「今まで何度、『ちゃんと見直しなさい』と言ったことか。実は難しいことだったのか」。こんな感想が寄せられているのが、書籍『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?』(日経BP)です。本書の背景にあるのは「人は、聞き逃し、都合よく解釈し、誤解し、忘れるもの」という考えであり、これは認知科学における「常識」だと今井むつみさんは指摘します。この常識を知らないばかりに、多くのトラブルや悩みが起こっているというのです。本パートでは引き続き、同書から抜粋して、子育てや教育の現場で起こりがちな「伝わらない」の本質的な原因に迫ります。5回目は、メタ認知について。幼い子どもの中には、時間があっても「テストの見直し」ができない子も少なくないといいます。その理由を見ていきます。
「相手の気持ちになって考える」とはどういうことか
「話せばわかる」「言えば伝わる」というのは、「自分が発言して終わり」ではありません。相手が「わかる」ところ、内容が「伝わる」ところまでを考えている以上、「話された人」「言われた人」のことも考えなければなりません。
子どもの頃、誰もが一度は、次のように言われたことがあると思います。
「相手の気持ちになって考えなさい」
特にコミュニケーションにおいては、「相手のことを考える」は当然のことで、それはやればできること、という前提で言われます。
また、ときに「非認知能力」としてまとめられてしまうこともあり、道徳の授業などでは常套句(じょうとうく)のように使われるものでもあります。
しかし、「相手の立場に立つ」「相手の気持ちになって考える」というのは、単に思いやりを持てということではありません。
「相手の立場に立つ」ための「メタ認知」
ここでは、「相手の立場で考える」ことに関連の深い、「メタ認知」について見ていきましょう。
「メタ認知」という言葉は、マインドフルネスなどの分野でも使われることも多いため、最近では聞いたことのある方も多いと思います。平易にいうと、「自分自身の意思決定を客観視すること」です。
ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンの著書『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?』(ハヤカワ文庫)によると、私たちは意思決定の大半を「直感」で行っているといいます。
カーネマンは、この直感による意思決定を「ファスト思考」、別名「システム1」思考と呼び、時間をかけて熟慮する知的活動を「スロー思考」「システム2」思考と呼んでいます。そして私たちの意思決定は大半が実はシステム1思考に委ねられていること、そしてシステム1思考による意思決定は人間にとって効率がいいだけでなく、「おおむね正しい」ことが、本書では指摘されています。
システム1思考による意思決定は、「おおむね正しい」。それは、裏を返せば、ときに間違っていることがある、ということです。この間違いをシステム2思考によってチェックすること。これが「メタ認知を働かせる」ということです。
テストの見直しにはメタ認知の力が必要
メタ認知の典型的なものが、「テストの見直し」です。多くの方は、いったん最後まで解き終わってもそれで終わりにせず、最初に戻って合っているかを振り返ると思います。
このときには、自分の考え方は合っているのか、出した答えは合っているのか、ケアレスミスはしていないかなどの確認を行っているはずです。システム1思考で下した判断を、客観的に見直しているというわけです。
ただ、時間に余裕があっても、テストの見直しができない子どももいます。
「見直しをしなさい!」
と親に何度も口うるさく言われても、なぜ見直さなければいけないのかがわからない。
これは、そもそもメタ認知の力が養われていないといえるでしょう。あるいは過去の自分との付き合い方をまだ知らないといえるかもしれません。
親からすれば、「余った時間でテストを見直す」のは当たり前の、何でもないことかもしれません。しかし、子ども、特に幼い子どもからすれば、「自分の思考の過程や、出した答えを振り返る」というのは、自然にできることではないのですね。
ビジネスにおいて、メタ認知をうまく働かせることのできない人は、自身がつくった資料などを見直すことや、指示通りに自分が動けているかを見直すことが苦手です。そのため「配慮が足りない」「雑だ」などと評価されたり、非認知能力や性格の問題と片づけられたりしがちです。
しかし、やはり「メタ認知」もまた、非認知能力の問題でも、性格の問題でもありません。重要な認知の問題なのです。
今井むつみ著/日経BP/1870円(税込み)
