その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は日経ヴェリタス(編)の 『物価動乱 ウクライナ侵攻「2・24後」の世界』 です。
【プロローグ】
2022年2月24日午前6時前(日本時間同日正午前)、ロシアのプーチン大統領は国営テレビでの演説で、ウクライナへの軍事侵攻を宣言した。「特別軍事作戦を実行することを決定した。ウクライナ政権によって8年にわたり虐待やジェノサイド(集団虐殺)を受けてきた人々を保護することが目的だ。ウクライナの非軍事化を目指す」
演説の直後、ロシアは親ロシア派武装勢力が一部地域を占領していたウクライナ東部だけでなく、首都キーウを含む複数の都市をミサイルで無差別攻撃。間髪を入れず、ウクライナ北部と国境を接するベラルーシなどからロシアの地上軍がウクライナ領に侵入し、キーウに向けて進軍した。
第二次世界大戦以来、欧州で最大規模の戦火がウクライナを覆った。しかし、同国のゼレンスキー大統領は国民に徹底抗戦を呼びかけ、キーウを守り抜く。米欧は最新鋭の武器をウクライナに供与して支援する一方、ロシアに厳しい経済制裁を科した。経済制裁には日本など西側諸国が加わった。
冷戦の終結で一つになったはずの世界経済は、東側諸国と西側諸国に再び分断された。分断された世界を覆ったのは、急激なインフレだ。米欧の消費者物価指数の上昇率は約40年ぶりの水準に達し、インフレの波は慢性的なデフレに苦しんでいた日本にさえ押し寄せた。ロシア産のエネルギーやウクライナ産の穀物などの輸入が困難になったことがきっかけだが、それだけではない。20年に始まった新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)で寸断された世界的なサプライチェーン(供給網)、各国が金融緩和や財政拡大でばらまいたマネー、コロナが収束に向かい急回復する需要……。ロシアのウクライナ侵攻は、あちこちでくすぶっていたインフレの火種に油を注いだ格好だ。そして記録的なインフレは世界の株式、債券、外国為替、商品市場を大きく揺さぶった。
日本経済新聞社が発行する週刊投資金融情報紙の日経ヴェリタスは、ウクライナ侵攻直後から、海外総支局とともに取材を開始。地政学リスクの高まり、インフレに対応した利上げ、企業の値上げ戦略、食料危機、スタグフレーション(インフレと景気後退の同時進行)、エネルギー不足などのテーマで巻頭特集を編集し、「物価動乱」との企画名をつけて連載した。
その巻頭特集をベースに、日経ヴェリタスに掲載された関連記事やインタビューを加えて再構成したのが本書だ。その時々の出来事や相場の動きを書き留めた「記録書」という体裁のため、株価や金利、経済統計、戦況、登場人物の肩書などは日経ヴェリタス掲載時のままとした。約40年ぶりの大イベントを振り返り、今後の投資や資産運用法を検討する一助になれば幸いだ。
2023年1月 日経ヴェリタス
【目次】