「昭和」が終わって三十数年。あなた自身が「昭和人間」の場合も、身近な「昭和人間」についても、取り扱い方にはちょっとしたコツが必要です。有効で安全なやり取りをするために考えた書籍『 昭和人間のトリセツ 』。「昭和人間」ならではの持ち味や真価を存分に発揮したりさせたり、インストールされているOSの弱点をカバーしたりするだけで、世代を超えた有意義な時間やコミュニケーションが生まれるかもしれません。今回は、「大人」という長い旅路について。
そういう趣旨の連載だからしょうがないんですが、昭和人間、昭和人間と、しつこく連呼してすみません。この連載を通して、昭和人間のみなさんが自分自身をどう取り扱えばいいのか、若いみなさんが周囲の昭和人間とどう接すればいいかを考えてきました。漠然と感じていたモヤモヤやイライラが少しでも晴れたり、考え方や価値観が違う世代がわかり合えるきっかけになったりしたら、著者としてはとてもうれしいです。
今さらこんなことを言うのも何ですけど、日々の生活の中で「昭和人間としては」「昭和人間だから」なんてことを意識する必要はありません。自分や誰かを大きなくくりに入れるのは、残念な動機や目的が伴いがちです。「日本人」しかり「男」しかり「女」しかり。学歴や出身地のくくりも悪用されがちですね。
昭和人間の当事者が(まだ言ってる)、こうして念入りに「昭和人間のトリセツ」について考えるのは何のためか。この連載最終回を書いているこの段になって、はっきり見えてきました。それは「よい大人」を目指すためです。
それなりに長く生きてきてそれなりの年齢になった私たちにとって、もっとも大切なのは、いかに「よい大人」として生きていくかではないでしょうか。お金も地位もキャリアも関係ありません。自分がいる環境や立場や人間関係において、いかに「よい大人」になれるかが、今後の人生を楽しく実り多く過ごせるかどうかをたぶん左右します。
私は31年前に『大人養成講座』(扶桑社)という本で、コラムニストとしてデビューしました。当時は30歳でした。本書でいう「若者のみなさん」の一人だった自分にとっての大人とは、謎と疑問に満ちた存在でした。失礼ながらけっしてカッコイイとは思えませんでしたが、大人に反発して「いつまでも少年の心を忘れたくない」なんて言っているのも、ぜんぜんカッコイイ印象はありませんでした。
あの本で目指したのは、自分がこれから大人として生きていくにあたって、できるだけカッコイイ大人、なるべく面白い大人、そして毎日を楽しく過ごせる大人への道筋を見つけることです。そのために、大人の生態の重箱の隅にスポットを当てて、一歩引いたところから「正しい大人」を養成するマニュアルという形式にしてみました。
以来、ずっと「大人」とは何かを考えつつ、あの手この手で大人をテーマにした本を書き続けています。いつの間にか、30歳のときには冷ややかに見ていた「大人」の年齢をとっくに追い越しました。はたして、自分は「ちゃんとした大人」になれたのか、なれているのか。あらためて考えると、はなはだ心もとない限りです。
唐突に個人的な昔話をしてすみません。同年代以上のみなさんは誰しも、かつて大人に反発したり少し憧れたりした時期があって、やがて自分なりの大人を悪戦苦闘しながらやり続けてきたわけですよね。そこはひとまず、お互いにねぎらい合いましょう。
大人という険しくて曲がりくねった道のりを歩む旅は、まだぜんぜん終わってはいません。むしろ、これからがクライマックスです。
聞かれてもいないのに白状するのはお恥ずかしいんですが、Webサイト「日経BOOKプラス」で2023年秋からやらせてもらった「昭和人間のトリセツ」の連載の裏テーマは「中高年にとっての大人養成講座」でした。昭和に生まれて、昭和の文化や価値観をたっぷりインストールされている昭和人間が、これからの大人ライフを楽しく実り多いものにする道筋を模索した次第です。
いくつになろうと、「人生はまだまだこれから」であることには変わりありません。これから先を「よい大人」として過ごし、より「よい大人」を目指していくためには、己の昭和人間っぷりをしっかりと自覚し、その強みや弱みを知ることが不可欠です。
その上で、ならではの持ち味を生かしたりならではの悪い癖に気を付けたりしながら、同世代とも別の世代ともいい関係を築いていきましょう。人によって「よい大人」のイメージはさまざまでしょうが、そこは何だってかまいません。大切なのは、フィニッシュを迎える日まで「明日はもっとよい大人になろう」と思い続けることです。
同年代のみなさん、あくまで自分ができる範囲での話ですけど、ジタバタやっていきましょう。若者のみなさんも、そんな姿を見て何かを感じていただけたら幸いです。
さあ、あらためて気合いを入れ直して、終わりのない「よい大人」への旅を続けましょう。いわゆる「幸せ」というのは、その旅路にこそある気がします。
- 生きる姿勢次第でこれからの大人ライフは楽しく実り多いものになる
- 己の昭和人間っぷりを自覚し、その強みや弱みを知ることは重要
- 「よい大人」を目指し続けるその旅路にこそ「幸せ」がある
文/石原壮一郎 写真/Adobe Stock
なぜ10年前の出来事を最近のことのように語ってしまうのか? LINEが無意味に長文になる理由は? ――仕事観やジェンダー観など多様な切り口から「昭和生まれの人間」の不可解な生態に肉薄し、その恥部をも詳らかにする日本初の書籍。「【注】知っておかなくても構わない昭和・平成用語集」も収録。
石原壮一郎著/日本経済新聞出版/990円(税込み)

