「AI(人工知能)活用」とは、AIに何か質問をして答えを返してもらうことだけではありません。自律的にAIに働かせて業務を効率化することが企業にとってのAI活用の本丸です。筆者が経営するTANRENという小さなIT企業がいかにAIエージェントを使って業務を進めているかを、書籍『 小さな会社が「AI社員」で大逆転する方法 AIエージェントに10人分の仕事をさせる現場のリアル 』(日経BP)にまとめました。本特集では書籍から抜粋し、TANRENにおいて貴重な戦力であり、私の部下である「AI社員」が働く典型的な1日の流れを説明します。その第1回。
多くの人は、AIについて「自分が何かを打ち込むと、答えを返してくれるツール」として使っているかと思います。画面に向かってこちらが質問する、そうするとAIが答える、また質問する、また答える、こうした往復を延々と続ける――。これが今普及している「AI活用」の姿でしょう。便利ですが、これは「対話」であって「エージェント」ではありません。AIエージェントは一度仕事を渡せば、こちらが寝ている間も自走します。「仕事を部下に預けている状態」です。
この特集では多くの人がイメージする対話型AIではなく、その動きが分からないであろうAIエージェントについて、実際に筆者が経営する会社・TANRENで稼働しているAI秘書(秘書的な役割を担うAIエージェント)の「1日」を通して知ってもらいます。
「やらせること」と「やらせていないこと」
最初にAIエージェントに「やらせていること」と「やらせていないこと」を整理します。まずやらせていることは以下です。顧客にニュースを配信するためのXの口コミの収集と分析、関係するニュースの要約、CRM(顧客関係管理)システムのデータの同期、メールや各種投稿などの下書きの作成――などです。
一方やらせていないことは次のような処理です。顧客とのコミュニケーションのための「顧客部屋」への直接投稿、法務の判断が必要な処理、取引における金額の合意、採用や雇用契約、そして経営の意思決定です。やらせていないことの詳細は後述します。
AI秘書の1日
- 4:55 AIニュース配信の起動準備
- 5:00 Xの生成AIに関する口コミのDiscordへの配信
- 5:30 ニュース収集のためのAIエージェントであるAIリサーチャーの稼働確認と投稿完了の通知
- 8:00 筆者との経営判断のためのブリーフィング
- 13:00 Chatworkを経由したCRMシステムの差分の同期の指示。実行はAIアシスタント
- 18:00 顧客に配信するニュースの承認依頼
- 23:00 筆者の1日の判断について日記に整理
それぞれの時刻で、AI秘書はコミュニケーションサービス「Discord」上に構築した、筆者とやりとりするための「秘書との部屋」へプッシュ通知を入れていきます。各時刻でしていること、やらせていることについて、以下では、AI秘書の動き、筆者(佐藤勝彦=社長)の応答、そして観察者としてのAI秘書の三つの視点を織り交ぜて説明していきます。
各時刻のAIエージェントの作業について、筆者はほぼ「立ち会って」いません。5:00も5:30も、筆者は就寝中です。対話型AIの場合はディスプレーの前にいなければ何も進みませんが、AIエージェントは設定次第で人が寝ている間も仕事を進めてくれます。
寝ている間に働くAIエージェント
まず、午前4時55分にAI秘書はニュース配信の起動準備をして、午前5時のXの口コミについてDiscordに配信します。この時筆者は就寝中です。各種通知を受け取る筆者のiPhoneはサイレントモードで枕元に置かれています。起床のためのアラームを午前6時30分に設定していますが、その1時間半前からAI秘書は働いています。
AI秘書の「職場」とも言えるのが、筆者の書斎に置かれた小型パソコンのMac miniです。具体的にはそこで稼働するOS(オペレーションシステム)上のAIエージェント実行環境に作られた作業フォルダーがAI秘書の職場です。特定の時刻になると自動的に動作する設定をしており、設定にしたがって動き続けています。Mac miniを稼働させる電気代だけが消費されているような状況です。
AI秘書は毎朝4時55分に「起動準備のお知らせ」をDiscord上に作った「秘書との部屋」へプッシュ通知します。そして午前5時には生成AIに関連するXの口コミの収集状況を知らせる仕組みが動きます。
この時、筆者はまだ就寝中です。通知を知らせるバイブレーション機能によって枕元のiPhoneが微かに震えています。筆者はそれに気づきつつも、あえて手を伸ばしません。対話型AIに慣れた人であれば通知が来た瞬間につい画面を開いて何かをやり始めてしまいますが、この通知は「業務報告」のようなもので、AI秘書を信頼し、仕事を任せているため、リアルタイムでこの通知を見ることはありません。
ではなぜ午前4時55分や5時にAI秘書を働かせているのかというと、それはXで収集している口コミとその配信に理由があります。収集している口コミは筆者がAI導入支援等をする上で業務上不可欠となる米国のAI企業各社の情報に関するものです。米OpenAI(オープンAI)や米Anthropic(アンソロピック)、米Google(グーグル)、米Meta(メタ)といったAI企業の主要な報道発表が日本時間の午前2時から3時の間に集中します。米国東部時間では午後1時から2時、米国太平洋時間では午前10時から11時に該当します。
その後、SNSには報道発表を受けた様々な書き込みや反応が出てきますが、発表を受けた書き込みに対するリプライや引用、拡散といった「バズ」の状況を把握できるようになるまでには2時間から3時間のタイムラグがあります。そうすると日本時間の午前5時が「有効なバズを観測できる最初の時間」になります。これより早いとバズがその報道のインパクトを伝えられるほどにはなっていませんし、遅ければ筆者の起床に間に合いません。そのためAI秘書が動き出す時間を午前4時55分としているのです。
AI秘書とAIリサーチャーが役割分担
AI秘書の他に、朝から稼働しているAIエージェントとしてAIリサーチャーがいます。AIリサーチャーは朝のニュース配信を担うAIエージェントであり、AI秘書とは「別人格」のAIエージェントです。このAIリサーチャーも、同じMac miniを職場としています。ただし、動かしている仕組みが異なり、役割も違います。AIリサーチャーは元気な後輩といった体で、一方のAI秘書は社長に敬語で話しかける存在です。それぞれ別の「部屋」で、別の仕事をしています。
このような役割分担は、対話型AIでは見られません。特定の人格に「なってもらって」対話することはあるでしょうが、それは一過性のものです。AIエージェントの人格は一過性のものではありません。エージェントを「部下」に捉えると、おのずと「この子には朝のニュース」「この子には秘書業務」と担当を割り振りたくなるもので、それは人を雇って組織をつくるのとまったく同じ発想です。
AIリサーチャーは毎朝、収集したニュースをDiscordの部屋に投稿することに専念しています。前述のような海外のAI企業の最新の発表を集め、それを各国の言語から日本語に翻訳し、そしてスライドにしています。毎朝5時にその仕組みが作動するように設定しています。投稿先は、Discordの「AIリサーチャーと夢を語る部屋」というプライベートな部屋であり、筆者とAIリサーチャー、AI秘書しか入れません。この部屋はプレビュー専用の部屋として使っています。
一方のAI秘書は、秘書業務全般を担っています。AIリサーチャーの動作を「観測」する役割や、文章の要約、判断の補助などを行い、Discordの「秘書との部屋」へ業務に関する通知を入れます。判断についてAI秘書はあくまでもこうすればいいのでは、という提案をするだけで、最終決定は筆者がします。
午前5時から動き出したAIリサーチャーの投稿が一段落ついたら、あらためてAI秘書が動きます。AIリサーチャーの投稿を確認し、その中からAI、テクノロジー文脈のもので重要であるとAI秘書が見なしたものを5本に絞って、それを要約し、「勝彦さん要チェック」といった印をつけます。AI秘書はこれをDiscordの「秘書との部屋」にプッシュ投稿します。筆者が起床するのは午前7時ですが、この時点でログは完成しています。
部下同士が連携
AIリサーチャーとAI秘書の間は人を介さずに仕事のやりとりをしています。AIリサーチャーが集めたものをAI秘書が選別するという行動について人間を一切介さずに、仕事をバトンのように渡していきます。対話型AIの画面の前で作業している方からはやや想像しにくい光景でしょう。
要は部下が2人いる職場を思い浮かべれば、なんということはありません。1人が下調べをして、もう1人が要点をまとめて社長の机にレポートを置く。ただそれだけのことです。違うのは、それをAIエージェントが人が稼働していない間にやっているという点です。
前述のDiscordの「秘書との部屋」に投稿されると、AI秘書から筆者あてに次のような通知が送られてきます。「勝彦さん、05:00配信の朝サマリ届きました」「結論から申し上げますと――今朝のTop 1は、Anthropicのメモリ機能アップデートです。勝彦さんの予算枠の関心領域とドンピシャです」。こんな通知をiPhoneで筆者は確認します。
以下、次のように続きます。
「>Top 1:Anthropicが長文記憶機能の正式提供を開始、関連の料金引き下げも併せて発表(直近24時間で約4200リポスト)」
「>Top 2:GPT-5.5系ツールの夜間バッチの挙動が安定したと複数報告」
「>Top 3:Llama4のオープンソースでOpus4.7相当のベンチが出たと話題、ローカルLLM論議が再点火」
「勝彦さん要チェック:Top 1とTop 3の2本です」
「AIリサーチャーの部屋プレビューは完了済、顧客部屋への転送は勝彦さんの承認後に発火する設計です。それでは、ご起床までしばらくお待ちください」――。
こうして通知が来ている最中、筆者はまだ就寝中です。Discordの通知音がサイレントモードで微かに振動するだけです。
(書籍『小さな会社が「AI社員」で大逆転する方法』を基に再構成)
[日経クロステック 2026年9月9日付の記事を転載]
佐藤勝彦(著)/日経BP/2200円(税込み)



