「失敗を認められない部下の指導をしようにも聞く耳を持たずに困っていたが、自分のアプローチが悪かったかもしれない」。こんな感想が寄せられているのが、書籍『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?』(日経BP)。本パートでは同書から抜粋して、多くの人の悩みの種である人間関係に関連する箇所を見ていきます。1回目のテーマは、「失敗を認められない人」。そうした人たちが何を考えているのか、どう接したらいいのかを考えます。
失敗を安易に責めてはいけない理由
これまでお話ししてきたように、何かを正しく把握し、正しく理解して正しく記憶し、さらにそれを正しく人に伝える。私たちが「当たり前だ」と思って行っていることは、実は大変な認知の力に支えられています。
そして、そうした理解やコミュニケーションの過程では、残念ながら、「勘違いをした」「忘れてしまった」「聞いていなかった」「間違えた」「見逃していた」などの失敗も起こり得ます。
特に最近では、技術などの進展によって、様々な物事を同時並行的に行うことが増えたことで、認知の力にも大きな負荷がかかっています。そうした環境下で、ますます失敗が起こりやすくなっているといえるでしょう。
多くの仕事は、複数の人間の高次の認知の力に支えられています。自分自身は間違えていなくても、関わる人間が増えるごとに話が変わってしまい、結果的に失敗になってしまう、ということもあり得ます。
そうした間違いや失敗はやむを得ず起こってしまうものとして、では、どうすれば、そうした間違いや失敗からの影響をなるべく最小限に抑えることができるのでしょうか。失敗から学びを得て、改善していくことで、コミュニケーションの力を磨く方法について考えていきましょう。
失敗や間違いを認められないのは「性格」か?
ビジネス書や啓発書では、失敗について語られることは多いものです。失敗が貴重な機会であるということに関しては、異論はありません。
ただ、大切なのはそのあとです。その失敗を分析できるかどうか。失敗そのものではなく、大切なのは「失敗の分析」なのです。
分析力がない人はただ失敗して凹(へこ)むだけで、失敗を重ねることになってしまいます。失敗は分析とセットでなければ意味がありません。
そして分析をしたら、修正をしていく。「失敗・分析・修正」をセットでできる人だけが、「失敗は貴重な機会だ」と言うことができるのです。
そもそも失敗に気づき、そうと認めるためにもまた、認知の力が必要です。多くの人は、「失敗を認められない人」に対して、「意固地だ」「度量がない」などと性格面での感想を持ちがちですが、実は性格だけの問題とは限りません。
なぜなら、そもそも人は、自分が持っているバイアスに気がつくことが、簡単にはできないからです。これに関して、日本企業に勤める営業職のGさんが、興味深い体験談を話してくれました。
力作の営業パンフレット 一目で「ダメだ」と言われた理由とは
北米の営業担当であるGさんは、自社サービスについてパンフレットを制作し、ミーティングをしたそうです。その際に持っていったパンフレットは、次のようなものでした。
ところが、このGさんのパンフレットを見た瞬間、米国企業のマーケティングディレクターのJさんは一言、こう言ったそうです。「これじゃダメだ」
Jさんが「ダメだ」と言うまではほんの一瞬のことでしたから、サービス内容がダメだとか、必要な情報が抜けているとか、そんな話ではないはずです。では、何がダメだったのか?
皆さんもちょっと考えてみてください。
そもそも人は、自分のバイアスに気づけない
Gさんはしばらく考えたものの、何がどうダメなのか、わかりませんでした。そこで、Jさんに聞いたそうです。
すると、指摘をされたのは、性別と役割が結びつけられたイラストでした。アナリストや研究者、営業など、給料が高そうな役割の人は皆、男性。一方で、女性が描かれているのはオペレーターだけでした。
責任ある仕事は男性、サポート役は女性という無意識が、その図を作成したGさんに、そしてこの図でGOを出したGさんの職場には働いていたことがわかります。Jさんに指摘されて初めて、Gさんは自分にバイアスがかかっていたことに気がついたと話していました。
この事例で言いたいのは、「日本人はジェンダーの意識に疎い」ということではありません。
アメリカのあるオーケストラで楽団員のオーディションの際に、採点者と応募者の間にスクリーンを立てて視覚情報を遮断したら、女性の採用率が50%も高まったという話があるように、アメリカ人も例外ではないのです。
私たちは、誰もが何かしらのバイアスを持っていて、しかもそれに気づいていない。その前提の上で意思決定をしていて、そうした行動を通して「性格」が判断されている。
メタ認知
を磨き、こうした事実に気づいているからこそ、ビジネスの達人たちは都度、自身を振り返り、「反省」をしているのでしょう。
有効な反省にもメタ認知が必要
少し余談にはなりますが、的確に反省をするためにもまた、メタ認知の力が必要だということもお伝えしておきます。
例えば子どもが算数の問題を解いていて、途中で考え方を間違えてしまった場合、どこで考え違いをしたのかに気づくには、少なくともそれが「間違いだ」と気づく力がないといけないのと同様です。問題の難易度が上がれば、より高い算数の力が求められるはずです。
今回の取材では、
「自分は反省の連続です。達人だなんてとんでもない」
とおっしゃる方がほとんどでしたが、達人たちは達人たちのレベルで反省をして、ますますコミュニケーションの力を向上させています。であれば、まだその域に達していない私たちもまた、自分のコミュニケーションを振り返り、向上すべき点を考えることが必要といえるのではないでしょうか。
今井むつみ著/日経BP/1870円(税込み)

