当初懐疑的な見方があったインターネットやクラウドもビジネスに無くてはならない存在になりました。生成AIもまたしかりです。投資家としてシリコンバレーを中心に1000社以上の生成AIスタートアップを見てきたシバタナオキ氏は、変革の波に乗り遅れれば、企業にとって大きな損失になると警鐘を鳴らします。新刊『アフターAI 世界の一流には見えている生成AIの未来地図』から抜粋・再編集して、アフターAIの世界の全体像に迫ります。

加速するAIとDX

 生成AIを企業がビジネスで活用することが、当たり前のものになりつつあります。これまではITベンダーなどがユーザー企業に対して「生成AIを活用しましょう」とアピールしていた状況でしたが、今ではユーザー企業の側から生成AIで何ができるかを考えましょうと逆に提案されるような状況に変化しているとの声も聞きます。「生成AI」という言葉が単なるバズワードであった時期を過ぎ、「どう使うか」を具体的に検討する段階に入ったのです。

 生成AIの代表的な存在であるオープンAIのChatGPTがリリースされたのが2022年11月のことでした。そこから2年ほどの間に、生成AIは進化しながら生活やビジネスに浸透していっています。なぜそのようにAIがもてはやされるかというと、全体像を見るとDX(デジタル変革)が加速できるからです。DXのための武器としてAIが活用できることが大きなゴールになります。

 AIそのものも、変革が続いています。これはセールスフォースの解説がわかりやすく、AI変革には大きく5つの波があると見るとわかりやすいです。第1波は予測や認識でした。そして次の第2波でコパイロット、副操縦士として皆さんが目的地に向かうサポートをしますという使い方が登場しました。

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 2024年ごろからは、第3波としてAIがエージェントとして人間の代わりになりながら、人間と連動して動いてくれるようになっています。ここが現在地です。この先には第4波として、ロボットと協調して物理的な世界の仕事をAIが支援してくれるような世界が来ます。そして、最終的には人間の問題解決をほぼできるようになるAGI(汎用人工知能)の世界がやってくると言われています。これが第5波というわけです。

 こうした流れを見ていくと、AIの加速は人間にとって大きな変革になると考えられます。グーグルのCEOのスンダー・ピチャイは「AIは人類が直面する最も重要な技術になるでしょう。それは、核や電気のような根本的な技術変革をもたらすでしょう」と言っています。コンピューターはグラフィカルユーザーインタフェースによって誰もが使いやすくなったのですが、生成AIによって会話型でコンピューターを使えるようになる変化をいま私たちは体験しています。さらにその先にAIは進化していきます。例えばEV(電気自動車)を提供するテスラは、将来は自分のクルマがロボタクシーになり、ドライバーが利用しない時間にはAIが勝手に自動運転をしてタクシーとして稼いでくれるという未来も提示しています。

 それでは、生成AI革命とも言えるようなこのような時代がくることは、誰も予測できなかったのでしょうか。生成AIで日本をリードしている東大大学院の松尾豊教授が、2015年に今後の変化を予測した資料があります。これを見ると、AIは2025年ぐらいから言葉の意味を理解し始めて、2030年ごろに大規模知識理解が進むと予測しています。今で言うところの生成AIのコアであるLLM(大規模言語モデル)を予測していたわけです。要するに、松尾先生の予測よりも8年ほど前倒しで、生成AIの世界が到来したということです。

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大きな重力の流れを読む

 ここで重要なことは枝葉末節的に、予測が8年外れたと指摘することではありません。10年スパン、20年スパンで見ると、AIの世界がどのように発展し社会に影響を及ぼすかという視点では、松尾先生は2015年の時点で重力の方向性を正しく理解していらっしゃったということです。重力は間違いなく、生成AIが到来する世界に向かっていたわけです。ただし、その進化速度が、予測を超えてしまっているので、どのように対応するかに苦慮することになるわけです。

 一方で、生成AIにも「順調に」幻滅期が到来するという話もあります。調査会社のガートナーが毎年出しているハイプサイクルの2024年7月版を見ると、生成AIは2024年がブームとしては頂点で、ここから転がり落ちるのではないかという位置に立っています。今まさに、ジェットコースターでみんなが手を上げて落ちる寸前に来ているというのです。そうなると、AIへの現在の投資が過剰投資になるという見方もできますので、過大な投資を引き上げるような動きが出てきてAI企業の株価が不安定になるといったことが起きています。

 ここで大事なことは、大きな流れを読むことです。シリコンバレーでは、「1年の進化を過大評価して、10年の進化を過小評価する」という表現があります。これは、どういうことかというと、ブームになっている技術は期待が膨らみすぎて、変化が多すぎて、皆が飽きてしまうということです。そこで「この技術は大したことはなかったのでは」と感じて過小評価につながっていくのですが、この幻滅期の間に技術はひっそりと社会インフラとして定着して社会改革が終わっていたりします。気がついたら皆がスマホをもって便利になっていたり、モバイルオーダーやモバイルペイメントができる時代が来ていたりします。ガートナーのハイプサイクルのほんとうの意味は、幻滅期の間に社会実装をきちんと仕込んだ企業がその果実を得られるというわけです。10年の進化をしっかりと評価する必要があるのです。

 振り返ると、日本でもガラケーと呼ばれた従来型携帯電話の時代はモバイルの世界をリードしていました。アップルのiPhoneが来たときにも、その影響を大したことはないと日本の大企業が見ていたのです。そのうち社会インフラとして定着し始めた世界のスマホ市場で、日本の存在感はなくなってしまいました。生成AIの分野で日本が遅れを取らないことは必要ですが、一方で日本の企業がいまからオープンAIやエヌビディアになるのかというと、そうではありません。大事なことは、私たちが波を作ることではなく、進んでいく方向を正確に理解して波に乗ることです。AIという波がどのように産業を破壊させ、進化させていくかということがわかればいいのです。それがアフターAIの世界の全体像の読み解き方の基本です。

(写真:MRSUTIN/stock.adobe.com)
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日本の生成AIのビジネス実装は一見、諸外国に比べて立ち遅れているように見えるが、その実、ひとたび実装に向けてかじを切ることさえできれば、有利な状況はそろっている。AI革命以降に日本企業がたどるべき道を示した生成AIの「未来地図」となる一冊。

シバタナオキ・尾原和啓著/日経BP/2420円(税込み)
『アフターAI 世界の一流には見えている生成AIの未来地図』(日経BP)の刊行を記念したイベントが開催されます。2025年9月5日19時~ 六本木 蔦屋書店にて著者のシバタナオキさんが登壇、「アフターAI」時代に日本のビジネスパーソンの勝ち筋はどこにあるのかを語ります。オンライン参加も可能です。

■日時:2025年9月5日(金)19時(18時30分開場)~20時
■会場:六本木 蔦屋書店 2階SHARE LOUNGE内イベントスペース
※参加チケットの種類と料金などイベントの詳細とお申し込みはこちらから>>六本木 蔦屋書店『アフターAI』刊行記念イベント特設ページ