創LOUNGE」を2025年秋に開設しました。共創LOUNGEの中には「ライブラリー」があり、社員が本を貸し出せるようになっています。ライブラリーの設置の狙いや運営方法、貸し出しが多い本などについて、丸井グループの宮地泰人さん、見目(けんもく)貴子さん、杉村真紬子さんに聞きました。

「手挙げ」と「対話」が企業文化

日経BOOKプラス編集部(以下、──) 今回は丸井グループが2025年秋に開設した「共創LOUNGE」の中にある「ライブラリー」についてお話をうかがいます。まずはみなさんのお仕事について教えてください。

丸井グループ 人事部ワーキングインクルージョン推進担当 宮地泰人さん(以下、宮地) 私は障がい者雇用を担当しています。具体的には、障害のある方の採用と育成、人事制度作りを行っています。また、部内の業務改善のため、ローコードツールを使ってアプリを作ることもあります。

共創LOUNGEにはどのように関わったのですか。

宮地 部内の業務改善に取り組んでいたところ、その活動を評価していただき、本社改修に関わるメンバーから「共創LOUNGEで活用するアプリを一緒に作れないか」と相談を受けました。そこからライブラリー貸出アプリの構想が始まり、共創LOUNGEに設置された端末で利用されているアプリの設計・開発に携わりました。

宮地泰人(みやち・たいと)
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宮地泰人(みやち・たいと)
丸井グループ 人事部ワーキングインクルージョン推進担当
2023年に丸井グループへ入社し、人事部ワーキングインクルージョン推進担当に配属。障がいのある方の採用や育成、人事制度構築を担当。業務改善活動にも取り組み、ローコードツールを活用したアプリ開発を手掛ける。

丸井グループ 共創投資部 リーダー 見目貴子さん(以下、見目) 私は普段、スタートアップ企業をはじめ、さまざまな企業と対話し、共創による新たな事業づくりを推進しています。

 この「共創LOUNGEプロジェクト」にも所属し、共創LOUNGEをより社員に知ってもらい、活用してもらうためのイベントの開催や、「縁側LABO」という展示スペースのスケジューリングや社員への企画依頼などをしています。

見目貴子(けんもく・きこ)
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見目貴子(けんもく・きこ)
丸井グループ 共創投資部 リーダー
2019年に新卒で入社。店舗での売場運営、グループ会社のエイムクリエイツにて総務・人事および企画業務を経て、現在は共創投資部に所属。他社との共創による新たな事業創出に取り組む。

丸井グループ 不動産・建築部 企画・開発課 リーダー 杉村真紬子さん(以下、杉村) 私は主にオフィスの改修、就業拠点のあり方を企画・検討する部署にいます。直近では本社9階の共創LOUNGE、3階の共創HALLの運用を担当しました。今は次に改修するフロアや本社以外の物件、就業拠点のあり方も検討しています。

なぜ、共創LOUNGEや共創HALLが作られたのですか。

杉村 当社では「対話の文化」を重視し、社員だけではなく、お客様や株主とも対話をしながら共創の活動をしています。そうした中で、社内外の人が集い、プロジェクト活動や共創を生み出す場として、共創LOUNGEと共創HALLを設置しました。監修は、丸井グループのデザイン監修を手掛けるデザインオフィスのnendo様にお願いしました。

 共創HALLがある3階は、もともと大人数で会議や研修を行うホール空間でした。それを今の会社の方向性や人的資本経営の観点から、社員が働きやすく、コミュニケーションが取れる場所に変えていこう、と。対話がしやすいように、距離感を縮めた施設になりました。

 共創LOUNGEがある9階も、以前はごく普通の執務室でした。現在はここで、インターンで来ている学生向けのイベントや、プロジェクト活動、社員発のオフサイトイベントなどを開催しています。社外の人もここで仕事をすることがあり、偶発的な出会いを含め、共創ができる空間になっています。

杉村真紬子(すぎむら・まゆこ)
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杉村真紬子(すぎむら・まゆこ)
丸井グループ 不動産・建築部 企画・開発課 リーダー
2022年に新卒で丸井グループへ入社し、有楽町マルイに配属。営業担当としてテナントリレーションやリーシング業務に従事する。その後、営業店でのイベント開発や運営業務を担当。現在は不動産・建築部にて、本社をはじめとする就業拠点の企画・開発を担当し、働く場のあり方を検討している。新たな場作りの提案や運用設計を通じて、社員がより働きやすい環境作りに取り組んでいる。

「対話の文化」を重視されているとのことですが、どんな人材を求めていますか。

杉村 当社で一番特徴的なのは「手挙げ」と「対話」です。見目さんも手挙げで「共創LOUNGEプロジェクト」に参加したんですよね。異動や昇進も手挙げが基になっていますし、月1回の中期経営推進会議も、役職に関係なく、手を挙げて、小論文を書いて合格したら参加できます。

 対話も重視していて、お客様だけではなく、社員同士もしっかりと対話をして、意見を引き出し合いながらいいものを作る。そこからイノベーションが生まれると考えています。

社員との対話で選ばれた10テーマ、1600冊の本

共創空間ができた経緯が分かりました。共創LOUNGEにはあちこちに本が置かれていますが、もともとライブラリースペースを作る予定だったのですか。

杉村 きっかけは、nendo様から本社の各執務フロアにある休憩スペース「レストポケット」の改修にあたりご提案いただいたアイデアの1つです。提案の中にはライブラリー空間の構想も含まれていましたが、レストポケットへの設置ではなく、その要素を共創LOUNGEに取り入れることにしました。社員がさまざまな知と出会い、それらが掛け合わされることで、新たな対話や共創が生まれる場になればと考えています。

対話を生み出すツールは動画などいろいろあると思います。なぜ、あえて「本」を選ばれたのですか。

杉村 「新たな知との偶発的な出会い」を重視しているからです。仕事に直結する勉強をするための本だけではなく、デザインの本や料理の本なども置くことで、いろいろなものとの偶然の出会いが期待できます。

共創LOUNGE内にあるライブラリー。壁面にある大きな本棚のほか、共創LOUNGE内の各所に本が配置されている
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共創LOUNGE内にあるライブラリー。壁面にある大きな本棚のほか、共創LOUNGE内の各所に本が配置されている
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共創LOUNGE内にあるライブラリー。壁面にある大きな本棚のほか、共創LOUNGE内の各所に本が配置されている
共創LOUNGE内にあるライブラリー。壁面にある大きな本棚のほか、共創LOUNGE内の各所に本が配置されている
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ライブラリーに置く本はどうやって選んだのですか。

杉村 ブックディレクターの幅允孝(はば・よしたか)様にお願いしました。事前に共創LOUNGEの意義やコンセプト、丸井グループの経営理念などをお伝えし、幅様にお任せして選んでいただきました。

 幅様は、若手社員から役員まで計40名弱が参加する会合を5~6名ずつの少人数で複数回開催しました。テーブルに並べられた約100冊の本の中から、それぞれがお気に入りの1冊を選び、その理由を共有。そこで得られた声をもとに、共創LOUNGEのために約1600冊の本を選定してくださいました。

 それらの本は10のテーマに分かれていて、1「過去に学び、未来を創る」、2「経済とテクノロジー」、3「よりよい社会を目指して」、4「科学の視点」、5「心と体を整える」、6「食と暮らし」、7「私の好きなもの」、8「言葉と物語」、9「美しいものを探して」、10「自然と人」となっており、テーマごとに棚に並べています。

本はテーマごとに並べられている。写真上は「経済とテクノロジー」、下は「美しいものを探して」の棚
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本はテーマごとに並べられている。写真上は「経済とテクノロジー」、下は「美しいものを探して」の棚
本はテーマごとに並べられている。写真上は「経済とテクノロジー」、下は「美しいものを探して」の棚
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本は借りられるんですよね。

杉村 はい。全社員が貸し出しアプリを使えます。最初はアプリで無人運営にするか、総務課などを巻き込んで有人運営にするかで意見が割れました。

 かなり高価な本もあるので、「社員の性善説だけで貸し出し・返却のサイクルが成り立つのか」と。また、幅様が、「この並び順に意味がある」と、本の陳列の細かなところまで気を配ってくださったのに、それを社員が貸し出し・返却することで並び順が崩れてしまっていいのかも議論しました。結局、無人運営とすることになり、宮地さんにいろんなわがままを言って、アプリを作ってもらいました。

宮地 最初は「本の貸し出しができるアプリを」と聞いていたので、そんなに難しくないなと思ったのですが、聞けば聞くほど「本の置き方にもこだわりたい」「今の本の並び順通りに返却させたい」と、みなさんの思いがあふれてきて。図書館の本であれば背表紙にラベルを貼りますが、「本のデザインを損ねるので何も貼りたくない」ということになりました。さらに、「返却確認をするために人を置きたくない」という条件もあって、結構、難しいオーダーでしたね(笑)。

 アプリの開発過程で繰り返しフィードバックをもらい、通常よりも時間をかけることで、みなさんの思いと目指す運用形態に近い形に完成できたと思います。

ライブラリーには合計で約1600冊の本が置かれている
ライブラリーには合計で約1600冊の本が置かれている
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大変な苦労があったんですね。本の貸し出しはどのような仕組みになっているのですか。

杉村 最大で1人1回2冊、貸し出し期間は20日間までです。2025年10月のオープン以来、だいたい月に40冊ぐらいの貸し出しがあります。一番読まれているのが『 宇宙兄弟 』(小山宙哉著/講談社。リンクは1巻)の4巻。3巻、5巻も上位にランキングしています。2026年7月に完結したので、読み直す人が多いのかもしれません。

 そのほかは『 好きを言語化する技術 推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない 』(三宅香帆著/ディスカヴァー携書)、『 歴史とは何か 新版 』(E.H.カー著/近藤和彦訳/岩波書店)などもよく読まれています。

 無人運営なので気軽に借りられますし、アプリの検索画面で「こんな本があるんだ」と書影を目にして借りる人も多いようです。

共創LOUNGEでは随時、ミーティングやイベントが開かれている
共創LOUNGEでは随時、ミーティングやイベントが開かれている
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共創LOUNGEには「縁側GREEN」があり、社員がリラックスして休憩することができる
共創LOUNGEには「縁側GREEN」があり、社員がリラックスして休憩することができる
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(後編に続く)

取材・文/三浦香代子 写真/品田裕美