「つくる」は、もはや専門家だけの領域ではなくなります。AI(人工知能)に対話で要件を伝えるだけで、誰もがアプリ、デザイン、分析レポート、動画、契約書をつくれる時代へ。IT部門と業務部門の境い目が溶け、企業の創造力の源泉が大きく変わります。 2030年の社会やビジネスを鮮やかに描いた日経ムック『AI時代の未来地図 2030年の人・社会・ビジネス』(NTTデータ経営研究所監修)から抜粋・再構成してお届けします。

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(イラスト:そねぽん)
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専門領域の垣根を一気に飛び越える

 これまで、何かを「つくる」ことは、限られた専門家の特権でした。アプリをつくるにはエンジニアが、デザインをつくるにはデザイナーが、分析レポートをつくるにはアナリストが、動画をつくるには映像制作チームが、契約書をつくるには法務担当者が必要とされてきました。

 これは「専門知識を持つ人にお願いする」という業務の構造を生み、結果として、現場のアイデアが形になるまでに数カ月から数年かかるという、大きなボトルネックを生んでいました。

 AIによる「Generative Shift(生成的転換)」は、この構造を根底から覆します。

 2030年には、業務上のアウトプットの大半は、業務担当者自身がAIと対話しながら直接つくり出すものになります。

 営業担当者は、自分のテリトリー専用の顧客分析ダッシュボードを、AIに30分話しかけてつくります。人事担当者は、新人研修用のインタラクティブ動画を、AIにシナリオを口頭で説明するだけで生成します。経理担当者は、月次レポートの自動生成スクリプトを、業務知識をAIに伝えるだけで作成します。法務担当者は、典型的な契約のドラフトを、争点だけ指示すれば即座に書き上げます。

集中すべき役割のシフト

 まず、社内システムの開発が劇的に変わります。従来は、要件定義→外部ベンダーへの発注→数カ月の開発→受け入れテスト、というプロセスを経て、1つのシステムに数千万円から数億円が投じられていました。

 今後は、業務担当者がAIと対話しながらプロトタイプを数時間でつくり、実際に使いながら磨き上げていく「バイブコーディング」「ノーコード×AI」のスタイルが主流になります。

 マーケティング・広報の領域では、コンテンツ制作のあり方が一変します。ブランドのトーン&マナーを学習させたAIが、SNS(交流サイト)投稿、ブログ記事、商品紹介動画、バナー広告、メールマガジンを、一貫した世界観で大量生成します。担当者は「方向性の決定」と「最終チェック」「ブランド毀損の防止」に集中できます。

 デザイン・クリエーティブの領域でも変化は鮮明です。プロダクトのワイヤーフレーム、UI(ユーザーインターフェース)デザインの初期案、商品パッケージの試作、店舗内装のシミュレーション--従来であれば外部のクリエーティブエージェンシーに委託していた作業の多くが、社内で完結します。プロのデザイナーは「AIが大量生成した案を、ブランドの観点から選別し、磨き上げる」役割へとシフトします。

(イラスト:そねぽん)
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組織構造や社外との関係が変化

 これらの変化は、企業の組織構造に大きな影響を与えます。「専門部門に依頼する」という慣行が薄れ、「業務担当者がAIと協働して直接つくる」というスタイルが広がります。

 IT部門の役割は、個別案件の開発から、AI活用基盤の整備、ガバナンス、セキュリティ、AI活用が苦手な部署への伴走支援へとシフトします。

 マーケティング、広報、デザイン、法務などの専門部門も、同様の役割転換を迫られます。

 さらに、外部企業との関係も変わります。外注の比率は確実に下がります。一方で、「AIではつくれない高度な創造性」「責任を伴う最終判断」「人間の温度感が必要な仕事」を提供する外部パートナーへの依存は、むしろ深まるでしょう。外注の総量は減るが、単価は上がる――こうした二極化が進みます。

つくるの民主化はリスクと隣り合わせ

 ただし、注意すべき点もあります。誰もが「つくれる」時代は、「品質の劣化」「ブランドの毀損」「セキュリティ事故」のリスクと隣り合わせです。社員が独自につくったツールがセキュリティホールを生む、AIに著作権侵害コンテンツを生成させる、誤った情報を含むレポートが社外に出る――こうした事故を防ぐためのガバナンス、教育、ガードレールの整備が必須となります。

 「つくるの民主化」を、「事故の民主化」にしないことが、経営の重要な責務となります。

(イラスト:そねぽん)
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たった数年で、SFの世界が現実になる――。

2030年、AIによって社会やビジネスはどのような姿になっているのか。そして、その未来に向けて、企業は今、何を変えていくべきなのか――。これから起こり得る変化と競争に勝ち残る企業の特徴を、直感的なマンガとイラストを用いて鮮やかに描く。

NTTデータ経営研究所監修/日本経済新聞出版/2200円(税込み)