その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は斎藤広達さん、石塚浩之さんの『 自分が言いたいことを、英語でもちょっといい感じに伝えられる人がやっていること AIに自分に合った英語の学び方を作らせる技術 』です。「プロローグ」をお届けします。
【プロローグ】
今でも昨日のことのように覚えている25年ほど前のセンチメンタルな記憶があります。
本書の共著者である石塚浩之から「英語で大学院に通うのは、どんな感覚なのか?」というメールが届いたのです。私は「小学生に戻ったような気分だ」と修士の学位を取るために通っていた、シカゴ大学に向かうスクールバスの中から返信しました。
日本語で当たり前にできていたことが、英語では全然できない。小学校に戻って勉強し直す。語学だけでなく、社会のルールや一般常識も含めて、ゼロから学び直している。当時はまさにそんな気分でした。まるでアメリカで、生きることそのものを一からやり直していたように思います。
先ほどのメールをもらったのは留学して数カ月経った頃です。振り返ると、ちょうどその頃から不思議な経験をいくつもし始めました。
もはや、英語を日本語に訳すのが面倒くさい。英語で考えたほうが早いし、楽。漢字とひらがなで構成された日本語のウェブサイトを読むより、平易なアルファベットで書かれた英語の文章のほうが楽だと感じ始めていたのです。
言うなれば、脳みその使い方が変わっていく。脳内の情報処理方法が変化し始めていて、頭の中から日本語が消えていく。そんな感覚でした。
もちろん最初からこうだったわけではありません。それまで私は英語を日本語に変換して意味を理解していましたが、この変換処理がなくなりつつあったのです。英語を聞いて、英語のまま理解する。英語表現から風景や概念を脳内で映像化できるようになり始めていました。
ただ、いくら英語をそのまま理解し始めたとはいえ、解釈する道具、表現する道具が圧倒的に足りませんでした。英語のボキャブラリーは、アメリカの小学生以下。このリアルな温度感を、なんとか石塚に伝えたいと思い、自分なりに気を利かせて送ったのが「小学生に戻ったような気分だ」というメッセージでした。
学期が進み、表現も脳内に蓄積され、毎日がだんだん楽しくなっていきました。クラスメートと馬鹿話をしながらビールを飲み、ピザを食べ、新しい英単語や下品なスラングを学んでいく。小学生が中学生になるようなものです。そして卒業する頃には、かなり自信を持って英語でコミュニケーションできるようになっていました。
大学院生活が終わり、帰国してからは、日々の仕事に追われてしまい、脳内では日本語だけが行き交うような生活になりました。以前、使えていた英語表現も忘れてしまったり、思い出すのに時間がかかったりするようになったため、渡米前の自分にリセットされたようにも感じましたが、時々あった英語を使う仕事で英語力を取り戻しながら、少しずつ「自分の英語」を進化させてきました。
「自分の英語」を構築するうえで転機になったことの1つが、石塚の初めての著書に出版する側として関わったこと(『ビジネスパーソンのための英語発信力強化演習』理論社刊)。自分の英語体験を学術的に解説してもらいつつ、体系的に英語力を伸ばすヒントをもらい、「こうすれば良い」と指針をもらった気分でした。
詳しくはトレーニング編で石塚に解説してもらいますが、私たちが学校で教わる英語は、英語を聞いたら日本語で理解して、日本語の枠組みで概念化/イメージ化するのが一般的です。つまり日本語と英語の2つの処理が同時並行で求められます。これはかなり難しいうえに、体力も使います。
私たちが英語を使うたびに、いつでも最難関の同時通訳力が必要になっているとしたら、難しい処理は何時間も続けられないとわかるはずです。
では、私たちは英語を話せないのか。いいえ、もっとシンプルに脳を使えばいい。英語は英語のまま理解して、概念化やイメージ化をすれば、脳の処理作業が半分で済むのです。
本書では、この脳の使い方をトレーニングする方法を広島修道大学で教授を務める石塚が解説してくれます。このメソッドは、論文でも発表されている、学術的に裏打ちされた手法です。私たちビジネスパーソンがふだんからそれを実践できるよう、石塚が実際に大学の授業で使っているトレーニング方法を紹介してくれます。
一方、共著者として私はこの本で何を書くのか、と不思議に思った方もいることでしょう。私はビジネスの中で英語を使っている経験が長い外資系ITコンサルタントとして、生成AIをうまく使いながら、「自分の英語力」を補完する方法を紹介します。これはAI時代の英語の使い方と言えるかもしれません。私が感じている英語の学びの楽しさを、読者の方に体感してもらえるとしたら、著者としてこんなにうれしいことはありません。
本書は3部構成です。初めの前提編でAI時代に英語を学ぶ理由や目的などを私が簡単に解説し、その後のトレーニング編で石塚が英語学習の手法を詳しく説明します。最後の実践編では、英語を使って仕事をする現場感やティップスを外資系ITコンサルである私の視点から、改めて紹介します。理論と叩き上げの現場感の両方から、皆さんが少しでも効率的に英語を身につけるサポートをしたいと考えています。
ChatGPTのような生成AIが登場し、手軽に英語を使える環境が整ってきました。日本人が親しんできた日→英という「2段階的な言語理解」は、AIがやってくれます。もはや、この複雑な処理で私たち人間の脳のキャパシティーを使う必要はないのです。
逆に、こうした環境が整ったからこそ、これまで以上に「自分の英語力」が必要だと私は感じています。理解はAIが助けてくれる。その一方、リアルタイムで自分の言いたいことを伝えて、相手とコミュニケーションするためには、やはり英語の表現力が必要です。
つまり、これからは考えること、伝えること(コミュニケーション)、そこに脳を使えばいいのです。
具体的には表現力の引き出しを増やして、場の雰囲気を読みながら適切な英語表現を選ぶ。英語圏の人たちに伝わる発音やイントネーションで、英語を話す。こういった力を身につけられれば、AIを超えた英語力につながり、英語で話す相手との関係性もより強固に、そして信頼も深まります。
ただし、本書は最新のAI英語サービスを紹介する本ではありません。英語学習で肝心なのは、どう実践的にAIを使えばいいのかです。AIを使って効率的に英語トレーニングを進める方法は紹介するものの、テクノロジーの進化によって内容が風化しないよう、できるだけ汎用的な使い方を解説するようにしています。
そして今回は英語でのコミュニケーション力を上げるための方法や生活習慣を日本語で解説します。よって、英語自体はあまり登場しません。実践するハードルを下げて、少しでも効率的に楽しく英語力を高められるよう工夫してありますが、実際にアクションを起こすのは皆さんです。
本書を読了する頃には、皆さんの頭の中で何か大きな変化が起こると確信しています。私が体感したように、通訳訓練のメソッドを体得し、英語で大きなチャンスをつかんでください。
本書をきっかけに、皆さんが英語学習を楽しみ、ひいては自分をもっと好きになれること、自信を持てることを願っています。
斎藤広達
【目次】






