進化論を提唱したダーウィン、ノーベル賞を受賞したファインマンなど 、多くの成功者は好奇心が強いという共通点がある。最近の研究では、好奇心は記憶力や理解度などに良い効果をもたらすことがわかっている。その理由とは? 教育と仕事でどう役立つのか? 『知性の罠 なぜインテリが愚行を犯すのか』(デビッド・ロブソン著/土方奈美訳/日経ビジネス人文庫)から抜粋・再構成してお届けする。

多くの成功者に共通する「好奇心」

 最初に、20世紀の最も偉大な物理学者の1人として教科書にも載っているリチャード・ファインマンをはじめ、多くの成功者に共通して見られる、好奇心という特性を見ていこう。

 チャールズ・ダーウィンもファインマンと同じように、子供の頃はさほど勉強に秀でていたわけではなかった。自分に人並み以上の知能があるとは思っておらず、「飲み込みが特段早いわけではなく、賢い人々のようなウイットも持ち合わせていない」と語っている。

 「学校を出たときには、同じ年ごろの人々と比べて特に優れていたわけでも劣っていたわけでもなかった」と、自伝的エッセイに書いている。

 どの教師も父親も、私のことをありふれた少年で、むしろ知性は標準より低いほうだと思っていたようだ。(中略)学生時代の自分の性質を振り返ってみると、唯一の長所は、興味の幅が広く、また強かったことだ。興味を持ったものには何でも夢中になり、複雑な対象や事柄を理解することに強い喜びを感じていた。

 ダーウィンに知識と理解への渇望がなければ、ビーグル号での大変な研究を、乗船中からその後にわたり続けることはできなかっただろう。目先の富や名声はまったく求めていなかった。研究は何十年もの時間を要したが、見返りはほとんどなかった。しかし、もっと知りたいという意欲に突き動かされ、ダーウィンは調査にいそしみ、定説を疑いつづけた。

 進化論という画期的業績に加えて、身の回りの世界に対する飽くなき興味は、好奇心というテーマに関する世界初の科学的文献も生み出した。そこでは幼い子供が飽くなき実験を通じて、自然と身のまわりの世界について学んでいく過程が説明されている。

 その後、児童心理学で明らかになったように、この「もっと知りたいという欲求」は幼い子供にとって基本的な生物的欲求、いわば空腹感に近い。このような科学的伝統があったにもかかわらず、心理学者はごく最近まで好奇心が私たちのその後の人生においてどのような影響を持ちうるのか、また好奇心に個人差があるのはなぜか、体系的に研究することを怠ってきた。

 その一因は実務上の難しさにある。一般的知能と異なり、好奇心についてはこれといった標準的な検査方法が確立されておらず、心理学者はいささか信頼性に欠ける指標に頼ってきた。

 たとえば子供が質問をする頻度を観察する、あるいはどれだけ熱心に環境を探索するかを観察する、といったことだ。玩具にいろいろな仕掛けや謎を仕込んでおき、子供が遊んだ時間を測るといった方法もある。

 一方、大人の場合は自己申告式の質問票を使ったり、新たな資料をじっくり読むか、無視するかといった行動観察をしたりする。このような手法で調査した結果、幼少期から青年期、さらにはその後の人生を通じて、私たちの成長にとって好奇心が一般的知能に匹敵する重要性を持つことが明らかになった。

なぜ好奇心が強い人は、記憶力が高く、理解度が深いのか

 好奇心に関する研究の多くは、それが記憶や学習において果たす役割についても調べている。その結果、好奇心は被験者が記憶する資料の量、理解の深さ、記憶の保持期間の長さに影響することがわかった。

 これは単にモチベーションの問題ではない。モチベーションが高いことによる努力の多さや情熱を差し引いても、好奇心が強い人ほど事実を容易に記憶できるようだ。

 今では脳スキャンによってその理由が明らかになった。好奇心は「ドーパミン作動系」と呼ばれる脳領域のネットワークを活性化するのだ。神経伝達物質のドーパミンは通常、食べ物やドラッグ、セックスへの欲望に関係しているとされる。

 つまり神経レベルでは、好奇心は空腹や性欲と変わらないのだ。ただドーパミンはそれに加えて、海馬での長期的な記憶保持も強化すると見られる。これで好奇心が強い人は学習意欲が高いだけでなく、特定の問題の学習に費やす時間が長いことを割り引いても記憶力も高い理由の説明がつく。

 最も興味深い発見は、「スピルオーバー(漏出)効果」だ。被験者が本当に興味のあるものによって好奇心が刺激され、ドーパミンが分泌されると、関係ない情報でも記憶するのが容易になったのだ。脳があらゆることを学習する態勢に入るのだ。

 重要なのは、身のまわりの世界にずっと高い関心を持ちつづける人がいることが、研究によって明らかになったことだ。しかもこの好奇心の個人差と一般的知能の相関はわずかだ。つまり2人の人物のIQが同じでも、その好奇心によってその後の成長に劇的な違いが生じる可能性があり、成功しようという意思よりも、対象に心から興味を持つことのほうが重要なのだ。

成功への意欲よりも対象に心から興味を持ったほうが成長する(写真:Dilok/stock.adobe.com)
成功への意欲よりも対象に心から興味を持ったほうが成長する(写真:Dilok/stock.adobe.com)
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 こうした理由から、心理学者のあいだでは一般的知能、好奇心、誠実さを学業的成功の「三本柱」と見なす動きが出てきた。3つのうちいずれが欠けても、うまくいかない。

 好奇心の恩恵があるのは、教育だけにとどまらない。仕事においても「暗黙知」を学ぶのに、好奇心は不可欠だ。また厳しい状況でも意欲を保つのを助け、ストレスや燃え尽きから守ってくれる。さらに好奇心があると他の人々が目を向けようともしない問題を考えたり、「こうだったらどうか」という反事実的思考が促されたりするので、創造的知能も高まる。

 周囲の人々のニーズに心から関心を持つことで、ソーシャルスキルは高まり、最適な落としどころも見つけやすくなる。その結果、感情的知能は高まる。このように好奇心のおかげで相手が言葉にしない動機に目を向けるようになると、ビジネスの交渉でも良い成果につながりやすいようだ。

「賢い」と自負がある人ほど引っかかりやすい知性の罠。なぜなら、高い学歴・学力があるからといって、高い思考力を持っているとは限らないからだ。「本当の賢さ」を伸ばす方法を研究に基づき徹底解説。

デビッド・ロブソン著/土方奈美訳/日本経済新聞出版/1100円(税込み)