わが子が「いじめ」や「からかい」の対象になっていると知ったとき、親は強い怒りや不安を覚えるものです。すぐに助けたい――その気持ちは自然ですが、過度な介入が子どもの自立心を奪うこともあります。「米国で最も人気の精神科医」と称されるエイメン医師と、40年以上の臨床経験のあるフェイ心理学博士の新刊『メンタルが強い子に育てる 「自走できる子」になる脳科学と心理学の最新成果』(鹿田昌美訳/日本経済新聞出版)より、親が「救済者」になりすぎないための考え方と、子ども自身が対処する力の育み方を解説します。

親はどこまで介入すべきか

 わが子が「いじめ」や「からかい」の標的になっていると気づいたときほど、親が動揺し、腹が立つことはない。思わず助けたくなる気持ちはわかるが、虐待や暴行にエスカレートしていない限り、親がすぐに介入するのは賢明なアプローチとは言えない。

 先日、著者のフェイ博士は、スクールバスで小さな男の子が首を絞められ、殴られているニュース映像を見た。加害者は被害者よりもずっと年上で、体も大きかった。ニュース解説者はこれを「いじめ」と呼び続けたが、これは虐待だし、暴行だ。虐待と暴行はどちらも違法であり、親は法的措置を考えるレベルで関与していい。

 しかしそうは言っても、からかわれたりいじめられたりしている子どもが、「人と衝突したり虐待されたりすれば、いつも誰かが助けてくれる」と考えてしまうのは少し問題だ。これは、スティーブン・カープマン医師が提唱する「ドラマトライアングル」[人間関係を迫害者・犠牲者・救済者という3つの役割にあてはめて捉える心理学の考え方]が慢性的に続く場合に起こる。

 この力学によって、虐待されている人が常に「被害者」の役割を引き受けてしまう状況が生まれる。被害者でいるほうが、危機を予防・解決するために自発的に行動するより、多くの注目と同情を集められるからだ。そうなると役割が逆転し、被害者が望む救助を行わなかったとして救助者を批判したり、権利意識を取り戻した被害者がいじめっ子に対して攻撃したりすることがある。これもまた、実際に起きてほしくない厄介なドラマである。

 著者のフェイ博士は、子どもの場合、この「ドラマトライアングル」の有害なパターンを回避・脱出する最も手っ取り早い方法は、「被害者が被害者の役割を感情的に引き受けるのを回避するか、最小限に抑えるように励ますこと」だと気づいた。

 つまり、子どもに状況に対処する方法を学ばせるということだ。前向きな自己表現やユーモア、落ち着きを持って対応することで、いじめっ子にとって、狙いやすく魅力的なターゲットではないことを証明するのだ。

 親が頻繁に救済者を演じていると、子どもから大切なことを奪ってしまいかねない。私たちが救済者になると、子どもはおのずと被害者の立場に置かれてしまうからだ。お子さんが明らかに感情・身体面で危険にさらされていない限り、少し苦労させて、生涯役に立つスキルを学ばせたほうがいい。自分の力でうまく対処できたときの喜びは計り知れないし、それによって自尊心も高まるからだ。いじめやからかいは子どもが大きくなってもなくならない。

親が頻繁に救済者の役割を演じていると、子どもから大切なことを奪ってしまいかねない(写真:lalalululala/stock.adobe.com)
親が頻繁に救済者の役割を演じていると、子どもから大切なことを奪ってしまいかねない(写真:lalalululala/stock.adobe.com)
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 ほとんどの人は、大人になってからもいじめを目撃したり、いじめに遭ったりしたことがあるはずだ。以下に、すべての年齢の子どもに役立つポイントをいくつか挙げる。

「いじめ」と「意見の不一致」の違いを教える

 小さな意見の不一致をいじめだと誤解する場合がある。例を見てみよう。

  • 小学2年生の生徒が泣きながら学校の事務室に来て「いじめられている」と報告した。何があったのかと尋ねると、その生徒はこう答えた。「エマが私の靴が好きではないと言ったの」
  • ある中学生は、クラスメートから自分の好きなスポーツ選手をけなされ、いじめられたと両親に話した。

 意見の相違は、必ずしも「いじめ」ではない。このことを説明するために、「誰もが、感情メーターを持っている」と伝えてもいいだろう。「感情メーター」とは、自分と意見が合わないときに反応を制御すための心の装置のことだ。

 目盛りがはじめから高く設定されている人、つまり、ほんの小さな意見の相違で腹を立てる人もいる。そういう人は、「あなたのシャツの色が気に入らない」と言われたら、「感情メーター」が大きく振れて1日が台無しになる。このタイプの人は落ち込むことが多い。一方、目盛りが中程度か低い設定の人もいる。彼らはたいていの場合、幸せな気分だ。誰かが自分の意見に反対することを言ってもあまり気にせず、さっと流して、気分良く過ごす。

 効果的なアプローチは、お子さんにこう教えることだ。

 「いじめっ子に繰り返し狙われる可能性を減らすには、いじめっ子の言葉に動揺していないことを示すか、少なくともそのふりをすること」

 お子さんに、「感情メーター」が作動し、動揺や怒りを言動で示すとどうなるかを説明させてから、こう尋ねよう。「それをやったら、いじめられる可能性は高くなる? それとも低くなる?」

 多くの子どもは、いじめっ子は感情的になりやすい相手をいじめるのが好きだと、即答する。いじめっ子が他人に感情的な苦痛を与えることでパワーを得ていることを、直感的に理解しているのだ。お子さんがこれを理解しづらいときは、「感情的に反応するのは、いじめっ子にご褒美を差し出すようなものだよ」と優しく説明しよう。

 ある小学2年生のクラスの出来事を紹介しよう。担任のメネンデス先生はこのことを理解していたので、クラスの子どもたちに、意地悪なことを言われても冷静に振る舞う方法を教えた。また、「感情メーター」が作動し始めたと感じたときに、冷静で落ち着いたふりをするトレーニングも行った。先生はこれを「冷静さのパワーを手に入れるため」と説明した。

 メネンデス先生の教え子のマニー少年は、廊下で何人かの上級生から、ほぼ毎日、「お前のママは○○だ、お前のママを○○で見かけた」と、からかわれていた。「冷静さのパワー」を学習したマニーは、怒ったりイライラしたりするのをやめ、笑ってこう答えるようになった。

 「そうだよ。僕はママに、そんなことはやめなよって言っているんだけど、言うことを聞かないんだ」

 ほどなく、いじめっ子たちはマニーを怒らせることはできないと気づき、「冷静さのパワー」を持たない他のターゲットを探し始めた。

それでも「いじめ」が続く時は行動を起こそう

 介入が必要なタイミングについては明確な答えを示すことが難しいが、一般的に次の2つの原則が当てはまる。

  1. 虐待や暴行が起きているなら、止めるために手を尽くす。
  2. いじめやからかいが見られる場合は、できるだけ大人の手を借りずに解決するように助言し、子どもたちだけで解決できなければ介入する。

 お子さんをいじめから救い出す必要があるときは、親が学校関係者に呼びかけて、お子さんの力になろう。経緯を記録し、問題解決に向けてどんなサポートをしたかを、面談や電話で詳しく説明するというフォローアップも大切だ。いじめが子どもの努力だけでは解決できず、エスカレートした場合は、親が介入しよう。

精神科医でベストセラー作家と、学校や精神科で長年現場に立ち続けてきた心理学博士の2人が、25万件以上の脳画像から得られた知見と40年以上の臨床経験をもとに、「子どもの折れない心」の鍛え方を、脳科学と心理学の両面から分かりやすく説きます。

ダニエル・エイメン、チャールズ・フェイ著/鹿田昌美訳/日本経済新聞出版/2640円(税込み)