圧巻のカッコよさと美しさで魅せるモデルとして、ユニークな視点と表現力で見る者を魅了するタレントとして、そして最近は映画や舞台、執筆活動でも伸び伸びと才能を発揮している滝沢カレンさん。その読書遍歴は、手に取った本は大量でありながら、人とはちょっと違う道をたどっています。幼い頃から何度も読んだ名作エッセーへの愛を語ってもらいました。
ボロボロになるほど読み返しているシリーズ
『もものかんづめ』 (さくらももこ著/集英社文庫)をはじめとするさくらももこさんのエッセーは、今までも、これからも、一番好きな本です。この先も、これ以上私を笑わせ、優しい気持ちにさせ、好きだと思わせてくれる本は、現れないと断言できる。それくらい大大大大大好きなシリーズです。
幼い頃、テレビの視聴に厳しかった我が家で、見てもいいとされていた数少ない番組の1つが、さくらももこさん原作のアニメ『ちびまる子ちゃん』でした。
うちは、お母さんは外に働きに出て、おばあちゃんは家にいて、おじいちゃんは外出がちで夕飯も外で済ませることが多い人だったので、まる子ちゃんちの、おじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、お母さん、お姉ちゃんとまる子ちゃんの6人でちゃぶ台を囲んでいる「家族のだんらん」シーンに、憧れの気持ちがあったんですよね。そこに自分の第二の家族がいるような感覚で、テレビの画面を見ていました。
アニメでファンになって、雑誌『りぼん』で漫画も読んで。そして、さくらさんのエッセーを読むようになりました。
でも、もともと私は、本が苦手で全然読めない子だったんですよ。小さい字が並んでいるのを見るだけで、もう疲れて、飽きちゃうんですよね。遊びに行きたいなーって思ってしまう。それで、家族が「この本なら読めるんじゃない」って薦めてくれたのが、『もものかんづめ』でした。「こんな本があるの!?」って思いました。
私、小さい頃から字を書くのは好きで、字を書いた紙をホチキスで留めて、本みたいなものをよく作っていたんです。
でも、本物の本っていうのは、頭のいい人たちが難しい文章をきれいな字で書いて――当時は、本の文字は印刷ではなく、著者が全部手書きしていると信じていたので(笑)――出来上がるものだと思っていたから、自分には本物の本は書けない、作れないと思っていました。
ところが、さくらさんのエッセーは、全然そうじゃない。自分や家族の日常が、いい意味で軽く書いてあって、普段、私のお母さんやおばあちゃんがよく使うような言葉も出てくる。難しい言葉も使われていないし、漢字にはルビもふってあるから、読めない字がない。なんて私に優しい本なんだろう、って感動したんです。
カッコつけたり、誰かを傷つけたりしないで、どんなことも全部笑いに変える。子どもでも分かる簡単で面白い文章の塊で、1冊の本を作っている……これはすごい勇気だぞ、と。
さくらさんのエッセーが、本の世界への入り口を広げてくれた。そこから、ブラックホールならぬ“さくらホール”にどんどん吸い込まれていって(笑)。私が、本を読むのが好きになった原点がこの本にあります。
読みふけった日々がありありとよみがえる
好きなエピソード……? う~ん、どれもいいなあ。おじいちゃんやお父さん、家族の話も面白いし、小学生の時に全然興味のないクラスメートの“はまじ”と熱愛の噂を立てられる話も、アニメにもなっていたので、エッセーで読んだ時は「知ってる!」ってうれしかったですね。
さくらさんの作品には、当時人気だった芸能人もよく登場しますよね。平成生まれの私には知らない人もいるけれど、知らなくても面白く読めるのも本当にすごいと思います。逆に、さくらさんの作品で知って調べたら、あ、この方、実在するんだ、みたいなこともあって(笑)。本当に、表紙がボロボロになるほど何度も何度も読みました。
私は小学生の時からクラシックバレエを習っていて、毎日のように電車で教室に通っていたんですが、電車の中でずっと読んでいました。レッスンは気が重いけれど、本が読みたいから早く電車に乗りたい、みたいな。
笑って声が出そうになるのが子どもながらに恥ずかしかったので、「咳に交えて笑う技術」を身に付けたほど(笑)。今でも読み直すと、当時の駅や電車の中の光景など、思い出が蘇ってきます。
誰かに本を薦めるならまずこの1冊
この世界で仕事をするようになってからずっと、さくらさんにお会いしたいと願っていたのですが、実現しなくて。私のラブコールが届いたのか、一度、サイン本を贈ってくださったことがあって、感激しました。2018年にお亡くなりになったときは落ち込んでしまいました。
私の中では、小さい時からずっとアニメ、漫画、エッセーで親しんできた方だったので、ずっとお元気でいらっしゃるような気がしていたんですよね。さくらさんのおかげで本が好きになれたということを、伝えたかった。会いたかったです。
その後に開催された回顧展にも行って、そこでさくらさんの、ちびまる子ちゃんへの想いを知って、いっそう好きが増しました。誰かに本を薦める機会があれば、まずはさくらももこさん、って決めています。
ボロボロになったら買い直したりして、さくらさんのエッセーは、今もずっと手元にあります。表紙を見るだけで、もう何も怖いものはないと思うくらいに信頼している。胸に刻み込まれすぎちゃっている、そういう存在です。
取材・文/剣持亜弥 スタイリスト/兵藤千尋 ヘアメイク/沼田真実 写真/中川容邦 構成/平島綾子(日経エンタテインメント!編集部)
衣装協力/ニット2万6400円、パンツ3万5200円(チノ/モールド)、ピアス2万2000円(イー・エム/イー・エム アオヤマ)