その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は野尻哲史さんの『 100歳まで残す 資産「使い切り」実践法 60代からの”まさか”に備え、資産寿命を伸ばす知恵 』です。
【はじめに】
退職後の「まさか」に備える
2024年1月からNISA(少額投資非課税制度)が拡充され、資産形成の気運が盛り上がっています。皆さんの中にはそれを機に資産形成を始めたり、投資額を増やした方もいらっしゃるでしょう。
そうした方々に、あわせて、「将来、作り上げた資産をどうするか」についても考えていただきたいと思います。
前著『60代からの資産「使い切り」法』を2023年8月に上梓してから、資産の取り崩しに関する講演のご依頼や雑誌・新聞などの原稿依頼が増えました。とはいえ、資産の取り崩しを意識している人がどれくらいいるかといえば、まだ心もとないところです。
資産の使い方にルールを決めている人はわずか2割
私が立ち上げたフィンウェル研究所は、「60代6000人の声」アンケート調査を毎年行っており、2025年は1月28日~2月3日で実施しました。このアンケートは、人口30万人以上の都道府県庁所在34都市に居住する60代の都市生活者だけを対象としています。対象は偏っていますが、回答者は6461人と、1つの世代だけでこれだけの規模のアンケート調査は他にはないと思います。
そのアンケートでは、資産を保有していると回答した人のうち34.7%の人が「資産の取り崩しをしている」と答えていましたが(図表1)、「取り崩しにルールを設定している」人はわずか2割にとどまりました(図表2)。
全体でみると取り崩しにきちんと向き合っている人は多くないことがわかります。想定以上に資産が棄損するリスクや、使わないように我慢することで充実した退職後の生活をあきらめる懸念が残ります。
もっと資産の取り崩し、デキュムレーションという考え方が普及する必要があると私は考えています。
大暴落やインフレにどう備えればいいか
資産の取り崩しに関するセミナーでは、「使いながら運用するという考え方を初めて聞きました」といった声をいただく一方で、「実際にはどうやって資産の取り崩しをしたらいいのか」という質問をいただくことも増えてきました。
特に2024年8月の「令和のブラックマンデー」や25年4月のトランプショックの株価の乱高下を受けて、この10年ほどの順調な金融市場だけをみてきた世代には、「取り崩しをするときになって金融市場の波乱が起きたらどうすればいいのか」といった疑問や、「多くの生活必需品が値上がりしていることでインフレが資産の取り崩し計画そのものにどんな影響を与えるのだろうか」といった懸念も、具体的に見えてきているのでしょう。
また、年代に合わせた取り崩しの方法として、65歳から80歳までを「運用しながら使う」時代、80歳以降を「使うだけ」の時代と前著のなかで紹介しましたが、前著をお読みいただいた方のなかには「なぜ80歳で運用をやめなければならないのか」「ずっと運用を続けたい」といった願望を持たれた方もいらっしゃったはずです。
認知・判断能力が低下すると運用に支障が出るため、保守的な計画としてはどこかで運用を止めるタイミングを設定せざるを得ません。
ただ、「年齢による認知・判断能力の低下=運用をやめなければいけない」が本当に適切なのかは私もまだあっさりと受け入れることができず、もがいています。だからこそ、そうした事態になっても運用を続ける方法はないのかも探っています。
本著では、資産の取り崩しを行う際に起きる課題について、セミナーなどでよく質問されることや、60代の一人として自分自身が今後どうすればいいのかと悩むことのなかから10項目を選び、それぞれの対策をまとめています。
第1章では、資産の取り崩しの基本的なポイントをまとめました。ここを読んでいただければ前著を読んでいない人でも「資産活用」の大まかなところは理解できると思います。
その後、第2章から第11章までは、それぞれ10項目の疑問を並べています。それぞれの章のタイトルをみて自身が疑問に思う点を選んで読んでいただければいいかと思います。
その先の第12章で、なぜ資産活用をするのかを改めて整理してみたいと思います。10の疑問を乗り越えて、「よし、資産の取り崩し、恐れるに足らず」と思っていただけ、そして持っている資産を上手に使っていくことに前向きになっていただくことができればうれしい限りです。
退職後のお金問題は、思った以上に“感情”に左右される
私は、資産形成・資産活用に関してその考え方を広く世に問うべきだと思って、20年以上にわたって活動してきました。特に2007年にフィデリティ退職・投資教育研究所を立ち上げてからは、ソートリーダーシップ(Thought Leadership)活動にかなり本腰を入れるようになりましたが、中核のメッセージは資産を作り上げるための資産形成でした。
当時、海外では既に資産形成と同じくらい、資産形成を終えた世代に向けて資産の取り崩しの重要性を指摘していたにもかかわらず、日本ではなかなかその域に達していませんでした。顧客資産を増やすことがビジネスの源泉だと考える日本では、資産を取り崩すためのアイデアはそれに逆行するものとして簡単には業界に根付きませんでした。
本来、金融機関にとっての顧客、すなわちわれわれの満足度はその資産を目的に合わせて費消して初めて得られるものです。退職後の生活のために作り上げてきた資産は上手に使ってこそ意味がありますから、そのアドバイスをすることは、顧客満足度を高めるはずです。
2019年に定年を迎えたことで、資産の取り崩しに関するソートリーダーシップ活動に専念するフィンウェル研究所を立ち上げました。
現役時代のその活動は、資産の取り崩しの重要性は伝えていてもどこか理論的なメッセージが強かったと感じています。
それが、自分自身が退職すると、これまで以上にお金との向き合い方に“感情”が強く関わっていることを思い知らされました。例えば、決まった給与が入ってこなくなったことで、株価の乱高下が現役時代よりも気になるようになりました。
この“感情”とどう付き合っていくかが退職後のお金との向き合い方の基本なのだと、自分が定年を迎えて感じました。
その頃から始めたフィンウェル研究所のブログのタイトルに「私の心情」と付けたのも、今さらながらに納得できると感じています。
本書では、資産の取り崩し、デキュムレーションの方法をできるだけ「自分事」にしてまとめています。読者の皆さんの参考になれば幸いです。
【目次】







