経済キャスターの瀧口友里奈氏が編著者を務めた『東大教授の超未来予測』の出版を記念したトークセッションが開催されました。その内容の一部をお届けします。今回は教授たちが未来を展望。未来にかなえたい夢のテクノロジー、そしてテクノロジーが進化しても変わらず価値を発揮し続けるものとは一体何でしょうか。
細胞でコンピューターを作る
瀧口友里奈(経済キャスター。以下、瀧口) 今回は未来に目を向け、今後実現してほしい夢のテクノロジーや将来価値が上がりそうなものについて考えます。まず夢のテクノロジーについてですが、池内先生は「生き物でできたコンピューター」を挙げていらっしゃいます。どういうことなのでしょう。
池内与志穂(東京大学生産技術研究所教授。以下、池内) 今や細胞やDNAに新しい計算機能を持たせることができるようになってきています。これはAI(人工知能)、量子コンピューター、核融合の先に実現したい夢のテクノロジーだと考えています。
私はiPS細胞を培養して3次元の「脳っぽいもの」を作っていまして、これを「脳オルガノイド」と言います。今、世界中の研究室やスタートアップで、この脳オルガノイドをコンピューターとして活用していこうという取り組みが進んでいます。

瀧口 脳を模した3次元の組織が脳オルガノイドで、それ自体をコンピューターのプロセッサーとして使うということですね。すでにあるCPU(中央演算処理装置)やGPU(画像処理半導体)、開発が進んでいるQPU(量子演算ユニット)の後に、脳オルガノイドが続く、そういった未来を描かれている。
池内 はい、BPU(Brain Processing Unit)と呼んでいます。不思議なことに、培養した脳オルガノイドには、神経細胞やグリア細胞といったものが、本物の脳の中と同じように、層になったり互いにつながり合ったりしています。遺伝子が勝手に脳を作るようなこのパワーが、すでにどこかにちゃんと入っているんですね。ですので、それをうまく「できる子ども」に育てられれば、計算処理もできるようになると考えています。まだ道のりは長いのですが、培養技術も発展していますので、いずれ細胞からBPUが生まれるのではないかと信じています。
合田圭介(東京大学大学院理学系研究科教授) コンピューティングはある程度模倣できると思うのですが、ストレージはどうなんですか。
池内 脳オルガノイドは、ソフトとハードや、メモリーとプロセッサーが分かれているわけではなく混然一体となっていて、波なのか粒なのかもよく分かっていないところがあります。この不思議さは、まさにこれから研究によって解明されていくと思います。
脳オルガノイドは今後、身体性を持つロボットに使うこともできます。その時には別に人の感覚でなくても、犬の嗅覚を付けるとかコウモリの超音波センサーを付けることもできます。また脳オルガノイドはバイオと親和性があるので、DNAなどまったく違う媒体とつなげると、全然違うものを生み出す可能性もあると思います。
江崎浩(東京大学大学院情報理工学系研究科教授。以下、江崎) 既存のコンピューターは莫大なエネルギーを消費して、エネルギー効率が非常に悪い。一方、脳はもともと、ものすごくエネルギー効率が高いんです。AIが身体性を持つようになった今、脳の活動以外の部分もコンピューティングとして定義すると、脳オルガノイドによって、非常にエネルギー効率の高いコンピューターが将来誕生するということです。
デジタル化が進んで価値が出るのは日本文化
瀧口 次に「10年後に価値が上がるもの」について考えていきます。私自身、大学院でケアの倫理について研究していたので、野村先生の「人間に世話をしてもらうことがぜいたくになる」という指摘は興味深いです。
野村泰紀(カリフォルニア大学バークレー校教授、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構連携研究員) 少し皮肉が入っているかもしれませんが、「人間から面倒をみてもらえる人たち」というのは今後、富裕層に限られていくと思っています。よくAIを使って孤独を解決するとか、AIロボが介助もやってくれるとか言われます。確かにそうした分野では、人間がやっていたことの8~9割のクオリティーをAIで実現できるようになっています。そうなると、人の手がかからない分、コストの面から見ても、普通の人はAIによるケアを受け入れて使っていくことになり、本当に微妙なこともできる人間に面倒をみてもらえるような人は限られていくと思います。
瀧口 人間によるケアの価値がもう少し再評価されるべきだと思いますね。江崎先生は「日本文化」が将来価値の上がるものだと指摘されています。
江崎 この間、伊藤穣一君(千葉工業大学学長)から「日本は文明・文化の果てのとこにある」ということを教えてもらいました。どういうことかというと、新しい文化や文明は多くが「西」から伝わるという考え方があって、日本はちょうど文化が至る所から入ってくるデッドエンドになっていると。日本は「文化の楽園」らしいです。地理的には海に囲まれていて、外国に占領されたことも一度だけ。同じように海で囲まれているアメリカと比較してもまったく異なっていて、とても面白いユニークな文化が育まれているのが日本であると。
僕は個人情報保護法が大嫌いでしたが、実はあの法律ができたおかげで、世界中から日本にデータが集まるようになったのです。世界の他の国では、データを政府が見る仕組みがあってそれで運用していますが、日本はいまだにそういう仕組みがなく、データがきちんと保護されています。それはおそらく「プライバシーを守る」ということが日本の文化として浸透しているからではないかと思うのです。そういう意味で、ユニークな特徴を持つ日本文化というのは、今後デジタル化が進んでも、相当価値が出るのではないかと考えます。

加藤真平(東京大学大学院工学系研究科特任准教授) となると、日本に投資をしてる人は大きなリターンが得られるかもしれないですね。もちろん、他の先生方が挙げられたものも全部そうで、これらに投資すれば10年後に価値が出そうですね。
瀧口 そうですね。皆様、本日はありがとうございました。
文/橋口いずみ 写真/鈴木愛子
