その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は児玉万里子さんの『 1300社の信用格付けをした私の決算書を読む技術 』です。
【はじめに】
この本の目的は、企業の決算分析は面白い、ということを改めて知っていただくことにあります。決算の数字を眺めながら、ある時期に売上や利益が急激に増えた背景や理由を考え、今後の展開を予想するのは、何とも楽しい作業です。その一端を味わっていただきたい。数字を通じて自分で考えることが大事ですから、読者が自分でイマジネーションを働かせるときに参考になる本をめざしました。
この本では、もちろん実例をあげながら話を進めています。決算分析というと、財務データをもとにした比率や倍率などたくさんの分析指標が使われますが、本書では簡潔な考え方は示しつつも、そういった指標の解説は最低限度にとどめています。また、誰でも容易に入手が可能で、内容も充実している有価証券報告書をもとに分析を進めています。したがって、読者は自分で大元の数字をたどりながら確認することができます。
この本は、どこから読んでいただいても大丈夫です。関心の深いテーマ(章)から読んでください。決算の分析を説明しながら、いまの日本企業のありようが見えてくることを目指しました。企業買収、合併、事業の選択や集中、事業からの撤退や分離独立、人員削減、企業をめぐるリスクの顕在化、IT活用による効率化、海外同業との競争など、目下の企業をめぐるテーマにも決算の数字を通して触れています。
取り上げた企業は、読者になじみがあってイメージがわきやすいこと、決算数字と重ねてみたときに理解しやすいことを基準に選んでいます。日本の産業を広く紹介することを目的にしていませんので、取り上げた産業分野には偏りがあるかもしれません。
通常、決算分析というと株価予想を目的にする場合が多いですが、この本では、株価動向は正面から取り上げていません。企業の基礎体力を測り、成長性、収益性を考えるという点では、株価予想に通じるものがありますが、直接的に株価に触れることはしていません。
私は長らく三國事務所において信用格付けのために日本企業の決算を分析してきました。格付けは企業の社債や借入金などの有利子負債の元本と金利の支払能力の高さを、簡単な符合で示すものです。『三國格付け』(1983年~2009年)では、負債元利支払(借り入れたお金の元本と金利を約定通りに支払うこと)の原資としてキャッシュフローの厚みや利益を生み出す力に着目していました。とくに利益の変遷は5年、10年といった長期間にわたって見てきました。その他、多数の格付け対象について比較感を示すこと、企業が公表する有価証券報告書などの情報を用いることを基本としていました。
日本企業が転換社債(発行会社の株式に転換できる権利が付いた社債)を中心として社債を積極的に発行していた時期と重なったため、『三國格付け』の対象企業数は当初の500社からピーク時には1300社を超え、生命保険業を除くあらゆる業種の企業の決算を20数年にわたり分析してきました。
私が格付け業務を離れて、フリーのアナリストの立場から内外企業を取り上げて独自に分析を進めることになった今日も、収益力や比較感の重視、有価証券報告書などの公表情報の活用が基本となっています。ただ、格付けが個々の企業の個性の違いに着目するのではなく、元利支払能力の一点をとりあげて能力の高さ低さを示すのが目的であるのに対して、個別企業の分析では、産業分野や製品サービスの違い、事業展開の仕方の特色、変化への対応能力などの個性をつかまねばなりません。ここ十数年は面白そうな企業を見つけて、決算の分析を通じてその会社の特色を理解することに注力してきました。それをまとめたのがこの本です。
本書を手に取った方が、企業の決算書を眺めるキッカケになればこれに勝る喜びはありません。
2025年12月
児玉万里子
【目次】










