その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は野本遼平さんの『 ゼロから創らない戦略 イノベーションを駆動する「価値移転」の法則 』です。
【はじめに】 優れたビジネスは「創造」に依存しない
イノベーションとは社会課題に向き合う高い志、斬新な発想力や技術力、そしてリーダーシップによる「創造」の賜物だと、私はこれまで信じてきました。もちろんそれらは重要かつ不可欠です。しかし、事業会社やベンチャーキャピタルにおいて新しい事業の創出に携わるなかで、次のような矛盾に頻繁に遭遇するようになり、「創造」だけでは優れたビジネスは生まれないのではないかとの疑問を抱くに至りました。
「資本主義のもとでは、価値創造や社会課題の解決に専念するビジネスほど評価されにくく、逆に、深刻な社会問題や外部不経済をもたらしている巨大テック企業ほど大きな成功や称賛を得てしまっている」
実際、コンテンツ制作のような創作的な事業や、福祉や介護のようなエッセンシャルワークに取り組む事業ほど儲かりにくく、利益の創出や事業拡大に時間がかかる構造にあります。その一方で、検索エンジン、SNS、ギグワークやAIといった、プライバシー問題、著作権問題、労働者問題など数々の副作用や外部不経済をもたらす事業は、大きな飛躍を遂げています。
多くの人は、こういった近年の事業成功の答えをソフトウェアに求めてきました。「Software is Eating the World」という言葉は現代ビジネスの常識となり、一時は、ソフトウェアを活用する事業こそが成長性も収益性も高いという共通認識がありました。しかし、ソフトウェアがなかった時代にも、「巨大な儲かる事業」は存在しました。ソフトウェアは本質ではありません。では、優れたビジネスを駆動する「隠されたミッシングピース」とは、一体何なのでしょうか?
その答えは、資本主義の黎明(れいめい)期から一部の思想家や経済学者たちが見抜いていた、極めてシンプルかつ冷徹な原理にありました。すなわち、巨大な富の源泉は価値の「創造」ではなく、価値の「移転」にこそ宿るという法則です。
GAFAMのようなITコングロマリット企業、エヌビディアなどのハイテク企業、オープンAIのようなAI企業、エアビーアンドビーやUberなどのインターネット企業、アクセンチュアのような開発/コンサルティング企業、ラクスのようなSaaS(Software as a Service)企業、そしてLVMHやサンリオといったIP(知財)企業。
これらの優れた企業の成長のきっかけを分析すると、そこには「移転」、すなわちある場所では過小評価されているリソースを、別の高く評価される場所へと仲介し利益を創出する仕掛けが埋め込まれていました。本書では資本主義的な成功に向けたこの仲介の仕掛けを「価値移転」と呼びます。この「価値移転」というレンズを通じて巨大事業に共通するメカニズムを分析し、成功の秘訣を解き明かすことが本書の狙いです。
「価値移転」の考え方は、「あの事業はなぜ成長・巨大化しているのか」という疑問への解答、「これまでのアプローチやテクノロジーで解決できる課題がなくなりつつある」という悩みの解決の糸口、そして新たに事業を企画するときの着眼点や補助線となり、結果としてビジネスパーソンの日頃の「実践」にも活用できるものになるはずです。
2026年1月
野本遼平
【目次】



