あなたには、「尊敬する上司」「この人についていきたいと思える人」はいますか? 役職や肩書がリーダーシップを保証するわけではありません。真の影響力を発揮して、部下から慕われる「選ばれるリーダー」になるためには、日ごろの考え方や行動、根底にある人間性を磨くことが必要です。では、具体的に何をしたら、「選ばれるリーダー」になることができるのでしょうか。『選ばれる人の100の習慣』(日経BP)がビジネスパーソンをはじめ、10~20代の若い世代にもよく読まれている、歯科医で著者の井上裕之さんと、シリーズ累計28万部突破の『「リーダーシップのベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』(日経BP)の共著者で、同書籍の執筆にあたりリーダー本の名著100冊を読み込んだ小川真理子さんがこの課題について考えます。1回目のテーマはリーダーこそ大切にしたい、「大きな差につながる微差」です。

実は絶滅危惧種? 「選ばれるリーダー」の難しさ

井上裕之さん(以下、井上) 経営者やマネジメント層の方向けに講演をすると、部下との信頼関係の構築に苦労している話をよく聞きます。なかには、「どうしたらコミュニケーションが円滑にいくのかさえ分からない」と頭を抱えている人も多いようですね。

小川真理子さん(以下、小川) リーダーになるからには、評価されて選ばれてリーダーになっているはずなのに、どうして悩んでしまうのでしょうか。

井上 その人たちは、真に「選ばれるリーダー」になれていないのでしょうね。「単にリーダーになった人」と言ってもいいかもしれません。だから本当の意味で「選ばれて」はいないのかもしれません。

「リーダーになることと、周囲から選ばれることは違う」と語る井上さん。
「リーダーになることと、周囲から選ばれることは違う」と語る井上さん。

小川 それまでの業務で成果を上げて出世して、マネジメントの役が回ってきただけ、ということですね。

井上 その通りです。これは推測ですが、「単にリーダーになった人」の割合は、部下に慕われて、この人についていきたいと思われている「選ばれるリーダー」より圧倒的に多いんじゃないでしょうか。組織にもよると思いますが、「選ばれるリーダー」は多くて2割、いや、2割もいないかもしれません。同窓会などの集まりに行っても、10人中2人が優秀で部下に慕われているかっこいい上司、なんてことはまずないですからね。10人に1人、いるかいないかというのが現実なのではないでしょうか。

小川 確かに、10人の集まりで1人、そんなすてきなリーダーがいればいいですね。選ばれることが、いかに簡単ではないかがよく分かります。

井上 ただリーダーという役職や立場に就くだけではなくて、メンバーや部下から選ばれ続ける人が真に「選ばれるリーダー」なのだと思います。選ばれるのは簡単なことではないから、それだけで、チャンスを掴(つか)みやすくなるんですよね。

「選ばれる人」と「選ばれない人」の差はどこから生まれるか

井上 ただ、「選ばれる人」と「選ばれない人」の違いは微差であり、選ばれるために特別なことをする必要はありません。なぜなら、多くの人が「普通」ができてないから。もし、ちゃんと「普通」ができていれば、選ばれるんですよ。

小川 とても深いことをおっしゃっている。

井上 「普通」とは、決して難しいことではありませんが、ほとんどの人がその「普通」もできていないと感じます。

 例えば、仕事を引き受けるとき、「ご依頼いただきどうもありがとうございます」としか言えないようでは選ばれません。「喜んでやらせていただきます」や「できるだけ早くやるようにいたします」と言えると選ばれやすくなります。仕事が済んだときは、「今回は大変お世話になりました」や「どうもありがとうございました」とだけ言って終わるようでは選ばれません。「もしほかに私でお役に立てることがありましたら、ぜひお声がけください」や「またご一緒できることを楽しみにしております」と言えると選ばれやすくなります。

小川 何か特別なことをするのではなくて、通常の受け答えの際にプラスのひと言を付け加えるだけでも、選ばれるようになるということですね。

「普通のこと、当たり前のことをしっかりやり続けることが重要なんですね」と小川さん。
「普通のこと、当たり前のことをしっかりやり続けることが重要なんですね」と小川さん。

井上 じゃあ、この微差を生む違いは何かというと、目の前の相手への敬意や仕事への感謝があるかどうかです。そういった気持ちがあれば、「相手により喜ばれる仕事をしよう」と思えて、ふとした感謝の一言や、もうワンランク上の工夫が自然と仕事に反映されていきます。

優れたリーダーは、目の前の「一つひとつ」をバカにしない

小川 井上さんの『選ばれる人の100の習慣』を拝読しましたが、確かに一つひとつの項目は一見「普通」のことですよね。例えば、「悪口を言わない、悪口に反応しない」「約束を守る」「尊敬の気持ちを持つ」など、意外とこれはできているかも、ということも少なからずあって、読みながら少し自信も持てて、「もっと頑張ろう」と前向きにもなりました。

井上 ありがとうございます。再現性の高さ、つまり、すぐに実践できるように意識しました。

小川 拙著『「リーダーシップのベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』を書くにあたって、リーダーシップやマネジメントに関わる本100冊に目を通したのですが、実はそれらの本を読む前には、この著者たちは自分とは別世界のすごい能力の持ち主なのだろうと思っていました。しかし、読み進めると実はそうではないことが分かりました。

井上 どういうことですか?

小川 世界に名だたるリーダーでも、分解して調べると、そんなに難しいことはしていない。本質は、意外とシンプルでした。それを特に痛感したのは、部下との向き合い方で、リーダーシップ本の多くの著者が「一人ひとり」としっかり向き合うことの大切さを強調していたことです。目の前の一人を大切にできる人が信頼を得られて、それを積み重ねることでチーム全体の信頼を得られる。その先にあるのが大きな成果である、と。本当に難しいことは言っていなくて、すんなり理解できました。

井上 難しいのは実行に移すことで、それができる人が少ないんです。

小川 2025年のノーベル生理学・医学賞に選出された大阪大学・坂口志文特任教授の座右の銘は「一つひとつ」だそうです。その話を聞いたときも、やはり目の前の一つひとつを丁寧に大切に確実に実行できる人が選ばれる人になるのだと思いました。

井上 面白いですね。「微差が大差になる」を実践されている素晴らしい例だと思います。

まずあいさつから変えてみる

小川 井上さんはコーチングもされているそうですが、もし悩めるリーダーが目の前にいて「選ばれるために、何か一つ心がけるとしたら、何がいいか?」と相談されたとしたら、どのようにアドバイスをされますか?

井上 ざっくりと一言でいうと、選ばれる人とは「感じがいい人」のことです。本当にそれだけで結果が変わるので、感じがよくなるように振る舞ってください、となりますね。

 日常的なことでいえば、僕は常に明るく笑顔であいさつをするようにしています。自分から、溌剌(はつらつ)とした声で言う「おはようございます!」や「お疲れさまです!」と、眠そうな小さい声の「おはよう……」や、相手に言われて返す気のない「お疲れさま……」は、雲泥の差があります。あいさつは、日に何回もする習慣だから特に差が出ます。

小川 元気なあいさつで嫌な気持ちになる人はいませんし、そういった人は印象にも残りますね。

井上 たかがあいさつ、されどあいさつ。このたった一言が、人生を変える力を持っているんです。

「選ばれる人の第一歩はあいさつから」と井上さん。
「選ばれる人の第一歩はあいさつから」と井上さん。

小川 まさに微差が大差ですね! ビジネスの場では「よろしくお願いします」もあいさつのようによく使いますよね。この言葉は、どういう心持ちで言うといいでしょうか?

井上 一所懸命やらせていただきます、という気持ちを込めて言うといいと思います。

小川 単なる形式上のあいさつで済ませるか、心を込めて気持ちを伝えようとするかの違いですね。

井上 その微差が大差につながるわけです。あいさつは単に発する言葉ではなく、心身一如と言われる通り、そのときの体調や心の状態が掛け合わさったものです。「心(精神)と身体は切り離すことのできないひとつのものである」という意識で丁寧に言えたら、同じあいさつでも言い方が変わってきますし、人に与える印象も格段によくなります。おのずと心を込めて言おうという気になりますよね。たった一言だけど、あいさつにはその人の情報が詰まっているんです。

小川 その意味では、一言のあいさつは自己紹介でもありますね。

井上 以前、うちのクリニックに、ある大学の医学部の歯科口腔外科学から研修に来た学生がいて、その学生に「ありがとう」の指導をしたことがありました。最初は普通の「ありがとうございます」しか言えなくて、「それが本気?」と聞きながら、何度も言い直させました。それでもなかなかよくならなかったので、僕は「大切なお母さんと死別するときに、どんな気持ちでありがとうと言うか、数えきれないほどの恩恵を受けた感謝をどう表すか、ということを想像しながら言ってみて」と言ったら、本当に心のこもった「ありがとう」になりました。

小川 心を込める大切さがリアルに想像できるエピソードです。

井上 心のこもった本当のあいさつは、質の違いが一発で分かりますし、一流の人になればなるほど、その違いに敏感です。だから、選ばれるリーダーになるためにはあいさつを磨かないといけないんです。まず、あいさつには「質の違い」があることを知る。そのうえで、「質のいいあいさつ」ができるようになると人生は変わります。

小川 人生を変える行動は、じつはすぐに始められるのですね。

井上 多くの人が、選ばれる人になるためにいろいろなことをやっていると思いますが、本当の選ばれる人の習慣を知らない人が多い気がします。限りある時間で自分を成長させるためには、「どう努力するか」を見極めることも重要なのではないでしょうか。

(構成=茅島奈緒深、写真=鈴木愛子)

誰もが「選ばれる舞台」に立てるようになった現代。小手先のテクニックはもはや通用せず、信頼される人間力が試されます。本書は、表面的な「選ばれ方」ではなく、自分軸で人とつながる100の習慣を紹介。特別な才能はいりません。自分と向き合うことで、「あなたにしかないもの」を「選ばれる力」へと変える一冊です。

井上裕之(著)、日経BP、1760円(税込み)
シリーズ28万部突破! 100冊分の重要ノウハウを1冊にまとめました。「リーダーシップ」は、人の上に立つ人や組織のトップだけが身につければいい能力ではありません。周囲と「いい関係性」を築きながら物事を進めていくために。自分なりの言葉で話し、影響力を発揮するために。そして、自分自身を導くために。名経営者、名監督、ビジネスエリート、名ビジネスコーチ、名コンサル、マネジメント研究・リーダーシップ研究の第一人者たちの名著100冊の教えをコンパクトに総まとめ!

藤吉豊、小川真理子(著)、日経BP、1870円(税込み)