その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はマツモトタスクさんの『 ゴルフサイエンス ファンダメンタルズ エネルギーで読み解くスイングの真理 』です。

【はじめに】

なぜ今、「ゴルフサイエンス」なのか

 ゴルフに向き合う時間が長くなるほど、私たちは同じ問いに何度も立ち返る。「なぜ昨日は飛び、今日は当たらないのか」
 スイング動画を何度も見返し、肩の回し方やトップの高さ、フェースの向きを検証しても、答えは霧のようにすり抜けていく。形を整えたはずなのに結果は安定しない。
 ──偶然の好調と、不意の不調を行き来する──
 それが、長いあいだ私にとってのゴルフだった。
 実は、ゴルフを楽しむ環境には恵まれていた。20代後半、金融マンとして欧州に赴任し、特にゴルフ発祥の 地・英国で過ごした10年以上の時間は、私にとって理想的とも言える環境だった。
 1990年代中盤、日本からパーシモンクラブを携えて渡欧した当時、日本ではメタル、チタンへと進化する「新製品の季節」が当たり前になっていた。一方、英国ではその進化に戸惑うゴルファーが少なくなかった。多くのプレーヤーは、私と同じようにパーシモンを手放さなかったのである。

 英国のゴルフは、私にとって単なる余暇ではなく文化そのものだった。リンクス特有の風、硬く締まったフェアウェイ、1日のうちに四季が巡るように変わる空。距離よりも球筋が語られ、形よりも意図が問われる。彼らはクラブを「振る」のではなく、「使う」ことを知っていた。重みを感じ、風に抗わず、自然にエネルギーを流す。そこには無駄のない秩序があった。
 私はいつしか、「なぜ古いクラブでも飛ぶのか」という問いに惹かれるようになった。スチールシャフトをしならせ、パーシモンドライバーで250ヤードを放つ老紳士を目の当たりにしたとき、私は直感した。ゴルフは“力”ではなく、“理”のスポーツなのだと

 十数年後、Michael Jacobsと出会い、Jacobs3D Golfの世界に触れたとき、あの感覚が鮮明に蘇った。数値とベクトルの群れは、あの風の中で感じた「見えない秩序」を、科学の言葉で再現していたのである。Jacobs3D Golfとの出会いは、私にとってゴルフの「再学習」だった。
 感覚は否定されるのではなく、裏づけられ、同時に科学は感性によって息を吹き返す。ゴルフの本質とは、力とエネルギーの流れであり、クラブという構造体を通して、その秩序を形にする営みである。この単純にして深い真理が、私の中で1本の線となってつながっていった。
 それまで私は「うまくなりたい」と願っていた。だが、Jacobs3D Golfを通じて、「理解したい」と思うようになった。
 そして、その理解こそが上達を生むことを、身をもって知ることになる。50代半ばを過ぎてから、スコアは大きく変わった。それは筋力でも若さでもない。力の流れを理解したことによる、自然な変化だった。この変化は、単なる飛距離の話ではない。クラブと身体のあいだにある「翻訳関係」を整えた結果だった。

 私はこの数年で、多くのアマチュアゴルファーと出会ってきた。とりわけ印象的なのは、シニア世代のプレーヤーたちである。時間も経験もあるのに、どこかで限界を感じている。だが、年齢が上達を妨げるわけではない。むしろ、筋力に頼れなくなる年齢を重ねたからこそ、純粋にエネルギーを「管理する」ゴルフが可能になる。年齢に奪われないものがある。それが、理解である。
 本書は、過去の私自身への手紙でもある。平均スコア90前後のアマチュアだった私が、科学の言葉を手に入れ、ゴルフを再構築していった道のり。その過程で痛感したのは、「うまくなること」と「わかること」は、本来一つだという事実だった。わかれば身体は動き、動けば結果が応える。そして、その理解は年齢に奪われない。

 ゴルフを、形ではなくエネルギーの流れとして捉えること。クラブという翻訳装置を通して、身体とボールのあいだにある見えない秩序を感じ取ること。なぜ、私たちは長年、形ばかりを追い続けてきたのか。本当に再現すべきものは、何だったのか。この問いから始めたい。

 本書で用いている「エネルギー」「力」「トルク」といった言葉は、物理学においては明確な定義と次元を持つ概念である。一方で本書は、それらを厳密な数式展開や理論証明として提示することを目的としたものではない。ゴルフスイングという現象を、結果(形)ではなく原因(入力とその流れ)から捉え直すために、理解の助けとなる範囲で比喩や直感的表現を用いている。
 もちろん、力やトルクはエネルギーそのものではなく、エネルギー状態を変化させる原因である。本書ではその区別を踏まえたうえで、一般読者がゴルフを「理解するための思考の入り口」として言葉を選んでいる。ここで示される視点の一部は、現在進行形の研究領域とも接続しており、将来的には大学との共同研究や計測データに基づいた形で、より学術的に整理・検証されていく予定である。本書は、その入り口に立つための一冊である。

2026年2月、英国・ロンドンにて  マツモト タスク

――Michael Jacobsより

 ゴルフという競技は、長いあいだ「わかっているようで、実は説明されてこなかった」スポーツだ。多くのプレーヤーは、上達とは何かを語ることはできても、なぜその結果が生まれたのかを明確に言葉にすることができない。
 形を直せば良くなる。練習量を増やせば安定する。そう信じて努力を重ねながらも、同じ場所を行き来してしまう。その背景には、ゴルフが「結果」の言葉で語られ、「原因」の言葉で語られてこなかったという事実がある。
 私は長年、ゴルフスイングを3次元の力学として解析してきた。その中で見えてきた、力と運動の因果関係を整理した枠組みが、Jacobs3D Golfである。ただし、最初に強調しておきたいのは、Jacobs3D Golfは「新しいスイング理論」ではないということだ。フォームを規定するものでも、誰かの動きを真似させるものでもない。私たちが扱っているのは、もっと根本にある問い──なぜその動きが起こったのかという「原因」である。

 タスクがこの本を書いた理由は、そこにある。
 彼は長いあいだ、多くのゴルファーと同じ場所で立ち止まっていた。スイング理論を学び、動画を撮り、形を修正し続けても、越えられない壁があった。その壁の正体は、努力不足でも、年齢でも、才能でもない。
 ニューヨーク、ロングアイランドにあるJacobs3D Golfの本部を初めて訪れたタスクは、私を驚かせた。彼は、私の著書『Elements of the Golf Swing』と『Science of the Golf Swing』を完全に理解するためだけに、数学と物理を学び直していた。
 Jacobs3D Golfが示す自らのデータの意味を理解し、違和感を一つずつ乗り越えながら、彼は驚くほど短期間で自身のスイングを昇華させていった。そのプロセスで、彼を明確に変えたものがある。それは、「見るべきものが、ずっと別の場所にあった」という事実だった。
 ゴルフの世界では長いあいだ、「正しい形」を再現することが上達だと信じられてきた。しかし、形は結果であって原因ではない。形とは、身体とクラブのあいだで力がどのようにやり取りされたか、その痕跡にすぎない。にもかかわらず、私たちは結果を追いかけ、原因を見失ってきた。
 Jacobs3D Golfが示してきたのは、この混乱を整理するための枠組みだ。私たちはまず、混ぜてはいけないものを分ける。見えている動き(運動学:キネマティクス)と、その動きを生み出す力(運動力学:キネティクス)。人間やクラブが持つ性質と、解析のために一時的に変換された座標系。これらを正しく分けたとき、スイングは突然シンプルになる。

 タスクは私の本部を頻繁に訪れるが、そのたびに私は同じことを伝えてきた。──「箱から出ないこと(Stay in the box)」──すなわち、議論のレイヤー(階層)を混ぜないことだ。ForceとTorqueという「原因」の話をしている最中に、スイング軌道という「結果」の話を混ぜて混乱させない。説明のレンズを切り替えるなら、その自覚を持つ。
 これは研究者だけでなく、指導者にとっても決定的に重要な態度だ。なぜなら、指導とは「何を言うか」以上に、「何を言わないか」で成立するからである。
 この本の第1章で、タスクは「スイングの本質は『力の伝達である』」と述べている。これは比喩ではない。人間の身体が生み出した力とトルクが、クラブという構造体を通じてどのように整えられ、どのタイミングでボールへ解き放たれるのか。その設計こそが、スイングの本質だという意味である。

 重要なのは、ゴルフが特別な能力を必要とする競技ではないという点だ。人は日常生活の中で、すでにエネルギーを扱っている。重い物を身体に近づけて持つ。タイミングを合わせてブランコを漕ぐ。道具の重さに任せてハンマーを振る。ゴルフだけが、これらの知性から切り離されてきた。この本は、失われた感覚を取り戻すための書ではない。すでに持っている能力を、正しい文脈に戻すための書である。

 Jacobs3D Golfは魔法ではない。だが、原因と結果を正しく区別し、エネルギーの流れを一貫した言葉で捉え直したとき、ゴルフは理解可能なスポーツになる。タスクがこの本で示したファンダメンタルズは、そのための共通言語だ。
 ここから先、あなたは形ではなく、力がどこから生まれ、どこへ向かい、どこで失われるのかを見ることになる。その視点を持って読み進めてほしい。

Michael Jacobs
Jacobs3D Golf
Long Island, New York


【目次】

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