「スーパーの売り場に商品がない」「部品が届かず製品がつくれない」──。そんな事態さえ想定される物流危機。2030年には3割の荷物が運べなくなるという試算結果もある中、物流のデジタルサービス事業を中心に急成長を遂げるのが、Hacobu(東京・港区)だ。
起業から約10年で、延べ80万人のトラックドライバーが登録し、1000社の企業が利用する、トラック予約受付サービスの「MOVO Berth」などを展開する。
日本の物流を変革する事業はいかに生まれ、これからどのように変革をリードするのか。Hacobu 最高経営責任者(CEO)である佐々木太郎氏ら幹部3人が執筆した『Logistics Shift ロジスティクス・シフト なぜ、成長企業は物流を変えるのか』(日経BP)の中から、物流スタートアップ誕生の背景を抜粋、再編集してお届けする。(協力:Hacobu)

“昭和”が残る? 物流の現場を見て起業を決意
「なぜ昭和から何も変わっていないんだ?」
10年ほど前(2015年)に株式会社Hacobu(ハコブ)を創業するきっかけとなった乳業メーカーの物流現場の視察でつぶやいた言葉です。
私(佐々木太郎・Hacobu CEO)は当時、2つの会社を立ち上げた後で、コンサルタントとしても活動していました。その中で、ある企業の経営改革プロジェクトに携わっていたのです。その改革すべき課題の一つに物流コストの上昇があり、全国各地の物流現場を訪ね、その声に耳を傾けていました。そこで、企業間物流の実態に目を見張ったのです。
ちなみに、その頃の私はスマートフォン(スマホ、iPhone6)を使い、友人とはSNSでコミュニケーションを取り、海外旅行では配車サービスのUber(ウーバー)を使っていました。しかし、日本の物流現場ではファクスと電話がコミュニケーション手段の主役だったのです。時代の流れに、まるで追い付いていない状態でした。このままでは、モノが届かない事態も起こり得ると、正直思いました。
重要なのは、物流は経済を支える機能であり、その規模も巨大であるということです。
公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会が編集・発行する「2024年度物流コスト調査報告書(概要版)」によれば、2022年度の日本におけるマクロ、つまり日本全体の物流コストは54.2兆円で、GDPの9.6%を占める規模となっています。ここには、在庫コストや管理コストなども含まれますが、輸送コストだけを見ても、34.1兆円に上ります。
また同報告書は荷主企業(物流子会社を含む)191社へのアンケートから、企業の2023年度の売上高に占める物流コストの比率を概算し、5.44%としています。
これほどの規模でありながら、物流現場のオペレーションはテクノロジーの活用が遅れ、非効率が顕著でした。
課題が物流コストの改善だったため、物流を管理する部署の担当者に、まず、物流コストを下げるためにはどうすればいいと思うかを尋ねたところ、「トラックにもっと荷物を載せること」、つまり積載率を上げるという答えが返ってきました。ところが実際の積載率を尋ねると「半分くらい」とあいまいな様子でした。
次に、もっと荷物を増やすための方法を尋ねると、ファクスで届いたという紙の束を見せられました。運送依頼の用紙でしたが、その依頼に合うトラックがあれば、その区間を運ぶ、ということでした。繰り返しになりますが、インターネットもスマホも普及している時代です。
さらに混雑の状態など配送状況を尋ねると、物流担当者が把握しているのは配達先だけで、あとはドライバー次第。車両の位置確認もできないことが分かりました。
これは、この1社だけの話ではありません。日本の産業を支える企業間物流では、こうした非効率な状況が当たり前だったのです。
「これは何とかしないといけない」。私は危機感を覚えました。2014年10月ごろのことです。危機的な状況を打開するには、ファクスに頼る非効率なオペレーションを改め、データの収集・活用を可能にするしかありません。デジタル化が必要だったのです。
改革のヒントを探るために聞き込み
現場視察の中で、配送の発注をしているのは、「水屋(みずや)」と呼ばれる斡旋(あっせん)業者だと分かりました。そこで、改革を進めるためのヒントを探ろうと、ウェブサイト上でこうした斡旋業者をキーワード検索で調べ上げ、片っ端から電話をかけて「御社の事業の話を聞かせてもらえないか」と頼んだのです。
断られ続けましたが、運良く1社だけ、社長自ら聞き取りを快諾してくれた会社がありました。指定された日の夕方、この会社のオフィスに出向くと、10人ほどの女性スタッフが猛然と電話をかけまくっています。荷主と運送会社の間を取り持つ斡旋業務、荷主と運送会社のマッチングをしていたのです。
社長に「この荷物なら、この運送会社に依頼するというマッチングは、どうやって進めているんですか?」と尋ねると、自信たっぷりに「頭ん中よ」と言って自分の頭を指差しました。社長の頭の中には、どの運送会社のどのトラックが、いつどの辺りを走行しているのか、全てインプットされており、それを基に、目当ての運送会社に電話をかけて運送を依頼しているというわけです。
このビジネスモデルをデジタルに置き換えればいいのでは? というアイデアが生まれました。
しかし、ここからは苦労の連続でした。2015年6月にHacobuを創業し、まずはデジタル式運行記録計(デジタルタコグラフ=デジタコ)の開発に挑みました。トラックが発信する位置情報を記録し、データベースを構築することが目的でしたが、デジタコの製造に想定以上の資金が必要になることが分かり、量産体制を構築できませんでした。
そこで、データの収集を担う端末を簡素化した上で車両に装着してもらう方向に舵(かじ)を切りました。
車両のシガーソケットに挿して使うタイプの全地球測位システム(GPS)端末を車両に装着してもらおうと、実際に運送を担う中小の運送会社に電話営業、いわゆるテレアポの攻勢をかけましたが、断られるのが当たり前。テレアポと分かった途端、「プツッ」と電話を切られるのは日常茶飯事でした。訪問の約束を取り付けてもすっぽかされることもしばしば。担当者の口から聞かれるのは「荷主に装着しろと言われれば、やらないでもないけど……」と、後ろ向きの言葉です。2~3年は、そういう状況が続きました。
危機を救った「オセロの角戦略」
そんな中、転機がやって来ました。ある大手チェーンストアから、仕入れ先から荷物を届けるトラックの到着を把握し、受け付けや納品を管理するシステムが開発できないか、と相談されたのです。
このビジネスは大きくなる可能性があると気付きました。トラック予約受付システムを開発し、このチェーンストアで利用してもらえれば、同チェーンストアと複数のサプライヤーのネットワークが、インターネット上に形成されます。さらにこのシステムが他のチェーンストアにも導入されれば、ネットワークはどんどん広がっていきます。しかもそこには、どこからどこに誰が何をいつ運んでいくのかという物流データが蓄積されていく。データベースの構築という目標の達成に近づけるのではないか、と期待が膨らみました。
そこで思い切って、システム開発のリソースを全て、このプロジェクトに投入することを決断しました。しかし、好事魔多しです。システム開発は無事に終了したものの、チェーンストア側の担当者が異動になり、同社の全ての物流センターに導入してもらうという目論見(もくろみ)は、あえなく崩れてしまいました。
しかし私は大きな経営判断を下しました。開発を終えたトラック予約受付システムを、相談を持ち掛けてきたチェーンストアの物流センターで利用してもらえないかと交渉したのです。投じた資金の回収よりも、まずはデータベース構築への第一歩を踏み出そうと、無謀とも思える判断を下しました。
サプライチェーンの中で最も影響力のある企業に最初に導入してもらうこの手法を、Hacobuでは、「オセロの角戦略」と呼んでいます。ビジネスを非連続的に成長させていく際には、重要になるポイントや戦略的なポジションを先回りして確保できると格段に有利になります。オセロゲームで、中央部で勝利を挙げていても四隅を取られてしまうと、勝負は一気に引っくり返るところから名付けました。
実際、このチェーンストアが全ての物流センターにHacobuのシステムを導入しているという実績を得られたことは、その後、他社への営業でも有利に働きました。
ビジネスにおける「大義」とは何か
実はHacobuを創業した時から、大切にしていることが1つあります。それはビジネスにおける「大義」とは何か、という点です。事務用品を中心にネット通販事業を営むアスクル創業者の岩田彰一郎氏から、「事業を興すなら『大義』のあることをやらなければいけない」と言われ続けていました。岩田氏、実は友人の父親です。尊敬する経営者でもある岩田氏から言われ続けてきた、その「大義」とは何かが、ずっとピンと来ていませんでした。
それまでに2つの会社を起業していましたが、1社目の化粧品関連、2社目の「食のキュレーションECと店舗」のビジネスを立ち上げる頃までは、大義についてあまり意識していませんでした。ところがここに来て、「大義」とは何か、ようやくのみ込めました。
当時はまだ、物流が止まるリスクが社会課題として認識されてはいなかった、と記憶しています。それでも、このままファクスに頼ってモノを運ぶ非効率な状態を続けていると、物流が社会のボトルネックになり、産業も生活も大変な事態に陥る恐れがある、と私には推測できました。それを回避する新たなビジネスを立ち上げる。そこに「大義」を見いだすことができたのです。
日本の物流は変革が必要だというHacobuの考えに賛同してくださった企業やベンチャーキャピタルから資金面で大きな支援を受けました。その支援があったからこそ、あの大手チェーンストアへのシステム導入に際して重大な決断を下すことができました。
創業から約10年。この間、2017年には宅配クライシスが起こりました。物流の危機的状況は日本全国に知れ渡りました。2023年8月には、国土交通省に加え、経済産業省、農林水産省が事務局を務める「持続可能な物流の実現に向けた検討会」の最終取りまとめにおいて、「2030年には、日本で3割の荷物が運べなくなる可能性がある」という試算結果が発表され、あらゆる産業に衝撃が走ったのです。
物流は経営アジェンダに。2026年、日本で起こる変化
日本では2026年から、CLO(チーフ・ロジスティクス・オフィサー。企業において物流全体に経営責任を負う役割。法律上の記載は「物流統括管理者」。ただし、物流統括管理者が必ずしもCLO等の役職に就いているとは限らない)の選任が義務化されます。対象となるのは、大手企業を中心に約3000社です。まずは、こうした企業の現場レベルで具体的な変化が生まれるでしょう。「現場の工夫」から「経営資源としての投資判断」へとロジスティクスの位置付けが変わります。
ロジスティクスを経営課題として改革を進める、ロジスティクス・シフトは今や日本企業にとってきわめて重要な命題でもあります。物流の変革は、むしろここから本格化すると考えます。

Hacobu代表取締役社長CEO=最高経営責任者
佐々木太郎、佐藤健次、小林一幸著/日経BP/2420円(税込み)

