テクノロジーがどのように世界を変えていくのか。新刊『 日経テクノロジー展望2027 世界を変える100の技術 』(日経BP)では、注目される100の技術を集め、その革新性やインパクト、将来性などを解説する。今回は100の技術のうち、ビジネスパーソンを対象とした調査で「2031年期待度」4位の「全固体電池」を取り上げる。

電解質が固体のリチウムイオン電池、安全性と性能を両立

全固体電池とは、電解液を固体材料で構成することで、安全性や性能の向上が期待される次世代のリチウムイオン2次電池(LIB)。電気自動車(EV)向けで量産化がいよいよ始まる。一番乗りは台湾・輝能科技(プロロジウムテクノロジー)になる見込みで、複数の中国企業がその背中を追う。2027~28年の出荷を計画するトヨタ自動車は出遅れかねない。

 プロロジウムは、25年10月に全固体電池のエンジニアリングサンプル出荷を始めた。同社としては第4世代となる全固体電池の3番目のモデル「SN-10」。重量エネルギー密度は380ワット時/キログラム(Wh/kg)、体積エネルギー密度は900ワット時/リットル(Wh/L)で、既存のLIBを大きく超える。負極には高純度のシリコン(Si)を用いているとする。

 プロロジウムは様々な用途への展開を目指して各種の機器メーカーと話をしているというが、日本におけるその1グループが九州電力、正興電機製作所、双日九州だ。九州電力はカーボンニュートラルを推進できるショベルカーなどの電動化を社長直轄の新事業として進める姿勢で、そこで電池メーカーとしてプロロジウムを選んだという。

 「ショベルカーは(パワーが必要なので)既存のLIBでは4~5時間ほどしか持たない。また、既存のLIBは突然製造中止になることが多い。それが全固体電池であれば、8時間ほどは電池が持ち、安全上の懸念も軽減されると思って、我々からプロロジウムに声をかけた」(九州電力 コーポレート戦略部門 インキュベーションラボ長の内山春彦氏)。九州電力らはプロロジウムからセルを調達し、それを正興電機製作所がモジュールにする計画である。

 九州電力が使う電池は、プロロジウムがサンプル出荷を計画するSN-10(ショートタイプ)以降のセル。同じ品番でも出荷時期によってエネルギー密度は改善されていくとしており、28年に出荷が予定されている「SN-11」は、重量エネルギー密度が550Wh/kgとなる見通しだという。

EV向け全固体電池が続々量産へ。量産が始まる全固体電池セルの例。(a)は台湾・プロロジウムテクノロジーが2025年10月にサンプル出荷を始めた第4世代セル。(e)の中国・国軒高科(Gotion High-Tech)の全固体電池は正式には2027年の量産だが、一部を前倒しして製造するもようだ
EV向け全固体電池が続々量産へ。量産が始まる全固体電池セルの例。(a)は台湾・プロロジウムテクノロジーが2025年10月にサンプル出荷を始めた第4世代セル。(e)の中国・国軒高科(Gotion High-Tech)の全固体電池は正式には2027年の量産だが、一部を前倒しして製造するもようだ
(出所:(a)は日経クロステック、(b)~(e)は各社)
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 全固体電池で最後の課題といわれるのが製造コストの高さだが、プロロジウムのセルについては当てはまらないかもしれない。「(量産前の)今は単位重量当たりで既存のLIBの3倍ぐらいだが、量産すれば同3分の2程度になる」(九州電力)。プロロジウムのセルは、固体電解質に独自開発の酸化物系材料を用いる。他の大多数の全固体電池メーカーはEV向けでは硫化物系材料を採用している。これが、価格問題の分岐点になるかもしれない。

 全固体電池の量産でプロロジウムに続くのは複数の中国企業になりそうだ。中国・清陶能源発展集団(Qingtao Energy Development Group)、中国・鵬輝能源(Great Power Energy & Technology)、中国・億緯鋰能(EVE Energy)、中国・広州汽車集団(GAC Group)、広州汽車集団傘下の中国・巨湾技研(GBT:Greater Bay Technology)、中国・追覓科技(ドリーミー、Dreame Technology)などである。多くは車両への搭載試験などの目的で少量の製造から始めるが、GBTはギガワット時(GWh)級の比較的大きな規模で量産を始めるとする。

 他業界からの参入組もいる。ドリーミーはこれまでロボット掃除機などスマート家電大手として知られていたが、世界最大のテクノロジー見本市「CES 2026」でスーパーカー「Nebula NEXT 01」を発表した。これは以前、掃除機メーカーだった英ダイソンがEVの開発を発表した動きに似ている。26年4月にはこの車両に全固体電池を搭載する方針も発表した。ちなみに、この全固体電池は広州汽車集団のセルのOEM(相手先ブランドによる生産)ではないかという推測もある。

 トヨタは27年以降の量産計画を発表しているが、電池の諸性能、特に充放電サイクル寿命については目標値さえ明らかにしていない。トヨタは26年に予定していた次世代電池の一部の生産を中止すると発表したものの、これには27~28年に出荷を予定している全固体電池は含まれていない。もし仮に、全固体電池についても量産開始が27~28年より大幅に遅れたり、あるいは製造を中止したりすることになれば、トヨタがEVでライバル企業に対抗する術をほぼ失いかねないところだった。

(書籍『日経テクノロジー展望2027 世界を変える100の技術』を基に再構成)

5年後の2031年に向けてビジネスパーソンが知っておくべきテクノロジーとは? 日経の専門誌編集長とラボ所長が「AI」「エレクトロニクス・モビリティー」「環境・エネルギー」「IT・通信」「建築・土木・素材」「ライフスタイル・ワークスタイル」「メディカル」の7分野から「世界を変える技術」100件を厳選、専門記者や研究員が分かりやすく解説します。

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