日本を代表するマーケター、森岡毅氏。USJ再建、マーケティング会社・刀の立ち上げ、「ジャングリア沖縄」開業など、森岡氏の活躍を支えた思考の核心を「名言」として抽出した『森岡毅語録』から、内容の一部を抜粋してお届けする。第1回は、納得できる人生とは何か、いかに生きるかの指針となる言葉。

「私はリスクを取っているのではない。
悔いを残さない生き方を選んでいるんだ」


言葉の背景
ジャングリア沖縄開業のおよそ1年半前に新テーマパークのコンセプトと概要が発表された。沖縄を起点とした日本経済の発展を見据える森岡に、ジャングリアが標榜する「Power Vacance!!(パワーバカンス)」の真意と成功に至る道筋を聞いた。さらに、このインタビューでは新テーマパークの施設の着想から実現に至るまでを振り返ったうえで、「公」の利益のために悔いを残さない人生の大切さが語られた。

森岡 沖縄にテーマパークを作ることは、すでにUSJに転じた2010年の末には発想していました。USJの経営再建に向けた成長戦略の最終ゴールでした。米ユニバーサル社にライセンス料を払う構造から脱却すべく、直営パークを世界に10カ所ほど建てる夢を描いたのです。米国に対する一種の“反逆”でした。

 あと少しで正式にスタートというところで、親会社が変わって計画が頓挫。その夜、仲間たちと飲んだ酒の苦さは今も忘れられません。何よりも沖縄の皆さんに申し訳なく、人が一生で謝る回数の100倍くらい謝罪しました。

 それでも、沖縄の持つポテンシャルを頭と心から押し出すことができなかった私は、USJを退社。やりたいことを自由にできる場として、マーケティング会社の「刀」を設立しました。もちろん、沖縄でのテーマパークの実現は目的の1つです。

 2025年の開業にこぎつけるまでの過程は「自己保存本能」とは全くの逆張りだったと思います。私にとって人生の目的は高い報酬を得ることではありません。突き詰めれば「生まれてきた証し」が欲しいのです。成功の保証がないビジネスの世界で、沖縄テーマパーク構想が大きなリスクだとはわかっていました。それでも、挑戦せずに死ぬわけにはいかないという強い思いがありました。この気持ちを共有するUSJ時代の仲間が、やがて会社を辞めて刀に再集結しました。

 人が増えるたびに、私のプレッシャーと責任感は高まりました。でも、リスクといっても命まで取られるわけではない。だから、私は自分への信用や信頼、プライド、資産のすべてを刀の事業に懸けられました。私の行動を不思議がる知人には、「私はリスクを取っているのではない。悔いを残さない生き方を選んでいるんだ」と説明をしたものです。

 沖縄北部の可能性に気づいた人は、今までもいたでしょう。だけど、リスクを取って観光事業を始める人はいなかった。思えば、私は子供の頃から、頭で面白いことを想像すると結果を確かめずにはいられない性分でした。時にはひどいいたずらをして、大人に眉をひそめられることもありました。今も私のやっていることは自己満足にすぎないのかもしれない。それでも、沖縄北部を起点に日本経済に影響を与えられたら、これにまさる喜びはありません。

「日経トレンディ」2024年2月号 「刀・森岡毅が明かす 勝ち筋のつくり方#3 沖縄・新テーマパーク『ジャングリア』編」コラム「今だから言える リスクを取っても悔いのない『生き方』を選んだ」より

2025年7月開業時のジャングリア園内マップ。東京ディズニーランドやUSJを上回る約60万㎡(写真提供:ジャパンエンターテイメント)
2025年7月開業時のジャングリア園内マップ。東京ディズニーランドやUSJを上回る約60万㎡(写真提供:ジャパンエンターテイメント)

「ナスビはナスビにしかなりません。
だから、立派なナスビを目指すのです」


言葉の背景
森岡は常々、ビジネススキルを磨くには、弱みを克服するより「強みを磨く」ことが重要だと説いている。強みを生かして、世の中の価値になるものを生み出すことが、プロとしての良い仕事につながる。そのためにまず自分の特徴を見極めるべきだと勧める。

森岡さんの弱点克服法を教えていただけますか。

森岡 そもそも私は、そういう発想はしません。人はよく自分の弱点を克服したいと願いますが、弱みを磨いても強みには転じないのです。それよりは自分の特徴をよく知り、強みに磨きをかけたほうが人生の意義が大きくなると信じています。自分がナスビに生まれたら、ニンジンに憧れてもしかたない。ナスビはナスビにしかなりません。だから、立派なナスビを目指すのです

では、立派なナスビになるのに必要な心構えとは?

森岡 繰り返しになりますが、まずは自分をよく知ることです。「自分の特徴はこれだ」と思っているのに、立派なナスビになれないとしたら、認識が間違っているのかもしれません。自分の強みは何かを見極める必要があります。結局、人間は自分の特徴を生かして勝負するしかないんです。

 ただし、強みの磨き方がわかっていなければ、結果はついてこないでしょう。社会的に成果を上げるということは、つまるところ、世の中に対してどれだけの価値をアウトプットできたかです。評価はいい意味でも悪い意味でも他人がすることなので、自分の願望ばかり述べていては何も始まりません。「自分なりにナスビに磨きをかけました」と言っても、それが世の中の人が求める味や見た目でなかったら、やっぱり選ばれないですよね。自分の周りに同じようなナスビっぽい人がいたとして、長いナスビや甘いナスビになれば、突き抜けた存在になって目立つでしょう。でも、三角形のナスビになったとしても、さほど人々に求められないはずです。それはもはやナスビですらないですから。

 まずは他人からの評価に耐えられるものを提示すること。そこから勝ち筋が見えてくるのではないでしょうか。本当に価値のある立派なナスビになれるかどうかの分かれ道は、そこにあると思います。

自分の強みをいかに世の中のために使うかが大切ですね。

森岡 そうです。ですから、私はよく「自分の力を自分以外の誰かのために使うのがプロです」と言っています。言い換えれば「自分の特徴を世の中に生かすのがプロ」ということです。世の中の人にとって価値を生まない能力というのは、存在しないのと同じことです。たとえ正義が自分の中にあるとしても、評価はあくまでも他人が決めるもの。人の役に立つナスビになる戦略を考えねばなりません。

「日経トレンディ」2021年3月号 ザ・インタビュー「大切なものを見極め、守り抜く リーダーシップはコロナ禍の武器」の取材ノートより
USJの再建に始まり、自身が立ち上げたマーケティング会社、刀では、テーマパーク、食品、金融など多彩な領域で成果を挙げ、2025年7月には悲願の「ジャングリア沖縄」開業を成し遂げた森岡毅氏。幾多の困難に直面しながらも、目標達成に向かって突き進んできた森岡氏は、何を支えとしてきたのか。森岡氏の取材を重ねてきた著者がインタビュー記録の中から、森岡氏の考え方の核心と言える「名言」を抽出し、1冊にまとめました。森岡氏の哲学を育んだ幼少期からのヒストリー、「ジャングリア沖縄」の現在地と未来への展望を語ったインタビューも収録。

奥井真紀子著、日経BP、1760円(税込み)