少しずつ自由な時間が増えてくると、片付けや、余暇の過ごし方を考えるようにもなる。老後を見据えるとき、脳のクセを知っておけば無理なく楽しく脳の若々しさを保っていけそうだ。日経Goodayの連載で人気を集めた内容が、1冊の本『 脳を乗っ取る感情(アイツ)からあなたを守る方法 』にまとまった。本記事では、ミドル世代からシニア期にかけての脳の若さの守り方を考えてみよう。
仕事の忙しさも落ち着いてくる年代、いらないものを処分するなど身の回りを片付けたくなってくるが、篠原氏は、片付けには脳を活性化する働きがあると話す。どういうことだろうか?

片付けをするとストレス軽減、ひらめきにもつながる
まず、片付け作業をスムーズに進めるためには、脳のワーキングメモリの働きを生かすのがポイントだ。
「ワーキングメモリでは3つ、多くてもせいぜい4つのことぐらいしか取り扱えません。片付けの解説本でも、だいたい物事を3つぐらい――『必要なもの』『不要なもの』『保留にしておくもの』に分けるでしょう? これもワーキングメモリの容量からいうと理にかなっているのです。欲張って5つや6つに分類しようとすると、たちまちはかどらなくなります。片付け作業は、3つに分けるがはかどるコツなのです。仕事のスケジュールを決めるToDoリストも3つにするとはかどるはずです。捨てるという作業は意思決定でもあります。選択肢を3つに分けてどれを捨てるか決めるというのは、仕事の意思決定のトレーニングにも応用できるでしょう」(篠原氏)

片付けた直後は気分がすっきりするが、脳においてもいくつかのプラス効果が期待できそうだという。
「まず、ストレスと不安の軽減。この部屋、散らかっているなと自覚するだけで、脳には『片付けなきゃ』というプレッシャー、ストレスが加わります。もちろん、散らかりがストレスとなる人にとっては、ですが。
実際に片付いて、整理整頓された環境になると、注意力を分散させる要素が減るために、タスクへの集中力が向上します。学習や仕事の生産性もある程度は高まるでしょう。
また、片付けを行うことで、すっきりした!という目に見えた結果に、達成感、自己効力感も高まります。その空間にいることへの心地よさ、安心感は脳のリラクセーション、リカバリーを助けるでしょう。
副次的なことではありますが、物を整理しているプロセスでは、『こんなものがあった!』と見つけることがきっかけになり埋もれた記憶を発掘し、脳のつながりを導いて記憶の再活性化、ひらめきを促すこともあります。
小さなことですが、朝、机を拭くなど仕事まわりの環境をすっきりさせることが、さあ、やるぞ!という意欲の中枢、線条体の活性化を促します」(篠原氏)
ストレス軽減に、集中力アップ、達成感にひらめきと、いいことずくめ。まずは、1日の始まりに机を拭くことから始めてみたい。
知的ゲームのワクワクで脳活動を高めよう
リタイア後の生活を想像し、「何もしないでいると脳の老化も早そうだな」と不安を感じている人に、おすすめなのが知的ゲームだ。
篠原氏はゲームや麻雀などの知的ゲームと脳活動について研究を行ってきた。ゲーム性があるものならば楽しさもあるので挑戦しやすく、脳の若さにもつながるのではないだろうかと想像できるが、篠原氏は研究によって、麻雀のときには2つの脳の部位が活性化したことを確認している。
「麻雀をしているときに脳の前頭葉と、側頭頭頂接合部が活性化していました。また、ゲーム機でやるよりも、リアルに4人で麻雀をするほうが脳活動が高まりやすいことも確認しました」(篠原氏)
前頭葉とは、ワーキングメモリ(脳のメモ帳)に関わる部位で、年齢とともに衰えやすく、いわゆる脳トレで鍛えようとする部位だ。一方、側頭頭頂接合部は、「想像力」や「裏読み」に関わる部位だという。なぜ、この2つの部位が活性したのだろうか。

「『これは引っかけじゃないか?』などと相手の戦法について疑う裏読みを麻雀ではしますよね。実はこの部位は、会話がいい感じに流れているときに相手の言葉を予測し、互いの脳活動が同期しているようなときにも特徴的に活性化します。
裏読みに関しては、ポーカーゲームでも、相手をだまそうとするときに側頭頭頂接合部が活性化するという報告があります。ちなみに側頭頭頂接合部は、恋をしたときに活動が低下することが知られる場所でもあります。恋は盲目なんですね。でも、対人ゲームはそれじゃいけません(笑)」(篠原氏)
相手の戦法を裏読みする以外にも、麻雀では役を覚える、作戦を練る、先を読むなどいろいろと脳を使う。このやることの多彩さが脳を活性化するようだ。
「なお、私たちが調べたときには、物理的に手先で麻雀牌を触るときにも脳が活性化していました。牌を小指で引っかけて持ち上げるといった動作、また、裏面になった牌の模様を指の腹で読み取る盲牌(モウパイ)も、真っ白だったらすぐ分かるけれど、ちょっと複雑なものを読み取るときに脳が活性化していました。
トランプでも、カードを切る、カードを両手に持って反らせて混ぜるといった小技がありますよね。そういった細かい技でも、脳はけっこう活性化しますよ。あの技を身につけるまで、指先も頭も使うじゃないですか。それで活性化するのです。
また、ゲームには『勝ってうれしい』という快の感覚もあります。報酬を与えられる、報酬予測をする(先の展開を想像する)ことでドーパミンが出やすくなります。また、ゲームがいい展開になった、大きい役に上がれた、といったときには、やる気や意欲の中枢である脳の線条体の活動も高まる。私が学生の頃などは当たり前にお金に直結する切実さがあったから(笑)、報酬系がすごく活性化していたかもしれません」(篠原氏)

老後の趣味を考えるとき、学生時代に麻雀をしていた人なら、再び挑戦する懐かしさや楽しさもあるだろう。このようなゲームの遊戯性は介護やリハビリにも活用できるのでは、と篠原氏は考えている。
「やる気が出ないとリハビリ効果が低下することはよく知られているので、介護予防、身体機能訓練などの動機づけにもゲームは役立つのではないか。ゲームはコミュニケーションツールとしても使えます。中国の研究では、トランプや麻雀などの余暇活動はうつ病リスクを低下させる関連因子であったと報告されています」(篠原氏)
日常で頭を使うことを難しく考える必要はない。面白そう、と感じることや、かつて夢中になったことに素直に取り組んでみるだけでいいなら、一気にハードルが下がる。
ここまで、本記事では、『脳を乗っ取る感情からあなたを守る方法』のエッセンスをお伝えしてきた。脳の働きやその仕組みを知り、脳を手なずけることができれば、日々をもっと楽しく過ごすことができそうだ。脳の若さを維持するヒントが詰まったこの本を手元において、あなたも新たな挑戦に取りかかってみてほしい。
[日経Gooday(グッデイ) 2026年6月11日付の記事を転載・一部改訂/情報は掲載時点のものです]
篠原菊紀 著/日経BP/1870円(税込み)
