1つの巨大AI(人工知能)がすべてを担うのではなく、無数の専門AIが連携する時代がまもなく到来します。会社内、業界内、社会全体で、AIエージェント同士が標準プロトコルで連携し、タスクを分担しながら自律的に協働する世界が立ち上がります。2030年の社会やビジネスを鮮やかに描いた日経ムック『AI時代の未来地図 2030年の人・社会・ビジネス』(NTTデータ経営研究所監修)から抜粋・再構成してお届けします。
混沌から「集約」と「分散」に向かう
「AI元年」といわれた2023年から数年、市場には驚くほど多種多様なAIが並び立つようになりました。
汎用的な大規模言語モデル(LLM)、画像生成専用モデル、音声合成モデル、動画生成モデル、医療画像診断、法務ドキュメント分析、コーディング支援、財務分析――専門領域に特化したAIモデルや、業界別の業務アプリケーションが、文字通り「乱立」しています。
一見すると混沌に見えるこの状況ですが、これは過渡期の現象です。2030年に向けて、業界では2つの大きな潮流が同時に進みます。
1つは「集約」。少数の超巨大基盤モデル提供企業が、AIエコシステムの土台を握る動き。もう1つは「分散」。業務領域ごとに最適化された専門AIが、企業内外で並存する動き。この両者は対立せず、むしろ層構造として補完し合います。
政府が主導する汎用的な知能
集約レイヤーでは、超巨大基盤モデルが、論理推論、言語理解、コード生成、画像理解といった「汎用的な知能」を提供し続けます。これは現在、グローバルAI企業数社の寡占状態ですが、各国・各企業がそれぞれ独自基盤モデルの開発も進めています。
日本でも、日本語、日本文化、日本の業務慣行に最適化された独自モデルへの投資が、政府主導で進んでいます。
一方の分散レイヤーでは、それぞれの企業が、自社固有のデータ、業務知識、顧客文脈を学習させた「ドメイン特化AI」を実装します。製薬会社は創薬AI、銀行は与信判断AI、製造業は予兆保全AI、自治体は住民問い合わせAI――こうした専門AIが、汎用基盤モデルの上に薄く乗る形で構築されます。
AI間の協業が標準ルールを構築
ここから生まれる新しい現象が、「AIエージェント間の協業(A2A:Agent to Agent)」です。
例えば、社員が「来月の海外出張、ビザ取得から経費精算まで一通りお願い」と一言頼むと、その社員の「個人秘書AI」が、社内の「人事AI」「経理AI」「総務AI」、社外の「航空会社AI」「ホテルAI」「ビザ発給代行AI」と並列に通信し、案件を分担しながら1つのゴールに向けて協業する――こうした多エージェント協業が、2030年の業務遂行の標準形となっていきます。
この協業を支えるのが、エージェント間の通信プロトコルです。「誰がどのエージェントに、どんな権限で、何を頼めるか」「結果はどう返ってくるか」「責任はどこが取るか」を、機械的に解釈可能なルールとして定義した標準仕様(A2AプロトコルやMCP:Model Context Protocolなど)が普及します。これにより、企業の境界を越えたAIエージェント連携が、現在のウェブサービスのように当たり前になります。
AI時代に不可欠なAPI化とガバナンス
企業にとって重要なのは、自社のシステム、データ、業務プロセスを「外部のAIエージェントから呼び出せる形」に整備しておくことです。
各業務システムをAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)化し、適切な認証・権限設計を施し、社外エージェントが自社サービスにアクセスして取引や手続きを完了できるようにする――これは、かつてウェブサイトを持つことが必須となった2000年代初頭の変化と同じか、それ以上の意味を持ちます。
同時に、AIガバナンスの設計が極めて重要になります。「外部AIに何を任せ、何を任せないか」「機密データはどこまで渡せるか」「AIエージェントが起こした事故の責任は誰が取るか」――こうした問いに、各社が自社のリスク選好に応じた答えを持つ必要があります。
法務、情報セキュリティ、コンプライアンスの専門家とAI推進部門が一体となって、AIエージェント時代のガバナンスを設計していくことが、経営の重要課題となります。
各企業において、経営層やAI推進部門が主導して導入する「しっかり企画されたAI」と、各所で末端の社員が自分でバイブコーディング(自然言語の指示のみでアプリケーションなどをつくる方法)をする「自由に現場でつくられたAI」が乱立する状況になります。
欧米の先進事例を見ると、前者だけでなく後者を推奨することで、実際の業務量やサービス品質に大きなインパクトを生むことができると捉えられます。「市民開発」的な活動を一方的に締め付けるのではなく、一定のガバナンスと監視で安全性を担保しながら推奨し、横連携を促し、効果を刈り取ることが重要になるでしょう。
2030年、AIによって社会やビジネスはどのような姿になっているのか。そして、その未来に向けて、企業は今、何を変えていくべきなのか――。これから起こり得る変化と競争に勝ち残る企業の特徴を、直感的なマンガとイラストを用いて鮮やかに描く。
NTTデータ経営研究所監修/日本経済新聞出版/2200円(税込み)



