優秀な人が集まっているはずの組織なのに、どうしてこんな結果になってしまったんだろう……。そう思ったことはありませんか? 実は、集団による愚かな意思決定は、“集団心理”から考えると、起こって当然とも言えます。新刊『だけどチームがワークしない “集団心理”から読み解く 残念な職場から一流のチームまで』から抜粋し、紹介します。
賢い人々でも集団になると愚かな決断をする
「賢い人を集めたはずなのに、なんでこんなバカげた結論になったんだろう?」と思ったこと、ありませんか?
たとえば政治家や官僚、大企業の経営層など、その集団のメンバーそれぞれは華々しいキャリアを持ち、賢くて仕事ができる人ばかりでしょう。それにもかかわらず、集団になった途端、素人から見ても明らかに問題が多い決定案が出てくることがあります。
みなさんのまわりの、会社や学校や地域などでチームをつくったときなどにも心あたりがあるのではないでしょうか。それぞれは優秀で、コミュニケーションも得意な人なのに、結局平々凡々なアイデアに収縮し、無理のあるスケジュールでプロジェクトが進んでしまう。
本当にその決定、人前に出しても大丈夫って思ったのでしょうか?
実は、集団による愚かな意思決定というのは、“集団心理”から考えると、いかにもよくあることです。優れた人が集まったからといって、必ずしも優れた集団になるわけではありません。ここにまさに“集団心理”の落とし穴が隠れています。
こうした「賢い人々による愚かな決断」はなぜ起こるのでしょうか?
そこには、「集団浅慮」という現象があります。集団浅慮とは、集団のまとまりを追求するあまり、非合理で未熟な意思決定をしてしまう集団の状態です。集団になると、ときに浅はかな考えにとらわれてしまうのです。
「集団の意思決定」の失敗は、組織があるところどこにでも起こりえます。会社でも起きることですし、政治、スポーツ、学校など、あらゆる場面で同じ現象が見られます。
集団浅慮は、この現象がはじめに考えられたときよりも、もっと幅広い場面で起きることが指摘されてきました。その普遍性から「集団浅慮のユビキタス性」とも呼ばれます。[※注1] ユビキタスとは、「いつでも・どこにでも存在すること」。組織にとって、集団が浅はかな決定をしてしまうことは、どこにでも存在する、当たり前の現象とも言えます。
集団浅慮の3つの「兆候」
集団浅慮のもっとも中核となるものは、集団内での「同調追求」です。同調追求とは、その集団が満場一致した一枚岩の状態になろうとすることです。これは、集団が進む方向性に自分の意思で積極的に同調したがるという面もあれば、本人はイヤイヤながらもまわりのメンバーから同調を求められる面もともに含まれます。後者は俗に言う、同調圧力に屈するというものです。
集団全体が一枚岩となって一つの方向へと進むことはプロジェクトを進めるために必要な過程ですが、そのとき、集団は愚かな意思決定を行ってしまうことがあります。
同調追求が行われていると、集団内には次の3つの集団浅慮の「兆候」が現れるとされます。

これらをビジネスの現場にあてはめてみると、
「確かに問題がないわけでもないが、それはささいなことで大したことはない」(精神的閉鎖性)
「おいおい、せっかく話がまとまりかけたのに、なんでケチをつけるの? 邪魔する気?」(意見の斉一化)
といったところでしょうか。
このような兆候が見られる集団では、間違った意思決定が行われやすく、集団のパフォーマンスが低いことが示されています。[※2]
この3つの「兆候」を見てみると、集団浅慮の状態では、本当に必要な解決策を慎重に検討し的確な判断を行うことはむずかしそうです。また、集団が間違った方向に進んでいるのに、誰もとめることができなくなります。そもそも、とめた方がいいことにすら気づきにくい状態です。
たとえ組織の一部の人が、違う意見を持っていたとしても、前に反対意見を述べた人が裏切り者とみなされてしまうことで、誰も声を上げないことも起こります。そうして、大失敗になった後で振り返ると「あれがマズかったよね」などと気づくのですが、嘆いてももう後の祭りです。あなたが属する組織では似たようなことが起きていませんか?
「和を乱すなよ」と集団を守る人が現れる
特に、3の意見の斉一化は重要です。これは、その集団がみんな同じ意見になるということです。ここでのキーパーソンは、護衛役(マインドガード)と呼ばれる人です。マインドガードとは、組織への反対意見を述べる人に、そこからの護衛を買って出る人です。つまり「和を乱すなよ」とけん制する人が現れることがあるのです。
集団浅慮を提唱した米国の社会心理学者のアービング・ジャニスは、キューバへのピッグス湾侵攻作戦を分析しました。そこでも「出るくい」をたたく護衛役が現れたとされています。それは、ケネディ大統領の弟であり、大統領側近のロバート・ケネディです。彼は、キューバ侵攻に反対意見を持っていたメンバーであるシュレジンジャーに対して、次のようにくぎを刺しました。
「あなたが正しいにせよ間違っているにせよ、大統領はすでに決心している。その決心を先延ばしさせるな。いまや皆が全力で彼を助けるときだ」[※3]
つまり、あなたの意見が正しくても関係なく、集団みんなで進めていることの邪魔をするな、そう彼は述べたのです。

ここでは、集団を守ることが優先されるあまりに、判断の順序がひっくり返っています。本来ならば正しい判断をするために集団を形成したはずです。しかし、集団が決めた判断を妨げないようにするために、正しさ自体を吟味することが二の次になってしまっています。
こういった同調圧力とも呼べるものは、会社や学校など今の日本社会のいたるところでも見られるものですよね。
「みんなで一生懸命やってるところなのに、和を乱すなよ」。そう発言する本人は、集団のためを思って言っているのでしょう。しかし、メンバーから出た異論は、致命的な問題を指摘している可能性もあります。異論が出るたびに排除ばかりしていては、改善は期待できず、集団はどんどん萎縮していく一方になってしまいます。このようなことを知っておくだけでも、何か起こったとき、いいチームに近づけるでしょう。
※2 Park, W. W. (2000). A comprehensive empirical investigation of the relationships among variables of the groupthink model. Journal of Organizational Behavior, 21(8), 873-887.
Choi, J. N., & Kim, M. U. (1999). The organizational application of groupthink and its limitations in organizations. Journal of Applied Psychology, 84(3), 297-306.
※3 Janis, I. L. (1982). Groupthink Psychological studies of policy decisions and fiascoes (2nd ed.). Boston: Houghton Mifflin. (ジャニス, I. L. (2022). 集団浅慮 新曜社)
縄田健悟著、日経BP、2200円(税込み)

