フェイクニュースに騙(だま)されないかどうかは、認知反射テストによって測定できる。この成績が良ければ、自らの直感や思い込みを疑い、他の選択肢を検討できるため騙されにくいということになる。しかし、そもそも騙されないためにはどうすればよいのだろうか。『知性の罠 なぜインテリが愚行を犯すのか』(デビッド・ロブソン著/土方奈美訳/日経ビジネス人文庫)から抜粋・再構成してお届けする。

フェイクニュースに騙されやすいかは、3問解けばわかる

 私たちが自分自身を虚報から守るには、どうしたらよいのか。

 この問いに答えるには「認知反射」と呼ばれるメタ認知について、詳しく知る必要がある。これは内省とかかわりはあるが、感情的自己認識ではなく、事実的情報への対応方法に的を絞ったものだ。

 認知反射はわずか3つの質問から成る、シンプルなテストで測定できる。どのようなものか、次の例題を見てみよう。

・バット1本とボール1個は合計1ドル10セントだ。バットはボールより1ドル高い。ボールはいくらか。
 答え( )セント

・湖面をスイレンの葉が覆っている。葉の面積は日々、倍増する。48日目に湖面全体が覆われるとすると、湖面の半分が覆われるのは何日目か。
 答え( )日目

・機械5台を5分間動かすと、製品が5個できる。機械100台で製品を100個つくるには、何分かかるか。
 答え( )分

あなたは何問、正解できましたか?

 小学校レベルの算数がわかれば、解けるような問題ばかりだ。しかしほとんどの人(アイビーリーグと呼ばれる名門大学の学生を含む)は、3つのうち1、2問しか正解しない。

 それはどの質問も一見明らかなようで、誤った答え(10セント、24日、100分)を誘発するように設計されたものだからだ。こうした誤った思い込みに疑問を持たないと、正解(5セント、47日、5分)にはたどりつけない。

 これはIQテストの質問とはかなり異なっている。IQテストの場合は高度な計算は求められるが、一見それらしいが誤っている回答を問い直す姿勢は求められない。

 このように認知反射テスト(CRT)は、私たちがどのように情報を評価するか、そしてミスリーディングなサインに抗う能力があるかを調べる、簡潔でおもしろい方法だ。実際に日々の生活で直面するのは、このようなはっきりとしない問題であり、誤解を招くようなメッセージだ。

 当然ながら、認知反射テストでスコアが高い人は、さまざまな認知バイアスにとらわれにくい。

 そんななか2010年代初頭には、ゴードン・ペニークックという博士課程の学生(当時はウォータールー大学に在籍)が、認知反射はモノの考え方そのものに影響を与えるのではないか、という仮説を研究しはじめた。

 自らの直感を疑い、他の選択肢を検討できる人は、証拠を額面どおりには受け取らず、虚報に騙されにくいのではないか、とペニークックは考えた。

地頭が良くても、考える意欲がなければ愚かも同然

 想定どおり、このような分析的な思考スタイルを持つ人は、根拠のない考えや代替医療を支持しない傾向が見られた。その後の研究で、進化論を否定したり、9・11の陰謀論を信じたりする傾向も弱いことがわかった。

 重要なのは、知能や教育水準といった他の潜在的要因をコントロールしても、同じ結果が得られたことだ。つまり本当に重要なのは、単なる地頭の良さではない。それを使うかどうかだ。

 「認知能力と認知スタイルは分けて考える必要がある」とペニークックは語る。ありていに言えば「考える意欲がなければ、実質的には賢くないということだ」。

 思考や推論能力に関する他の評価基準でも見てきたように、自分が全体のなかでどれくらいのレベルにあるのか、まるでわかっていない人が多い。「実際には分析的(内省的)思考力が低い人が、かなり得意なつもりでいる」

 ペニークックのその後の研究のなかで、特に世間の関心を集めたものがある。「最初は笑ってしまうが、その後は考えさせられる研究」としてイグ・ノーベル賞も受賞した。分析の対象となったのはソーシャルメディアでよく見かける、一見高尚で、「深みがありそうなたわごと」だ。

 騙されやすさを測るため、被験者には意味のないさまざまな文の「奥深さ」を評価させた。そのなかには「隠された意味が比類なき抽象的美を変容させる」といった、一見スピリチュアルな雰囲気のある、意味のない言葉の羅列も含まれていた。

 それと並べてニューエイジ思想のカリスマで、いわゆる「クォンタム・ヒーリング」の提唱者として20冊以上の著書がニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーリストに載った、ディーパック・チョプラの本物のツイートも見せた。たとえば「注意と意図はマニフェステーション(現実化)のメカニズムである」「自然は意識の自律的エコシステムである」といった文言だ。

 モーゼの問題と少し似ているが、こうした文章は一見、意味があるように思える。じっくり内容を分析しなければ、温かいスピリチュアルなメッセージが含まれていると思わせるキーワードも含まれている。

 案の定、CRTスコアの低い被験者は、分析的マインドセットのある被験者と比べて、深みのありそうなたわごとに意味があると錯覚する傾向が見られた。

地頭の良さよりもそれを使うかどうかが、騙されないためには重要(写真:Sakosshu Taro/stock.adobe.com)
地頭の良さよりもそれを使うかどうかが、騙されないためには重要(写真:Sakosshu Taro/stock.adobe.com)
画像のクリックで拡大表示

 ペニークックはこの「たわごと受容性」が、フェイクニュースに引っかかりやすいかどうかにも影響するかを調べている。フェイクニュースとはソーシャルメディアを通じて拡散する、本物のニュースを偽装しつつ、実際には根拠のない主張である。

 2016年の大統領選挙のあいだのフェイクニュースに関する議論を受けて、ペニークックは数百人の被験者にさまざまなニュース記事を見せた。第三者による事実確認を受けて真実だと確認されたものもあれば、虚報と判断されたものもあった。全体として、民主党に好意的な記事と共和党に好意的な記事をバランスよく含めた。

 たとえばニューヨーク・タイムズ紙の《ドナルド・トランプ、「必ず」イスラム教徒に登録を義務づけると発言》という記事は、事実に基づく正真正銘のニュースだった。一方NSCOOPERドットコムが配信した《マイク・ペンス、「同性愛転換セラピーによって離婚を免れた」と発言》という記事は、事実確認の結果、フェイクニュースと判断された。

騙されないために必要なこと

 ペニークックがデータを分析したところ、認知反射が優れている人は、ニュースソースの名前を示されたか否か、そしてニュースの内容が自らの政治信条と一致しているか否かにかかわらず、2本の記事の正誤を見分けることができた。自らの先入観を裏づけるために記事を使うのではなく、内容をしっかり読み、信憑(ぴょう)性があるか判断していた。

 ペニークックの研究は、内省的に考えるよう努めることで、虚報に騙されるのを防げることを示唆しているようだ。最近の研究では、ちょっとした働きかけにも効果があることが示されている。

 2014年、ウェストミンスター大学のバイアン・スワミは、被験者にシンプルな単語ゲームに挑戦してもらった。言葉のなかには「推論」「熟考」「合理的」といった思考に関する言葉や、「ハンマーで打つ」「ジャンプする」といった身体的概念が含まれていた。

 思考に関する言葉を使ってゲームをした被験者に、「モーゼの方舟」の質問を与えたところ、誤りに気づく人が多かった。つまり情報をより慎重に処理するようになっていたのだ。興味深いことに、陰謀論に対してもそれまでより否定的になっていた。つまり自分がそれまで抱いていた考えについても、慎重に考えるようになったということだ。

 問題は、こうした研究の成果を、どうすれば日々の生活に活かせるかだ。

 マインドフルネスの手法には、分析的視点を身につけ、受け取った情報から拙速に結論を導き出さないようにするのに効果的なものもある。たった一度の瞑想(めいそう)によって、認知反射テストのスコアが改善することを示した興味深い実験もある。

 今後の研究によって、瞑想が虚報の処理にどのような影響を及ぼすかが明らかにされることを期待したい。

(写真:Elnur/stock.adobe.com)
(写真:Elnur/stock.adobe.com)
画像のクリックで拡大表示
「賢い」と自負がある人ほど引っかかりやすい知性の罠。なぜなら、高い学歴・学力があるからといって、高い思考力を持っているとは限らないからだ。「本当の賢さ」を伸ばす方法を研究に基づき徹底解説。

デビッド・ロブソン著/土方奈美訳/日本経済新聞出版/1100円(税込み)