しつこい肩こり、繰り返される腰痛……。そんな全身の不調の原因が、実は「首」にあるかもしれません。長時間のデスクワークやスマートフォンの使いすぎで首に負担がかかり、それが肩こりや頭痛、腰痛、疲労感などの症状を引き起こしているのです。フィジカルトレーナーの中野ジェームズ修一さんが、「首の骨=頸椎(けいつい)」をケアすることで不調を一掃するメソッドを解説した『 すごい頸椎 首・肩・腰を一気によくする 』から一部を抜粋・再編集してお届けします。今回は、頭が前に出て、首がまっすぐになってしまう「スマホ首」がどれだけ健康に被害を与えるか、という話です。
不調を招く「フォワードヘッドポスチャー」
頸椎(首の骨)は通常、ゆるいカーブを描いています。最近よくメディアで取り上げられるようになった「スマホ首」とは、その頸椎がまっすぐになってしまった状態のこと。頭を前に突き出した姿勢でスマートフォン(スマホ)の画面を凝視していると、次第に頸椎のカーブが失われてしまうおそれがあります。
これはデスクワークで長時間にわたってパソコンの画面を凝視していても同じです。また、昔からよくいわれている「ストレートネック」も、頸椎がまっすぐになっている状態です。
フィジカルトレーナーとしてさまざまなクライアントと接するなか、首の不調を訴える人が増えてきたと感じるようになったのは、新型コロナウイルス禍の頃でした。テレワークが広がり、通勤がなくなって体を動かす機会が減り、パソコンのディスプレイに向かって作業する時間が長くなった結果、頭が前に出て、首がまっすぐになってしまうのです。
スマホの普及も首の不調とつながっています。職業柄、街中を歩く人たちの姿勢をつい観察してしまいますが、10代、20代の若者だけでなく、スマホを手にした小学生にも、スマホ首が増えていると感じます。これは私が指導する大学生アスリートも例外ではありません。日本にスマホが登場してからまだ20年もたっていませんが、日本人の首のかたちはここまで変わってしまいました。

ストレートネックやスマホ首を専門的な言葉では、「フォワードヘッドポスチャー(Forward Head Posture)」といいます。日本語では「頭頸部前方位姿勢」であり、その名の通り頭部が前方に出た姿勢を意味します。
体を横から見たときに肩峰(肩の一番高いところにある骨の突起)よりも耳の穴が前方に出ていると、フォワードヘッドポスチャーであると評価されます。いわゆる猫背の人もこのような状態になっていることが多いですよね。
通常、頸椎がゆるやかなカーブを描いている状態だと、クッションがうまく働き、歩いたり走ったりするときにかかる衝撃を吸収できるしくみになっています。
これがフォワードヘッドポスチャーだと、頭が常に前に出ているので、首の一部の筋肉に負荷がかかり続けます。また、ゆるやかなカーブがないことで、衝撃がダイレクトに伝わり、一部の筋肉にはさらに大きな負荷がかかります。
そして首や肩の周りにある筋肉が過剰に緊張したり、血行不良を起こし、首が張ったり痛みが出たりするのです。
頸椎症やヘルニアにつながることも
このようにフォワードヘッドポスチャーの状態では、筋肉にかかる負荷のバランスが崩れ、一部の筋肉ばかりが緊張する一方で、あまり働かない筋肉も出てきます。すると、あごの肉をリフトアップする力が低下することがあり、やせているのに二重あごになってしまう人もいます。
ちなみに、運動不足もフォワードヘッドポスチャーに拍車をかけます。運動しない人は座った姿勢でスマートフォンを長時間使いがち、というのもあるかもしれませんが、運動不足だと首周りの筋力も低下するからです。
ウォーキングやランニング、あるいはさまざまなスポーツを行うとき、私たちの頭は上下に揺れます。それを支えるために自然と筋肉が働くので、特別なトレーニングをしなくても定期的に体を動かすだけで首の筋肉は鍛えられます。これが運動不足になると、頭を支えるための筋力が衰えます。すると、頭が前に出やすくなり、スマホ首が悪化しやすくなるのです。
スマホ首によって二重あごになるのも嫌ですが、もっとやっかいなのが、「頸椎症」や「頸椎椎間板ヘルニア」のように、神経が圧迫されて痛みやしびれが起きる病気です。フォワードヘッドポスチャーは、頸椎症や頸椎椎間板ヘルニアと密接に関係しているので注意が必要です。
年齢を重ねると、頸椎が次第に変形してきて骨のとげ(骨棘)ができたり、頸椎の周りにある靭帯が厚くなったりして、神経を圧迫します。これが頸椎症で、時間をかけてじわじわと進行していきます。一方、頸椎椎間板ヘルニアは、頸椎を構成する7つの骨である椎骨(ついこつ)同士の間にある「椎間板」という軟骨組織が飛び出して神経を圧迫するものです。30代~50代と比較的若い世代でもなることがあり、ある日突然発症するのが特徴です。
また、加齢によって首の骨や椎間板がすでに傷んでいる状態、つまり頸椎症が少し進んでいるような状態の人が、フォワードヘッドポスチャーの姿勢をとり続けていると、弱った椎間板が破れて頸椎椎間板ヘルニアが突然起きることがあります。
頸椎椎間板ヘルニアになると、飛び出した椎間板の一部が付近にある神経を圧迫することで、手や腕などに痛みやしびれが起きます。そのほかにも、目の奥の痛みやめまい、頭痛が起きたり、呼吸が浅くなり、慢性的な倦怠感や集中力の欠如といった障害が現れることもあります。
飛び出した椎間板は、安静にしていると数カ月もすれば体内で自然と吸収されるので、症状も治まってきます。ただ、骨のとげが原因の頸椎症の場合、飛び出した椎間板のようには吸収されません。

いずれにせよ、頸椎症や頸椎椎間板ヘルニアが疑われるときは、きちんと整形外科を受診し、医師に診断してもらうことが大切です。
フォワードヘッドポスチャーは、「頭が前に出ていてかっこ悪い」という見た目の問題だけではなく、頸椎の変形から深刻な病気につながる場合もあることを覚えておきましょう。
[日経ビジネス電子版 2026年9月18日付の記事を転載]
中野ジェームズ修一(著)/日経BP/1870円(税込み)
