カッコよくて、美しい。ユニークで表現力が豊か。モデルとして、タレントとして、そして女優としても活躍している滝沢カレンさん。手に取った本は大量でありながら、人とはちょっと違う読書スタイル。幼い頃から何度も読んだファンタジー小説の話を聞きました。
物語の主人公と大冒険をした夏の記憶
前回の記事で紹介した、さくらももこさんのエッセーと同じくらい、私にとっては最上級の出会いとなった1冊が、 『霧のむこうのふしぎな町』 (柏葉幸子作、講談社青い鳥文庫)です。
小学6年生の女の子・リナが、夏休みにお父さんから聞いた「霧の谷」という町へ一人旅に出るファンタジー小説です。リナは、一風変わった住人たちと交流しながらひと夏を過ごし、成長して、家へと帰って行きます。
小さい頃から、「暗闇を抜けたら新しい世界があった」とか「空を飛んで着地したら風景が一変していた」とか、何かのアクションがきっかけで世界が変わる、みたいな設定がめちゃくちゃ好きだった私は、もう自分自身が完全にリナと同化して、「霧の谷」にいる気持ちになって、夢中で読み進めました。
読み終わった時、大冒険を終えてリナと共に成長したような気がして、おばあちゃんに近づいて行ってお手伝いなんかしちゃったのを覚えています(笑)。現実は、毎日バレエのレッスンがあって、どこにも出かけられなかったんですけど。
あまりにこの本が好きすぎて、誰かと語り合いたいのに、周りに読んでいる人がいなくて、しかも薦めたのに読んでくれなかったりして、「なんで? これを読まないなんて、人生楽しくないよ!?」って薦めた相手を責めたこともありました(笑)。
さらに、私の中で、当時ハマっていた映画『チキ・チキ・バン・バン』と、この『霧のむこうのふしぎな町』の世界が結びついて、より壮大な物語になっていって。読んでいる最中も、読み終わってからも、毎日夢の中で、「霧の谷」での日々を過ごしていたほどでした。
でも、だからといってファンタジー小説が好きというわけではないんです。
本当はファンタジーは苦手
というのも、私は、現実とフィクションへの向き合い方が極端で、ゼロか100か、みたいなところがあって。物語の途中で中途半端に現実に戻されたりすると、もうそこで読めなくなってしまう。絵本ならいいんですけど、文字だけのときは特にそうで、「え?」って戸惑ってしまうんです。
そんな私が唯一、最後まで一気に読めたファンタジー小説が、『霧のむこうのふしぎな町』なんです。挿絵がたくさんあって、絵本感覚で読めたのもよかったのかもしれません。
そして、『霧のむこうのふしぎな町』って、スタジオジブリの映画『千と千尋の神隠し』にも影響を与えた作品なんですよね。当然ながら私も映画館に7回見に行ったほどドハマりしました。
ジブリの作品は、私を現実に一回も戻させない。私の手をぐっと引っ張って、ずーっとファンタジーの世界で遊ばせてくれて、終わったら「さあ現実世界にかえりなさい」と手を離すんです。だから入り込める。
逆に、ノンフィクションやドキュメンタリーは読めるんです。完全な実話だから。さくらももこさんのエッセーも、言ってみれば実話ですよね。信じていい。
「1+1」は誰にとっても明らかに「2」ですよね。でも「ありがとう+ごめんね」の答えは、人それぞれじゃないですか。感情だから。私は、物語の中で、その答えが自分の思う答えと違ったときに「私はこうは思わないな」って引っかかっちゃうんですよね。
だから、本は好きでこれまでもたくさん手に取ってきたんですけど、最後まで通して読むことができた本は実はあまりなくて。本の取材依頼があっても1冊を語れないので、マネジャーさんがいつも困っています(笑)。
取材・文/剣持亜弥 スタイリスト/兵藤千尋 ヘアメイク/沼田真実 写真/中川容邦 構成/平島綾子(日経エンタテインメント!編集部)
衣装協力/ニット2万6400円、パンツ3万5200円(チノ/モールド)、ピアス2万2000円(イー・エム/イー・エム アオヤマ)