テクノロジーがどのように世界を変えていくのか。新刊『 日経テクノロジー展望2027 世界を変える100の技術 』(日経BP)では、注目される100の技術を集め、その革新性やインパクト、将来性などを解説する。今回は100の技術のうち、ビジネスパーソンを対象とした調査で「2031年期待度」5位の「光電融合」を取り上げる。

電気回路の一部を光回路に置き換える、AIデータセンターの電力問題で脚光

コンピューターの計算やチップ間の通信には電気信号を使うのが常識だった。この通信の部分に、これまで長距離のデータ通信で使われてきた光の技術を利用するのが光電融合だ。光による通信は電気通信よりも速く省電力なため、大量のデータを扱うAIの省電力化などにつながることが期待されている。

 光電融合はこれまで電気が担ってきたデータ伝送の一部を光による伝送に置き換え、消費電力を大幅に減らす技術だ。生成AI(人工知能)の普及が起爆剤となり、データセンターで大規模な導入が見込まれている。AIの計算処理が集中するデータセンターでは、電力消費の爆発的増加が問題になるからだ。

 IEA(国際エネルギー機関)は世界のデータセンターによる電力消費量が2030年には約1000テラワット時(テラは1兆)に達すると予測する。24年の2倍に当たり、日本の年間電力消費量に匹敵する。

 こうした問題を解決すべく白羽の矢が立った技術が光電融合だ。光電融合関連の製品を開発するNTTイノベーティブデバイス副社長CTO(最高技術責任者)の富澤将人氏は「光電融合の利点は膨大なデータを低電力・低遅延で送れること。それに当てはまる用途はまずはデータセンターだ」と話す。NTTの次世代通信基盤「IOWN(アイオン)構想」でも光電融合を中核技術と位置づけ、ネットワーク電力を100分の1に減らす目標を掲げている。

 従来のデータセンターでも光電融合のコンセプトは一部採用されており、プリント配線基板(PCB)同士を光で結ぶ「プラガブル光トランシーバー(プラガブル)」と呼ぶ手法が主に使われている。ただしこの手法では、増大するAIの計算処理のニーズに十分応えられない。そこでCo-Packaged Optics(CPO)と呼ばれる新たな手法の導入が進み始めた。半導体チップの近傍に、電気信号と光信号を相互変換する「光エンジン」を置くことで、電気の通信距離を短縮する。

光電融合デバイスのロードマップ
光電融合デバイスのロードマップ
(出所:日経クロステック)
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 CPOの次世代技術としては、半導体と光エンジンをより近くで接続する「光チップレット」や「光I/O」が注目されている。光I/Oは、半導体チップの下部に光エンジンを置くことで、半導体チップ同士を光で結べるようにする。

 光電融合の開発を巡っては、米エヌビディアと米ブロードコムが先頭を走る。ブロードコムはCPOの実装技術をいち早く製品化し、22年から少数顧客への納入を始めた。エヌビディアは25年3月に同じくCPO製品を発表した。データセンター向け半導体の二大巨頭とされる両社が製品化に乗り出したことで、世界中の視線が光電融合に集まるようになった。

 国内ではNTTが27年1~3月にCPOの商用サンプルの提供を始める。同社は19年に「IOWN構想」を掲げ、他社に先駆けてCPOを含む光電融合のロードマップを示してきた。ところがここへ来て、エヌビディアなど先行企業を追いかける格好となった。

 CPOは半導体の製造技術を巧みに利用して造る。中核となるのがシリコンフォトニクスと呼ばれる技術だ。シリコンのウエハーに微細な電子回路を描く技術を応用して、光の回路を構築する。シリコンフォトニクスの進歩によって光変調器や光検出器を小さなチップに集積できるようになった。パッケージ基板に載せられるサイズに小型化したことで、CPOが実現した。

 半導体メーカーにとっては、CPOは既存の半導体製造装置を転用できるため参入しやすい。半導体の量産ノウハウを生かしやすく、大量生産や低コスト化につなげやすい利点もある。CPOの設計をエヌビディアなど大手半導体メーカーが担い、製造はファウンドリー(半導体受託生産会社)最大手のTSMCが引き受ける―。そうした分業が定着すれば、光の主導権を半導体業界が握ることになる。逆に光通信のメーカーから見れば、CPOの登場は自らの事業領域が半導体業界に取り込まれる転換点になりかねない。

CPOでは半導体チップと光エンジンを1つのパッケージ基板上に載せる
CPOでは半導体チップと光エンジンを1つのパッケージ基板上に載せる
(出所:日経クロステック)
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 ただし光部品メーカーは手をこまねいてはいない。三菱電機や住友電工はCPO向けの光エンジンの開発を進めている。力を入れるのはシリコンフォトニクスとは別の道だ。インジウムリンという化合物半導体を使った光エンジンで、シリコンよりも高速かつ低消費電力であることを強みとする。住友電工執行役員伝送デバイス研究所長の小路元氏は、「高速なデータ伝送が求められる用途を狙いたい」と話す。30年以降の市場参入を目指す。

 光電融合はまずデータセンターで導入が進むが、他にも将来性のある用途がある。「光コンピューティング」と呼ばれる技術がその一つで、GPUと比べてはるかに高速でありながら低い消費電力で計算処理を実行できる。米ライトマターやイスラエル・コグニファイバーなどの新興企業が開発を進めている。

(書籍『日経テクノロジー展望2027 世界を変える100の技術』を基に再構成)

5年後の2031年に向けてビジネスパーソンが知っておくべきテクノロジーとは? 日経の専門誌編集長とラボ所長が「AI」「エレクトロニクス・モビリティー」「環境・エネルギー」「IT・通信」「建築・土木・素材」「ライフスタイル・ワークスタイル」「メディカル」の7分野から「世界を変える技術」100件を厳選、専門記者や研究員が分かりやすく解説します。

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