コロナ禍は、「会って、話す」というコミュニケーションの基本動作にも、大きな変化をもたらしたことに気付いているだろうか? リモート化・オンライン化でそもそも「会う」機会が減ったことに始まり、久しぶりに顔を合わせてもマスクをした相手の表情が分からない、会話も弾まないと悩んだ人も多い。急激なコミュニケーションの変化に、私たちはどう対処していけばいいのか。30年以上、出版界という言葉の海の中で泳ぎ続けてきた『 「話し方のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。 』の共著者・藤吉豊氏と、客室乗務員(CA)の経験を生かして、大企業・大学などで多数の研修を行っているホスピタリティー・マナー講師、松澤萬紀氏による対談。後編は「オンラインコミュニケーションのコツ」。オンラインでのコミュニケーションの意外な落とし穴とその対策を見ていきます。
相手の話を引き出せる人こそ、本当の「話し上手」
松澤萬紀氏(以下、松澤氏):藤吉さんは、ライターというお仕事柄、「書く人」というイメージがありますが、私にとってはそれに加えて、「話す人」なんです。
藤吉豊(以下、藤吉):え? 僕は松澤さんのようなスピーカーではありませんよ。
松澤氏:私が本を出版する際にも、藤吉さんには編集協力という形で、長い時間お話を聞いていただきました。藤吉さんを前にすると、安心してなんでも話すことができるんです。時間を忘れるほど楽しいひとときでした。

日本ホスピタリティー・マナー研究所・代表。幼少期より客室乗務員(CA)に憧れ、8回目の試験で念願のCAに合格。ANA(全日空)のCAとして12年間勤務する。ANA退社後は、ホスピタリティー・マナー講師、顧客満足度(CS)向上コンサルタントとして活動。関西人ならではのユーモラスな講義で、過去最多の年は、年間登壇回数200回以上。総受講者数は、2万人以上。1年後の研修も決まっている。「礼法講師」資格、「日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー」資格も持つ。「新入社員研修」「管理職研修」「接遇研修」などを中心に、幅広い層に対して豊富な研修実績を持つ。著書に、『100%好かれる1%の習慣』『図解 100%好かれる1%の習慣』『1秒で「気がきく人」がうまくいく』(以上、ダイヤモンド社)などがあり累計25万部を突破。台湾や韓国で翻訳本も発売されている。日本テレビ「ヒルナンデス!」「NOGIBINGO!」「news every.」、読売テレビ「情報ライブ ミヤネ屋」出演などメディアでも活躍中(写真:尾関祐治、以下同)
藤吉:ありがとうございます。1日7時間くらい、1週間以上、話をしましたね。
松澤氏:藤吉さんは、これまで2000人以上の方をインタビューされてきた、相手から話を引き出すプロですよね。つまり書く前に、たくさんの話を聞いていらっしゃいます。ご著書『「話し方のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』の「話し方」のランキングの1位が「会話は『相手』を中心に」で、話を聞くことの重要性に触れられているのを見て、なるほど藤吉さんの本だと納得しました。ご著書を拝読して大変勉強になりました。
藤吉:「話し方」をテーマにしたベストセラー100冊を客観的に分析した結果、100冊中70冊に、「相手を中心に会話をすること」の大切さが記されてありました。「相手の話をよく聞く」「相手が聞きたい話をする」、つまり話し方というのは聞き方でもある、ということなんですね。
松澤氏:どうすればそんな風に、相手中心の話し方ができるのでしょうか?
藤吉:インタビューに関していえば、僕の場合、相手が思っていること、あるいは相手が伝えたいことは何かを、常に考えています。それと同時に、読者が知りたいと思っていることを代わりに聞くことも、僕の仕事です。
松澤氏:本当に、相手中心の会話ですね。
藤吉:インタビューは、僕の考えを伝える場ではありませんから、自分の意見は控えます。「今のお話を伺って、僕はこう思ったのですが……」とあえて自分の考えに触れることもありますが、それは、話を広げたり、進めたり、深めたりするための技術の一つであって、僕の意見を主張するためではないんです。「相手の真意を聞き出す」ためですね。仕事柄、聞くことに慣れているということは、もしかするとあるかもしれません。
松澤氏:企業のトップの方々とお話をされることも多いと思うのですが、その方々の話し方で、見習うべきことはありますか?
藤吉:たくさんあります。一つは笑顔です。皆さん本当にいい笑顔と声をされている。松澤さんもおっしゃっていましたが、笑顔の力、声の力を強く感じますね( 対談前編「マスクが変えた『会話』 コロナ禍で『聞き下手』が急増している」 )。生まれつきの方もいらっしゃると思いますが、訓練して、身に付いた部分もあると思います。
そして、話が端的で、結論が分かりやすい。技術的なことでいえば、数字や固有名詞がちゃんと入っている。そして具体的なエピソードもある。だから心が動かされるんですよね。そうした話し方は、人がついてくるリーダーに共通しています。
なぜCAは、どんなフライトでも最高のパフォーマンスが出せるのか?
藤吉:松澤さんの前職はANAの客室乗務員(CA)ですよね。松澤さんはもちろんそうですが、CAの方は皆さん、コミュニケーション能力が高いと感じています。フライトのたびに、ほぼ初対面のメンバーでチームを組んでいると聞いて、本当にすごいと思いました。

松澤氏:はい。当時は5000人くらいCAがいて、その中から毎回、新しいチームが組まれるので、初対面となる方が多かったですね。
藤吉:乗客の安全を担う目的を果たしながら、そのうえでおもてなしもするわけじゃないですか。命を預かるという現場で、初対面の人たちがチームを組む。そして完璧に職務をこなす。コミュニケーションを取り、信頼関係を結ぶことができるのは、なぜですか? それもやはり、コミュニケーションの技術なのでしょうか。
松澤氏:当時は技術とは考えていませんでしたが、そうかもしれませんね。基本には、ANAのモットーがあります。それは「どうしたら相手が喜ぶのかを考えなさい」というものです。これは耳にタコができるくらい聞かされていました。お客様だけではなく、誰に対してもそうあるように叩(たた)き込まれましたから。
藤吉:ここでも相手が中心、ですね。
松澤氏:例えば、CAの間の名前の呼び方にもその考え方が現れています。初めてお会いした先輩が、すぐに私のことを「松澤ちゃん」と呼んでくれるんです。もちろん、お客様のいないバックヤードだけです。半ば文化のように、先輩が後輩を「〇〇ちゃん」と呼んでいたのですが、今思うと、こうやって緊張をほぐしてくれていたんですよね。新人が緊張して上の人に気を使うと、うまくコミュニケーションが取れなくなりますから。
私も先輩になってからは、そうしていました。名前って、すごく大切なものですよね。だから名前の呼び方に親しみを込めるのです。
藤吉:そういった技術が、やはりあるんですね。
ギャルのリアクションは会議の最高の活性剤
松澤氏:CAのミーティングって、遠目で見ても分かるんです。なぜかと言うと、「うなずきっぷり」がすごいからです。「なんであんなに」というほど首を上げ下げします。当時から私も自然と「うん、うん」と大きくうなずいていましたが、コロナ禍でのコミュニケーション指導をしている今、改めてその大切さを痛感しています。
藤吉:相槌(あいづち)は、相手の話を聞いていますよ、という大切なサインですからね。
松澤氏:はい、そうなんです。特にオンラインミーティングでは、CA並みの大きなうなずきを、ぜひ皆さんにも実践してほしいと思います。なぜかというと、それが「聞いてもらっている」という、相手の安心感につながるからです。
藤吉:オンラインでは確かに、ちゃんと聞いてもらえているのか分かりにくいですよね。「間」が気になったりもします。オンラインで長時間の会話が難しいのは、そういった理由があるかもしれません。
松澤氏:極端な話、ただうなずくだけで、クレーム対応になることもありました。深くうなずいてお客様のお話を聞いていると、「君がちゃんと話を聞いてくれたから、もういいよ」と解決してしまうんです。
藤吉:うなずいて、話を聞いている、というサインが相手に与える安心は大きいですね。
松澤氏:それで私の研修では、うなずく練習もワークとして取り入れていますが、これも苦手な方が多いですね。「意識して大きくうなずいて相手の話を聞いてください」とお伝えしても、これまで意識したことがなかったせいで、どううなずいていいのかが分からないようなんです。ですから私は、「うなずくときは、あごを約3センチ、縦に動かすイメージで」と、お願いしています。
藤吉:3センチ! 具体的だと分かりやすいですが、けっこう大きな幅ですね。
松澤氏:オンラインでは特に、限られた画面の中で思いを伝えないといけませんから、このくらいは必要です。
藤吉:たしかに、マイクをオフにして参加していると、大きな動きでないと相手には伝わらないですね。
松澤氏:オンライン会議での課題はスムーズなコミュニケーションだと思います。解決策として、ギャルを活用している会社もあるんですよ。
藤吉:ギャルですか?
松澤氏:はい。会議にギャルを送り込むビジネスがあるそうなんです。ギャルがオンライン会議に参加して、社長を「ユタカって呼ぶね」と決めたりして。
誰かが発表すると、「まじそれ、いいね!!」と言ってくれたり、大きくリアクションをしてくれるので、今までシーンとしていたオンライン会議が活性化して、いい案がどんどん出てくるそうですよ。
藤吉:そのスキルはすごいですね。

松澤氏:場づくりがお上手なんでしょうね。話すというのは、自分の内面を他人に伝えるということですから、ある意味、不安を伴う行為です。オンラインならなおさらです。ですから発言を受け止めて認めてもらえたら、うれしいし、安心できますよね。
オンラインのミーティングはより高いコミュニケーションスキルが必要となることをぜひ意識していただきたいと思います。
藤吉:なんとなくですが、オンラインだと、「場を共有していない気の緩み」のようなものがありますよね。「コミュニケーションは時間と場所の共有、そしてその回数だ」とおっしゃった経営者の方がいましたが、今、松澤さんとご一緒していて、それを痛感しています。同じ空間にいるというのは、ただ言葉をやり取りするだけではない何かがありますよね。マイクもオフにして、さらに画面もオフにしてしまうと、会議なのに、自分の世界にいるような気持ちになります。
松澤氏:そうなんです。それを防ぐために、私はリモートでの研修やミーティングのときには、大きめの鏡を横に置いておきます。そして時々、口角が下がっていないかをチェックします。
ギャルがいなくても、参加者が笑顔でいる、そして人の話に大きくうなずく。それだけで、オンラインミーティングの質は変わります。微差を積み重ねて大差にしていく。そういう姿勢が必要なのではないでしょうか。
藤吉:そういう積み重ねが、「また会いたい」という思い、そして信頼につながっていくわけですね。
松澤氏:はい。候補が2つあったときに、もしくは2つ商品があったときに、決め手になるのは、それを担当する人なんですよね。ですからコミュニケーション能力というのは、そのまま仕事力にもつながっているんです。
藤吉:あらゆることは人間関係の上に成り立っている。そう思うと、コロナ禍だからと言って、コミュニケーションをおろそかにはできませんね。

(構成:黒坂真由子)
[日経ビジネス電子版 2022年2月28日付の記事を転載]
雑談、会話、リモート会議、説明、説得、プレゼン、営業トーク、ほめ方、叱り方……「うまく話せない」「伝わらない」が一発解消!
100冊分の「絶対ルール」をランキング形式で一挙公開!
第1位 会話は「相手」を中心に
・「自分の言いたい話」より、「相手の話したい話」をする
・人は「自分の話を聞いてくれる人」と話したい
第2位 「伝える順番」が「伝わり方」を決める
・誰でも「結論」から話し始めると、誤解なく、記憶に残る伝え方ができる
・冒頭で興味をそそり、食いつかせるには?
第3位 話し方にメリハリをつける
・「文末まではっきり話す」だけで納得感が爆上がり
・心を動かす「間」の取り方
好かれる人、仕事ができる人の、「感じが良くて、信頼される」話し方を、 最短ルートで身に付けましょう。
藤吉豊、小川真理子(著)、日経BP、1650円(税込み)