「AI(人工知能)活用」とは、AIに何か質問をして答えを返してもらうことだけではありません。自律的にAIに働かせて業務を効率化することが企業にとってのAI活用の本丸です。筆者が経営するTANRENという小さなIT企業がいかにAIエージェントを使って業務を進めているかを、書籍『 小さな会社が「AI社員」で大逆転する方法 AIエージェントに10人分の仕事をさせる現場のリアル 』(日経BP)にまとめました。本特集では書籍から抜粋し、TANRENにおいて貴重な戦力であり、私の部下である「AI社員」が働く典型的な1日の流れを説明します。その第2回。

起床してからのAIエージェント

 朝5時の「秘書との部屋」へ届くプッシュ通知は、筆者が眠っているあいだにcron(タスクを自動実行するためのプロセス/ツール、クーロン)によって動くように組まれています。これが作業の完了報告になっています。筆者が「秘書との部屋」に「入る」のは、朝7時の起床後です。AI秘書のプッシュ通知は、その時刻まで誰にも読まれずにDiscordのサーバー上で待機しています。

 5時の通知の次にDiscordに通知が投稿されるのは5時半。AIリサーチャーの最終投下の完了通知です。AI秘書はその30分間、AIリサーチャーのニュースの収集状況を監視し、収集が終わったらトップ5のニュースの絞り込みをして要約を仕上げます。

 AIエージェントが作業を終えたら、筆者は起床します。ただすぐにはDiscordの部屋に入室しません。コーヒーをいれ、シャワーを浴び、そして書斎の席について、Discordを開きます。ここで、ようやく人間が登場します。とはいえ登場した時点で作業は8割方終わっています。

 筆者がすることは、出来上がってきたものを読み、採用するかどうかの判断を下し、最後のひと押しを与えることだけです。対話型AIであれば、ここから指示を出して作業を始めるところですが、AIエージェントの場合は起きたときには、もう机の上に成果が並んでいるという状態を実現できます。

午前8時に「経営判断ブリーフィング」

 午前8時になるとAI秘書が本日2本目のプッシュ通知を出します。これは「経営判断ブリーフィング」と筆者が呼ぶタスクを実行するためのものです。ニュースのトップ5の最終確定、採用するニュースの承認を促し、筆者が寝ている間にたまったChatworkのメッセージの優先度を仕分け、当日必要な経営判断のキューをまとめて送ってくれます。

 この裏では、三つの裏方ツールを並走させています。知っておく必要があると思われるニュースをスプレッドシートに追記する裏方、Chatworkのメッセージの差分を同期する裏方、社長の1日を日記として蓄積する裏方です。それらの出力を集約し、筆者が実際に読むのは最後のサマリーだけです。

 集約のロジックは、筆者のブランドボイス、つまり筆者の言葉遣いや言い回しを反映する形で設計しています。長すぎず、短すぎず、結論ファースト。これが、筆者とAI秘書の間の「ブリーフィングの作法」です。実際、次のような通知が8時に送られてきます。「勝彦さん、おはようございます。本日の経営判断キュー、結論から3本お伝えします」といった通知に続けて、「結論から申し上げますと――本日の最優先は、3番の顧客部屋転送承認です。9:00配信予定が動き始める前にご判断ください」と筆者の判断が促されます。

「勝さんのAIニュース」

 そして具体的な内容の報告があります。

「>1.ある重要な経営会議のデューデリ進捗バッチが昨夜23:00に到着、論点は5本(抽象化済)」
「>2.A社(実際は社名が入っています)からの原稿確認メール、本日中の返答希望」
「>3.顧客部屋『勝さんのAIニュース』へのNews転送、AIリサーチャーの部屋プレビュー完了。承認のみお待ちしています」
「勝彦さん要チェック:3番、AIリサーチャーの部屋プレビュー済 → 承認お願いします」
「転送スケジュール調整、リード文の差し替え、いずれも対応可能です。勝彦さんの審美眼に委ねます」

といった具合です。

 筆者は、コーヒーを片手にデスクでDiscordを開き、こうした通知を見ていきます。この時、筆者はAI秘書が最優先とした3番から先に処理しました。DiscordのAIリサーチャーの部屋を開き、Newsプレビュー5本を確認していきます。「勝さんのAIニュース」の表記や16:9と決めたスライドのアスペクト比、独自要素の有無などをチェックします。

 このチェックは、筆者が手動でする部分と、AI秘書が事前にチェックして「OK」を入れている部分の2段階になっています。この時のプレビューには、既にAI秘書の「自動チェック5項目クリア」が付いていました。筆者は最終ジャッジだけをすればいい状態です。

 「勝さんのAIニュース」というのは筆者がTANRENの社長として顧客に発信しているニュースのブランドです。1枚のスライドに業界に関連する動向をまとめています。これには三つのルールを設けています。一つはブランド名を「勝さんのAIニュース」で固定することです。既存メディアの名称を使うのは禁止です。二つ目は動向をまとめたスライドのアスペクト比は16:9(1920×1080または2048×1152)で固定することです。1:1の正方形は、別途指示がない限りは使いません。

 三つ目は独自の要素を3点以上含めることです。独自のタイポグラフィー、独自のカラーパレット、独自のレイアウトグリッド、独自のアイコンセット、独自の余白リズム――。スライドを生成する際の参考画像はあくまでスタイルの指針であって、コピーする対象ではありません。この三つがAIエージェントを使ってまとめニュースを出す際のTANRENの線引きです。

 三つのルールを設けたのは、ある出来事がきっかけでした。2026年4月26日、別のAIエージェントが、TANRENの顧客向けに作られたDiscordの部屋である「顧客部屋」に、参考にしたデザインそのままで生成した記事スライドを直接投稿してしまう事故が起こったことです。ブランド名は参考元のまま、アスペクト比は1:1、独自要素は皆無でした。

 その時筆者は手動で削除し、その日のうちに「丸パクリ禁止」「独自要素三つ以上」「16:9固定」「AIリサーチャーの部屋でプレビュー必須」のルールを書面化し、AI秘書はそのルールを自分の動作仕様として「内面化」しています。

AIエージェントの怖さ

 この一件は、自律的に動作するAIエージェントを使うことの怖さを教えてくれた出来事でした。対話型AIであれば、おかしな出力が出ても投稿する前に人が気づける時間があります。AIエージェントの場合はワークフローを最後まで一気に回すことも可能で、結果にかかわらず、止まらないで最後まで走り切ってしまいます。

 仕事をAIエージェントに預ける側が、ルールをきちんと書いておかなければなりません。前述のような失敗はAIのせいではなく、指示書を書ききれていなかった人間側の問題です。部下が失敗したら叱る前に、自分の指示を疑うのと同じことです。

 「AIリサーチャーの部屋プレビュー → 筆者の承認 → 顧客部屋転送」といった二段階フローを、現在は絶対に飛ばさないように運用しています。直接、顧客部屋に自動転送する設計にはしていません。間に必ず筆者の承認を入れます。一度信用を失ってしまうと、なかなか取り返すのが難しいからです。顧客部屋に誤投稿が出れば、その瞬間に外部の顧客の目に触れてしまいます。後から削除しても、通知や引用で残る可能性もあります。

 筆者が守りたいのは配信のスピードではなく、配信の信用です。スピードについては、AI秘書が裏で巻きを入れることでいくらでも上げられます。けれども、信用が毀損されてしまうと、再び信用を得るまでには時間を要します。

仕上げの作業もAI秘書と共に

 話を戻すと朝の投稿前の確認について、筆者は「問題なし。本日のプレビュー5枚は、内容OK」と判断しました。ただ、投稿の時間を少し動かしたいと考え、次のようにDiscordの「秘書との部屋」でAI秘書に伝えました。「3番、内容OK。ただし顧客部屋への転送は1時間遅らせて、9:00ジャストに着くようにしてくれ。通勤途中の顧客が信号待ちで開ける時間に合わせたい」。こうした指示に続けて「1番のデューデリ進捗、論点5本のサマリをDiscordにプッシュ。商談ログはNotionに上げる前に、5階層構造とタイムスタンプを保ったままローカルにも1本残しておけ」。

 これに対してAI秘書は「承知しました」と答え、次のような報告をします。

「>顧客部屋への転送スケジュールを09:00 JSTに調整しました。発火時刻は日記にも記録します」
「>デューデリ論点5本、本書の固有名詞ルールに基づき抽象化表記に変換済。本文をDiscordにプッシュします」
「>議事録ローカル保存、5階層+話者・時刻タグの保持を確認済。Notionアップ時にも階層を維持する設定で動かします」

 続けてAI秘書は「補足:2番のA社へのメールへの返答、下書き案を並走で作成してよろしいですか?勝彦さんの口調で、結論ファースト構成で組みます」と聞いてきました。筆者は「頼む。下書きまでで止めて、送信は私がやる」と返す。AI秘書は「承知しました。下書き完了し次第、Discord『秘書との部屋』にプッシュします。送信ボタンは勝彦さんに残しています」――。こんなやりとりが続きました。

「送信ボタンは勝彦さんに残しています」

 筆者が「下書きまで」と書き、AI秘書が「送信ボタンは勝彦さんに残しています」と返す数分のやりとりを、これまで既に何百回も繰り返してきています。このAI秘書との往復で見てほしいのは、筆者は一文字も、ニュースなどを書いていないことです。デューデリジェンスの論点整理も筆者はしていません。返信メールの下書きも作っていません。やったのは、「これは渡す」「これは止める」と線を引いただけです。

 対話型AIで画面に向かっていちいち指示を出して作業を自分でする働き方からすれば、出した言葉の量は、笑ってしまうほど少ない。言葉の量が少なくても、仕事は確実に前へ進んでいきます。これが「仕事を部下に預ける」という働き方そのものです。

 「線引き」とは、信用の設計です。AI秘書は判断を提案する、最終決定は筆者が下す、送信ボタンを筆者が押す。つまりそれぞれに対する責任を筆者が引き受けるということです。この線引きこそが、AIエージェントが「同僚」として隣にいられる根拠になります。

朝食をとる前に日記が完成

 一通り判断を終えた後、筆者はAI秘書に「(ニュースの)トップ1だけ深掘りして日記に投げて」と指示しました。文字にしてたった17文字ですが、それでも、裏側では人間が作業すれば数時間はかかるであろう下処理が動き出します。筆者は他にも様々な指示を短い言葉で出していきます。5分の指示で5時間分の仕事が片付いていきます。

 筆者が指示を出すと、膨大な処理を仕込んだAgent Skills(あらかじめ手順を束ねたAIの作業スキル)が自動的に動き出し、ワークフローが全自動で回っていくのです。これが、AIエージェントを業務に組み込んだ小さな会社の、朝の景色です。

 前述の17文字の指示の場合、どういった仕組みが動き出すかというと、まず裏側で20以上の「Skills」が起動し、AIリサーチャーを呼び出します。AIリサーチャーは「ChatGPT Pro」にニュースの翻訳を依頼し、その翻訳を基にAIリサーチャーは「Codex CLI(オープンAIのコマンドライン版コーディング支援ツール)」で画像生成を依頼。最後にそれらを日記に蓄積します。こうした一連の流れが、筆者が朝食を取り終える前に完了します。

(写真:Art_Photo/stock.adobe.com)
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(書籍『小さな会社が「AI社員」で大逆転する方法』を基に再構成)

[日経クロステック 2026年9月10日付の記事を転載]

少数の社員がAIエージェントを駆使して事業拡大――。小さな会社の社長が説くAI活用実践書。筆者が「1人ユニコーン」的な企業の姿を作り上げる場面に始まり、AIエージェントを人間の同僚、すなわち「AI社員」として遇するためにやっていること、さらに営業・プレゼンの達人である筆者がこれまでの経験をいかにAIに教え込ませるかなど、AIエージェントの使いこなし方を解説する。

佐藤勝彦(著)/日経BP/2200円(税込み)