その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は酒井光雄さんの『 欲望と消費の100年史 日本のマーケティングをめぐる物語 』です。「イントロダクション」をお届けします。
【イントロダクション】
欲望のゆくえ
私たちは日々、「欲しい」「したい」といった思いに突き動かされています。こうした感情は個人的な衝動のように見えて、実は時代の価値観や社会の空気が折り重なって形作られた“鏡”でもあります。本書が扱う「欲望」は、その時代に生きる人々の心の形を映し出す存在です。
技術が急速に進化し、デジタルマーケティングが登場して以降、マーケティングは短期的視点に偏りがちになりました。今日有効なノウハウが、明日には陳腐化してしまう。そうした時代だからこそ、私は30年以上にわたってマーケティングに携わる中で、「そもそも欲望とは何か」という根源的な問いに立ち返る必要性を感じました。
消費欲求や所有欲は、どこから生まれるのか。人間の内面から自ずとわきあがったものなのか。それとも国や社会、さらには企業が創り出し、増幅してきたものなのか。100年というスパンで眺めれば、その答えが見えるのではないか──そう考えるようになったのです。
若いビジネスパーソンは、歴史的経緯を知らないまま現在の世界と対峙しています。だからこそ、日本の近代化が始まった明治維新以降から現在に至るまで、日本人の欲望がどのように生まれ、どのように拡張し、どのように変質してきたかを知ることは大きな意味があります。
一方で、「ポパイ」「ブルータス」「JJ」といった雑誌と共に育ってきた世代にとっては、アメリカ西海岸ブームのように「メディアがブームをつくった」体験を持っています。こうした体験を振り返れば、「マス」メディアしか存在しなかった時代の構造が見えてくるはずです。そして現在のSNS時代という「マス」とはある意味対極にあるツールやコミュニティが主導する「欲望のつくられ方」との共通点や違いも浮かび上がってくるでしょう。
本書は、単に時系列で欲望の変遷を追う構成にはしていません。あえて第1章を「1980年代のバブル経済と欲望の狂騒」から始めたのは、この時代が“量から質へ”という日本人の欲望の転換点であり、その後の30余年を方向づけた時代だと考えたからで す。
本書は社会学でもマーケティング史でも、また評論家としての視点で語るものでもありません。長年生活者のインサイトに寄り添い、企業の課題に取り組んできた、マーケティングの実務者としての視点から執筆しています。
これまでの100年で、私たちは何を欲望として求めてきたのか。それはどのように形成され、どこまで拡大してきたのか。そしてこれからの時代、私たちは欲望とどう向き合い、いかに共存していくのか。本書が、そのゆくえを考えるための一つの道標となれば幸いです。
【目次】
















