イーロン・マスク、スティーブ・ジョブズ、ジェフ・ベゾス……。天才的なイノベーターが生み出したイノベーションはそれぞれ異なりますが、「思考の型」は共通しています。第一原理思考、アナロジー思考、パラノイア思考、物語思考、反逆思考、情熱思考、SF思考など、傑出したイノベーターに共通する「10の思考法」を、本人たちへの取材や100冊以上の書籍から得た知識を基に徹底解剖した書籍『 天才思考 世界を変えるイノベーションを生む10の思考法 』から一部を抜粋・再編集してお届けします。連載の第5回では、アマゾン創業者ジェフ・ベゾスが実践する人生の後悔を最小化する「究極の思考法」を取り上げます。 =敬称略
人生にはさまざまなチャンスが訪れますが、情熱があっても未知の世界に飛び込む際は勇気が必要になります。そんなときにベゾスが大事にしているのが、自分が本当にやりたいことかどうかを判断する際に役立つ「後悔最小化フレームワーク」です。それは80歳になって人生を振り返ったときに、後悔しないかどうかを考えて、今チャレンジするかどうかを決める、という思考法です。
こうべゾスが考えるようになったきっかけは、カズオ・イシグロの小説『日の名残り』を読んだことにあります。この小説は、第二次世界大戦前に大きな政治力を持っていた英国の名門貴族の執事だった主人公が過去を振り返って思い悩むという物語です。この執事のように年を取ってあれこれ後悔しないよう、「今やりたいと思うことに必ずチャレンジしよう」と、べゾスは心に誓いました。
「挑戦して失敗しても後悔しないが、挑戦しなければずっと後悔しながら生きることになる」(ベゾス)
この記事を読んでくださっている読者のみなさまの中にも、挑戦せずに後悔した経験を持つ人がいるかもしれません。あのとき勇気を出して起業していたら、奨学金を借りてでも留学していたら、ふられる可能性が高くても大好きな人に告白していたらといったことを、過去を振り返ってくよくよ悩むくらいなら、迷いを捨ててチャレンジすべきなのは言うまでもありません。なかなか勇気を持てないときに、「80歳になって人生を振り返ったときに、この決断を後悔しないか」という判断基準を持つことは力になります。
ベゾスは、高給が得られるヘッジファンドでのキャリアを捨ててインターネット業界に飛び込むときに、この後悔最小化フレームワークを使って、「後悔しない」と判断し、アマゾンを起業しました。
「誰もが羨む金融機関で働いていることを考えれば、会社を辞めるのは確かに厳しい決断でした。しかし、最終的に私は、『今、挑戦するときだ』と決断しました。たとえ失敗しても後悔しないだろうと思ったからです」
惰性で人生を生きますか? それとも、本当に好きなことをやりますか?
「考えに考えた末、私は安全ではない方の道を選び、自分の情熱に従うことにしました。このときの『選択』を私は今、とても誇りに思っています」。2010年に母校のプリンストン大学の卒業式でスピーチした際にベゾスはこう述べました(『巨大な夢をかなえる方法 世界を変えた12人の卒業式スピーチ』)。
心の底からやりたいと思うことに勇気を持って取り組む情熱思考が、アマゾンの創業者を突き動かしたといえるでしょう。
ベゾスは子どもの頃から発明好きで、自宅のガレージでいろいろなものを発明してきました。傘とアルミホイルを使った太陽熱調理器を組み立てたり、フライパンを使って、弟や妹の侵入を知らせる警報器を作ったりしていたそうです。「いつか発明家になりたい」というベゾスの少年時代からの情熱が、アマゾンの起業につながりました。
このスピーチの最後で、ベゾスはプリンストン大学の卒業生に次のような言葉を投げかけました。
「惰性で人生を生きますか? それとも、本当に好きなことをやりますか?」
「世の中の常識に従いますか? それとも、独創的な人間になりますか?」
「批判に屈しますか? それとも、自分の信念に従いますか?」
「つらいとき、あきらめますか? それとも、あきらめずに挑戦しつづけますか?」
イノベーターに限らず、あらゆる人間が人生において大切にすべき言葉だと私は思います。母校の卒業式でスピーチする際は、誰もが自分の思いを込めた言葉を、将来ある若者たちに贈るものです。

[日経ビジネス電子版 2026年3月30日付の記事を転載]
山崎良兵(著)/日経BP/2640円(税込み)
