リーダーによって結果に差が出るのだろうか? ビジネス界ではCEO(最高経営責任者)の高額報酬について疑問が生じている。アメリカでは多くのCEOが自分には会社に利益をもたらす特別な能力があると主張し、莫大な報酬を受け取ることを正当化する。そのような主張は正しいのだろうか? ベストセラー『銃・病原菌・鉄』のジャレド・ダイアモンド博士の最新作『 商人・預言者・指導者・王 リーダーは本当に歴史を動かすのか 』(土方奈美訳/日本経済新聞出版)から「プロローグ」を抜粋・再構成し、5回に分けて公開する。今回は第4回。


リーダーによって結果に差が出るのか?

 リーダーによって結果に差が出るのか、なぜ考える必要があるのか。この問いと向き合う本書を読むべき理由は何か。考えられる理由の1つは、興味があるからだ。みなさんもきっと、さまざまな場面で同じ問いを抱いたことがあるだろう。多くの人がリーダーの伝記に惹(ひ)かれるのはこのためだ。

 だがリーダーによって結果に差が出るかを考えることには現実的な理由もある。民主国家の市民には政治リーダーによって結果に差が出るのか否か、自問する機会が頻繁にある。

 選挙で投票に行く意味があるのか、(投票に行くとすれば)誰に投票するのか、あるいは支持する候補者のために時間やお金を投じるべきかを考えるときなどだ。

 アメリカでは有権者登録をした市民のなかでも、実際に投票するのは大統領選挙でさえ60%程度にとどまる。私の住むロサンゼルスの市長選挙では20%に過ぎない。一方、イタリアやインドネシアの国政選挙の投票率は80~93%に達することが多い。投票すべきか否かをめぐり、誤った判断を下しているのはどちらの市民だろう。

 あるリーダーの弊害がひどすぎると感じたら、その人物の暗殺に自分の命を賭けてもいいと思うだろうか。この問いに「イエス」と答え、その結果命を落としたのが1944年7月20日にヒトラーの暗殺にあと一歩のところで失敗したクラウス・フォン・シュタウフェンベルク、そして1935年9月10日にアメリカで唯一の独裁者的政治家だったルイジアナ州選出の上院議員で元州知事のヒューイ・ロングを暗殺することに成功したカール・ワイスだ。

CEOの高額報酬に根拠はあるか?

 ビジネス界ではCEO個人の役割についての疑問が常に生じる。アメリカでは多くのCEOが自分には会社に利益をもたらす特別な能力があると主張し、莫大な報酬を受け取ることを正当化する。取締役や株主総会に出席する株主は、そのような主張が正しいのか評価しなければならない。

 主張が本当に正しいのなら、毎年数十億ドルの利益を稼ぎだす会社が、そのうちほんの数億ドルをCEOに報酬として払うのは理にかなっている。だが主張が間違っているなら、年数十万ドルの報酬で同等の能力のある多くの候補者からCEOを選ぶべきだ。

 会社の業績が振るわない場合、取締役会はCEOをクビにすべきだろうか、あるいはCEOが他の人物になっても同じ状況なら同じように業績は上向かないだろうか。

 野心あふれる将来有望な若いビジネスマンが世界に影響を与えたいと思うなら、どんな産業や国を選ぶと成功の確率を高められるだろうか(あらかじめお知らせするが、本書では公益企業より香水会社、ヨーロッパや日本よりアメリカでCEOになるほうが、成功の確率が高まることを見ていく)。

スポーツの監督は、チームの成績に影響があるのか?

 スポーツチームのオーナー、アメリカの大学の総長やスポーツ部長は、スポーツの監督にどれだけ報酬を払うべきか、成績不振のチームの監督は解雇すべきか、常に苦慮している。ビジネス界でCEOの巨額報酬が論争の的になるように、アメリカの大学界ではアメフトヘッドコーチは本当に学長の10倍もの報酬(カリフォルニア大学ロサンゼルス校[UCLA]の現状)を払う価値があるのかがよく話題になる。

 ここ20~30年でUCLAは成績不振を理由に次々とバスケットボールの監督やアメフトのヘッドコーチを解任してきた。UCLAはこれらの監督との契約期間の残余分を買い取るために数千万ドルを費やしたが、後任監督も同じように残念な結果しか残せなかった。

 だが、ときには新監督によって戦績が改善することもある。それは本当に新監督のほうが有能だからで、その功績を認められて高い報酬をもらう理由になるのだろうか。それとも監督とは無関係の偶然の要因によるのだろうか。UCLAその他の大学の学長やスポーツチームのオーナーに、どんなアドバイスができるだろうか。

新興宗教の存続と失敗は、何で決まるのか?

 クリスチャン・サイエンスの信者はメリー・ベイカー・エディが、そしてモルモン教の信者はジョセフ・スミスが神の啓示を受けたと信じている。だがこの2人と同じように啓示を受けたと主張する同時代人や、他の時代や他の国の預言者もいたものの、2人のように世界宗教の創始者にはなれなかった。モルモン教の成功はジョセフ・スミスの主張が19世紀アメリカの他の無数の教祖候補より正しかったことより、ブリガム・ヤングの組織能力やアメリカという国家の影響力の拡大によるところが大きいのではないか。メリー・ベイカー・エディについても同じ問いが成り立つ。

 リーダーの重要性はさまざまな時代や国で論議を呼んできた。アレクサンドロス大王やチンギス・ハンなど、特別な能力を持っていたとされる有名なリーダーの多くは、遠い過去に生きていた。

 だが私が本書で取り上げる歴史、ビジネス、スポーツ分野のリーダーはすべて、私と同時代に活躍した現代の人々だ。それはアレクサンドロス大王や当時の社会についてより、現代のリーダーや社会についてのほうが詳細な情報が入手できるためであり、読者にとって理解しやすいからだ。

 例外は宗教リーダーで、本書で取り上げるのはほとんどが19世紀の創始者だ。それは主要な世界宗教を創設する預言者の数は少なく、20世紀には事例が存在しないためだ。反対にビジネスとスポーツ分野で取り上げるリーダーはわずかな例外を除き、すでに最盛期を過ぎ、結果がはっきりわかっている人々だ。

 本書で取り上げるビジネスリーダーと19世紀の宗教指導者はアメリカに偏っている。その一因は、現代アメリカは他国よりも両者が成功する機会が大きかったからだ。スポーツリーダーとして紙幅を割くのは、あるUCLAの関係者だ。それは私自身が彼を知っており、また現代アメリカのスポーツ史において最も偉大な監督として広く認められている人物だからだ。

 サンプルがアメリカに偏っているため、本書の結論が他国にどの程度当てはまるかは今後見きわめる必要がある。政治、ビジネス、宗教リーダーの影響力の国による違いについては、すでに存在するエビデンスを紹介するつもりだ。

人類史を変える者の誕生は 偶然か、必然か。

歴史を変えるリーダーには特別な資質があるのだろうか。どんなときに、たった1人の人間が人類史を動かせるのだろうか。大ベストセラー『銃・病原菌・鉄』の著者、ダイアモンド博士が企業、宗教、スポーツ、歴史の4分野で人類の謎を壮大なスケールで解き明かす。

ジャレド・ダイアモンド著/土方奈美訳/日本経済新聞出版/2970円(税込み)