「人間がチャンスを逃すのは、未知のことに慣れていないからだ」と『 感情戦略 』の著者、ブリアンナ・ウィースト氏は言います。本書から、「感情」がいかに私たちに不利益をもたらすかについて、一部を抜粋し、紹介します。

人間は、慣れていないことは受け入れられない

 人間は、未知のものに自然と抵抗する生き物です。というのもそもそも人は、コントロールできないものを嫌がるからです。「未知のもの」がたとえ善意だったり、恩恵をもたらしてくれるものだったりしてもです。

 チャンスを逃すときに、「未知」だから逃すことがあります。異質なものは慣れるまでに不快感を伴います。多くの場合、未知だからこその不快感を、「間違っている」「悪い」「不気味」だと勘違いします。でもここで必要なのは、ただ未知なものに慣れることです。

 心理学者のゲイ・ヘンドリックスは、これを「上限」と呼んでいます。上限は、その人が幸せをどれだけ受け入れられるかを決めるものです。いい気分になることをどれだけ自分に許してあげるかには限度があるものなのです。自分が慣れ親しんだ幸福度が、上限に達した途端、私たちは意識的にも無意識的にも、居心地のいい状態に戻れる手段を探し始めてしまうため、変化を自分に許さないのです。

あなたが信じていることは、浅い考えではないか?

 あなたがこれまで築いてきたことを変える勇気を持つことは、非常に大切です。もしかしたら、人生でこれまでほとんどの間、自分にはせいぜい、中堅企業で標準的な年収5万ドルを稼ぐことくらいしかできないだろうと思ってきたかもしれません。

 もしかしたら、長い間「私は心配性だから」と思い続けてきたため、実際に心配性として振る舞うようになり、自分がどんな人物かという信念に、「心配」や「不安」を自ら取り入れてしまっているかもしれません。

 もしかしたら、視野の狭い社会集団や似たような価値観を持つ人たちの中で育てられたかもしれません。もしかしたら、政治や宗教について疑問を持ったり、人とは違う結論を出したりしてもいいのだ、と知らずに過ごしてきたかもしれません。もしかしたら、自分がおしゃれをしたり、幸せを感じたり、世界中を旅したりできる可能性を考えたことすらなかったかもしれません。

 自分の本当の恐れを知り、深い意味で癒やされるには、考え方を変える必要があります。ネガティブだったり間違っていたりする信念に意識して注意を向け、自分のためになる考え方がきちんとできるようになる必要があります。

意識的に、変化に慣れるようにしていこう(写真:Shutterstock)
意識的に、変化に慣れるようにしていこう(写真:Shutterstock)
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現実から目をそらしているとき、人は自分以外のものを「責める」

 ここまで紹介したことは、なんとなくそうかも、と思うかもしれないし、あるいはかなり納得できると感じるかもしれません。いずれにせよ、人生を本気で変えたいなら、自分の現状を否定するのをやめなければいけません。きちんと現実の自分と向き合う必要があります。自分はもっといい人生を送れるはずだ、と思うなら、きっとできます。

 不安なときは、しばしばポジティブな言葉を自分に言い聞かせる「アファメーション」をしたらいいといわれます。しかし、それをすることに意味はありません。アファメーションは生ぬるい正当化であり、不快感を一時的にまひさせるだけで、長くは続きません。

 現実を受け入れるまで、心に平穏は訪れません。現実から目をそらしているとき、人は自分以外のものを「責める」モードに入りがちです。自分の現状の言い訳になりそうな誰か、あるいは何かを探してしまうのです。そして自分を正当化し始めます。でもそれも、その時に心が軽くなるだけで、意味はありません。

 人生に満足できない理由を、常に言い訳しなければならないのなら、それは自分のためにはなりません。自分の上限を決めず、変化に慣れていくことを心掛けましょう。

「慣れていない」とチャンスを逃してしまうことがある(写真:Shutterstock)
「慣れていない」とチャンスを逃してしまうことがある(写真:Shutterstock)
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訳/松丸さとみ

感情戦略
本書では、感情がどれほど人間を操るのかを説明しています。私たちは、安心感を得たり、過去に受けた傷を見ないようにしたり、はたまた自分が今味わっているつらい感情を見ないためなら、何でもします。本書を読んで、感情についての最新知識を身に付けましょう。

ブリアンナ・ウィースト(著)、松丸さとみ(訳)日経BP、1760円(税込み)