AI(人工知能)は「道具」から「相棒」へ。暮らしや仕事は「自ら手を動かす」から「AIに意図を伝えて結果を待つ」へと根本的に変わります。アプリを開く、検索する、予約する――こうした「操作」の時代は終わり、AIエージェントが学習しながらタスクを行う「委任」の時代が始まります。2030年の社会やビジネスを鮮やかに描いた日経ムック『AI時代の未来地図 2030年の人・社会・ビジネス』(NTTデータ経営研究所監修)から抜粋・再構成してお届けします。

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(イラスト:そねぽん)
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AIが常時隣にいる相棒となる

 現在の私たちは、スマホの中にアプリをいくつも並べ、用途ごとに開いては閉じ、指で操作しています。航空券を取りたければ予約サイトへ、予定を入れるならカレンダーへ、領収書を出すなら経理システムへ――これは突き詰めれば「人間が機械の都合に合わせている」状態であり、私たちはそのことに長く慣れすぎてしまっています。

 2030年には、この「アプリを開いて操作する」という概念そのものが、急速に背景化していきます。

 「来週の大阪出張、いつもの感じで手配しておいて」と一言伝えれば、個人のAIエージェントが、過去の出張パターンや会議スケジュール、予算規程までを理解したうえで、航空会社、ホテル、経理システム、タクシー配車サービスのAIと裏側で勝手に通信し、最適なプランを提示してくれます。

 私たちが確認すべきは「この案で良いか」だけです。

 AIはその人のことを学習して、成長していきます。

 日常の会話と同じ温度感で「意図」を伝えれば、AIが文脈を読み、過去の好みや制約を踏まえ、必要に応じて聞き返しながら、タスクを完遂する「自律型エージェント」が常時隣にいる相棒となります。

 スマートグラスや車載デバイス、家庭内のディスプレイなど、AIにアクセスする入り口は増え続け、特定のデバイスに縛られない「環境としてのAI(AmbientAI)」が現実のものになっていきます。

(イラスト:そねぽん)
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人は面倒な手続きから解放される

 この変化は、消費者の購買行動、情報接触、意思決定のあり方を根本から変えます。ウェブサイトを巡回して比較検討する時間は激減し、「私の代わりに調べて、3つに絞って提案して」というAIへの委任が標準になります。広告は「人間に届ける」のではなく「AIエージェントの推薦リストに載る」ことが目的化し、UI(ユーザーインターフェース)は画面ではなく対話そのものへと移行します。

 企業側から見ればこれは、「ユーザーとの接点」が決定的に変わることを意味します。これまで磨き込んできた自社アプリのUI/UX(ユーザーエクスペリエンス)、サイトの導線設計、検索広告のキーワード戦略――これらの多くが、AIエージェントを介した「対AI」のインターフェース設計に置き換わっていきます。

 「AIに選ばれる商品・サービス」になるための新しいSEO(AI最適化)、AIに伝わりやすい構造化された商品情報、AI同士で交渉可能なAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)の整備が、競争の前提条件となります。

(イラスト:そねぽん)
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 一方で、暮らしの側から見ると、これは大きな解放でもあります。保険の見積もり比較、引っ越し業者の手配、医療予約、確定申告、相続手続き――こうした「面倒で、しかし重要な」手続きの多くから、人間は解放されていきます。

 高齢の親の生活サポート、共働き家庭の育児・介護の段取り、自営業者のバックオフィス業務――社会的に大きな負担となっていた領域に、AIエージェントが優しく入り込み、人間は「家族との時間」「創造的な仕事」「自分の心と向き合う時間」へと、リソースを振り向けることができるようになります。

 もちろん、すべての人がこの恩恵を平等に受けられるわけではありません。AIを使いこなせる層と、そうでない層の格差――いわゆるAIデバイドは、所得格差・情報格差をさらに増幅する可能性があります。

 高齢者、障がい者、地方居住者、外国人居住者など、すべての人が等しくAIの恩恵を受けられるよう、行政、企業、地域コミュニティが連携した普及策と教育が、社会の喫緊の課題となっていきます。

たった数年で、SFの世界が現実になる――。

2030年、AIによって社会やビジネスはどのような姿になっているのか。そして、その未来に向けて、企業は今、何を変えていくべきなのか――。これから起こり得る変化と競争に勝ち残る企業の特徴を、直感的なマンガとイラストを用いて鮮やかに描く。

NTTデータ経営研究所監修/日本経済新聞出版/2200円(税込み)