日本を代表するマーケター、森岡毅氏。USJ再建、マーケティング会社・刀の立ち上げ、「ジャングリア沖縄」開業など、森岡氏の活躍を支えた思考の核心を「名言」として抽出した『森岡毅語録』から、内容の一部を抜粋してお届けする。第2回は、自分を勇気づけ、壁を乗り越えるヒントとなる言葉。
「新しいことを始めるのは、その結果がどうであれ、
何もしないよりよっぽどいいのです」
全く新しいタイプのライブ娯楽体験施設を開くにあたって、既存の概念を打ち破る難しさがあったのではないでしょうか。
森岡 その通りです。誰も体験したことがない新しい価値を発想して、どう実現していくかが、私自身の大きなテーマです。発想というのは基本的に今までの経験の枠内から出てきますが、ありきたりからどのように逸脱するかがとても重要です。
イマーシブ・フォート東京に関しても、困難だけれど、何をどう学べば新たな可能性を広げられるかと本気で考えました。リスクが高いとわかっていても、次の階段を上がるために必要な経験を重ねて、学びを得ることに挑戦しなくてよいのか、と悩みました。
そもそも私は「何ができて、何ができないか」で分ける発想はしません。人に喜んでもらうには、社会にとって意味があるものになるには、何をどのように達成していかなければならないかというように考えます。すべての人にとって、よりベターな価値を想像するのです。素晴らしいイマーシブ体験が多くの人に楽しまれて、それによって大きな経済効果が生まれる未来がいいに決まっているじゃないですか。挑戦しないという選択はないと覚悟を決めました。
今の日本には新たなチャレンジをしにくい土壌があるのですね。
森岡 何か新しいことを発想する時に、減点法でマイナス面ばかり数えて、結局「失敗したくないから」と途中でやめてしまう日本人が増えているように感じます。それが日本の停滞につながっているのではないでしょうか。もちろん、かつてないことへの挑戦の全部が全部当たるわけではありません。それでも、私は何かに挑戦しようとう時は減点法ではなく加点法で評価すべきだと思います。そうすれば、チャレンジしやすい土壌が育まれるはずです。
新しいことを始めるのは、その結果がどうであれ、何もしないよりよっぽどいいのです。そして、新しいことに挑戦した人は体験と知識が身について賢くなるので、次はもっと面白いものを作れるでしょう。そう思いながら、私は全国各地のプロジェクトに精魂を込めて取り組んでいます。その結果、生きているうちに1個でも2個でもいいから、後世に残るものを実らせることができれば、御の字じゃないですか。
「階段さえ作ることができれば、
どんな高い壁も登れるのです」
テーマパークを作る余地が、全国各地にあるのでしょうか。
森岡 私の計算では極論、大別して5パターンほどを用意できれば、全国どこでも、その土地の特徴に合わせたテーマパークを作れます。どんな価値を体感できるかについては、テーマパークの場合、興奮や心温まる幸福感など数が限られています。しかし、「いかにして」に関しては無限大。各地の事情に合わせて、施設ごとの差別化は必ず図れるでしょう。
日本文化を発信するIP活用型パークを各地に誕生させれば、インバウンドの目的地は分散し、都市から地方各地への人の流れも生まれる。日本全体が元気になることは間違いありません。
要は、階段さえ作ることができれば、どんな高い壁も登れるのです。この場合、階段はプロジェクトをゴールにつなげる戦略を意味します。どういう階段を作れば、ゴールへ登りやすくなるかを考えるのが、私たち戦略家の仕事なのです。
大きな目的を前にすると、自分たちの立ち位置を見失いそうになることもあるでしょう。しかし、ゴールへと真っ直ぐに続く階段を示せれば、仲間は奮い立ち、前向きな気持ちになるのです。

奥井真紀子著、日経BP、1760円(税込み)
