オランダでは宿題なし、塾なし、それでも読み書き能力はフィンランドや日本と並んで世界トップ3に入る。小学校入学前の幼児教育についても、親に焦らないように、心配しすぎないようにと保育士たちは話す。移住したママたちが驚いたオランダ流すごい子育て法について、新刊『オランダ人のシンプルですごい子育て』(リナ・マエ・アコスタ、ミッシェル・ハッチソン著/吉見・ホフストラ・真紀子訳)から一部抜粋して紹介する。
長男ユリウスの読み書きの能力について、もう心配したくないと思った私は、ある朝、保育士たちに相談することにした。保育士のアンナ、デインゲナ、イルマはみな60代くらいの女性で、とても親しみやすく、いかにも子どもが好きなおばあちゃんという雰囲気の人たちだった。彼女たちはプロフェッショナルで、一度に複数の仕事をこなすことができる。だから、その日に使う工作活動の準備をしながらも、私の質問に答えてくれた。
子どもへの学習指導が足りないと心配する親は、どうやら私だけではないらしい。たしかに過剰なまでに幼児英才教育をしたがる傾向は、オランダのこの界隈(かいわい)にも忍び寄ってきている。
自分の子どもがまだ文字を読めないので、小学校へ入ってから落ちこぼれになるのではないかと心配している親もいると保育士たちは言った。しかし彼女たちは、子どもたちには学習指導をするよりも、遊ぶことが大事であることを繰り返し親に話し、安心させてきたという。
3人合わせて計80年もの保育経験のあるこの先生たちは、早期の幼児教育についても実験的に、また熱心に取り組みつづけてきた。だからこそ、私のような心配性の親を安心させることには慣れているようだ。
「保育園の役割は、子どもが自分の力で、そして自分のペースで成長していく機会を提供することなんですよ」と、アンナ先生は言った。「そのために私たちは、教室の中にも校庭にも、子どもが自分で選べるようにいろいろな種類の遊び道具を用意しているんです。そして、いろいろな声掛けをして、子どもが自分で何かを見つけるよう促し、子どもたちのペースに合わせて会話をするようにもしています」
きれいに並べられたすてきなおもちゃ、本、工作材料を見れば、保育士たちがどれほど子どもの好奇心を呼び覚まし、想像の世界に飛び込む用意を入念にしてくれているかがよくわかる。私でさえ、そのおもしろそうなおもちゃ箱に触れずにいることが難しいほど、楽しそうなものが保育園には揃(そろ)っている。
オランダ人は赤ちゃんにもきちんと話す
広々としたその教室では、保育士と子どもたちがよく話をし、子どもたちもお互いのことを知ることができる。ここではそうやって2年間育ててもらうのだ。
「子どもが友だちと仲良くなる方法を学んでほしいと思っているの」と、イルマ先生は言う。「ここでは、子ども同士で遊ばせるようにしています。そうすれば、物の貸し借りの方法、我慢すること、人を信頼することといった社交性を自分で学ぶことができると思っているのです。一緒に本の読み聞かせをしたり、歌を歌ったり、クラス全員で何かをつくったりしてグループ活動にも活発に取り組んでいますよ」
続けて、デインゲナ先生もこう言った。
「親御さんがいらっしゃって、自分の子どもには何かもっとチャレンジさせるべきではないのかと心配してきたときにはこう言っています。『子どもがアルファベットを暗唱したり、100まで数えることができたり、色の名前を全部言えることはすごいと思いますよ。でもそれは猿芸をしているのと同じで、本当に学んでいるということではないのですよ』と」
オランダに何年住んでも、こうした鋭いオランダ人の物の言い方にはときどきハッとさせられる。「すっきりした」というのがちょうどいい表現かもしれない。デインゲナ先生が3歳の息子のすることを猿芸と呼んだわけではないことはわかっている。ただ子どもを遊ばせることは、言葉や数字を教えることよりもずっと大事だと強調したかっただけなのだ。
「実は昨日クラスである子どもが泣いていました。その子にはちょうど兄弟が生まれたばかりだったのです。だから、その子どもの気持ちに耳を傾け、その子の感じる新しい感情について話しながら一緒に時間を過ごしました」と、アンナ先生が教えてくれた。
「私たちはそういうときのためにいるのです。子どもに自分の感情をどうやって表現するのかを教え、自分自身を見つけるためのお手伝いをしているのです。そうしたことはいわゆる勉強という学びではないかもしれませんが、人として成長すること、自分の気持ちをきちんと口に出して言えるようにすること、ほかの友だちと上手(うま)くやっていく方法を学ぶことなのです」
オランダ人の良いところは、大人が子どもに対してきちんと話をすることだと思う。赤ちゃんが片言を話すようになったらすぐに、大人は子どもに対してきちんと応答し、子どもにも応答するようにさせている。その光景を見れば、なぜオランダ人の子どもがハキハキと話をし、自分に自信を持った子どもになるのか納得いく。
私は自転車で家に戻りながら、オランダの子どもたちのようにすばらしく育ってくれるのであれば、自分の子どもに読み書きの勉強をさせることにそこまでこだわる必要はないのかもしれないと思うようになっていた。
リナ・マエ・アコスタ、ミッシェル・ハッチソン著/吉見・ホフストラ・真紀子訳/日本経済新聞出版/990円(税込み)

