その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」をご紹介します。今日は綱島邦夫さんの『 何が日本の経営者を迷走させたのか 米国流への誤解・錯覚・無理解を斬る 』です。

【はじめに】

 この本は二つの目的のために書かれている。
 第一の目的は、平成の最後の10年間に始まり、令和の時代にバブルのように膨張し、日本の実業界に広く浸透している米国流の経営は、英語をカタカナ表記にした言葉、またはCEOなど英語表記のままで示される言葉への私達の誤解、錯覚と無理解に基づくものが多く、その表層的な導入は日本企業に悪影響を及ぼすだけでなく、破滅に導く可能性があることをお伝えすることである。
 また、カタカナ言葉ではないが、私達が米国流と認識する「選択と集中」「全体最適の経営」「中期経営計画」などの概念や手法は20世紀に終わった時代遅れのものであり、21世紀において米国の歴史ある多くの伝統企業を衰退に導いたものであることも述べたい。
 第二の目的は、20世紀の米国企業の繁栄を導いた「経営者の時代」が終わり、同時に「戦略的経営」もその使命を終えていることを伝えることである。今、世界で繁栄する企業は経営者でなく事業家によって運営されており、MBA的な手法は役に立たないものになっていることを述べたい。
 そして、日本企業の特長を磨くと同時に、外国企業に固有の力を米国だけでなく世界の諸国から学び、日本企業の成長力を復活させる企業運営の指針を提案する。また、近年、シン・日本的経営という言葉が生まれているが、気をつけないと昭和中期から後期の日本の繁栄の時代への郷愁にとらわれ、無意識のうちに視野狭窄になる危険性を述べたい。本当に良いものは古今東西、変わらないからである。
 とりわけ重要な指針として、①世界のすべての企業が共通に陥る組織の慢性疾患である「仕事の作業化」に鬼のように徹底的に抗う地道な闘いの継続、②繁栄の時代の日本企業の特長であった中核管理職の活力を最大化するという二つの取り組みがすべてに優先する絶対的な目標であるべきことを強調したい。この条件を満たす企業は例外なく成長している。この二つの条件を満たさない企業は、よほど業界全体がブームになって拡大している場合を除き、成長を止めていることをお伝えしたい。
 その上で、日本企業が新たに獲得するべき「未来を想像する空想力」「国際的なチーム作り」および企業の成長への絶対的条件であるGrowth Mindset(初心忘るべからず)の精神の意義を説明する。
 書名は『何が日本の経営者を迷走させたのか 米国流への誤解・錯覚・無理解を斬る』である。強い使命感を支えに私生活を犠牲にし、会社の繁栄のために全身全霊を込め、粉骨砕身される経営者には大変に失礼な表現であることは重々、承知している。しかし、その方々の必死の努力が結実しなければ残念であり、悲しい。
 日本の経営者からは、私達は何を捨て、何を守り、何を変えるのか、という問いを深く探る姿勢が失われている。
 株主も社員も大事、戦略も組織力も重要、トップダウンとボトムアップを両立する、既存事業を発展させ、同時に新規事業を創造する、自力成長と他力活用を併用する、短期の視点と長期の視点を同時に重視するという漏れがない一般的な総論にとどまり、本当に困った時、重大な意思決定をする時、例えば2008年のリーマンショックのようなことが起きた時に、何を優先するのか、という判断の基準となる経営の指針はほとんど示されていない。経営の根本的な軸が定まらずに経営者の心は一方から他方に揺れ動き、一貫性を失い、その姿を見る社員は疑心暗鬼に陥っている。このことが、あえて「迷走」という言葉を私が使う理由である。
 経営者は社員に個性の発揮を求める。尖った社員になれと言う。しかし、経営者は個性を失い、皆、同じように考え、行動している。個性の見えない丸い経営者になっている。経営者は社員に自律を求める。しかし、多くの経営者はコーポレートガバナンス、人的資本経営、SDGs、サステナビリティなどの官製の指針に従い、短期志向のプロ投資家が求めるROE(Return On Equity、自己資本利益率)やPBR(Price Book-value Ratio、株価純資産倍率)に代表される会計数値の向上を目標にすることを静かに受け入れ、自律でなく他律の経営になっている。このことも、私が「迷走」という言葉を使う理由である。
 1981年にGEの社長に就任し、その後、1999年までの会社の黄金時代を築いたジャック・ウェルチ氏は“Control your destiny or someone else will.(自分の運命を他人にゆだねるな)”という社員を鼓舞する有名な言葉を残している。しかし今、40年を経て多くの日本企業は当時のGEと同様に自分の運命を自分で支配する意志を失いつつある。投資家に約束した財務的な数値の達成に取り憑かれている経営者が多いように見える。
 本書は、日本企業が捨てるべき六つの米国由来の表層的な流行を示す。その上で、2030年代に向けて日本企業が成長するための土壌を耕す六つの指針を示したい。このままでは多くの日本企業は新約聖書に由来する言葉である「砂上の楼閣(英語ではHouse built on sand)」になってしまう。合計十二の指針の要点を図表1に箇条書きにしたので参照していただきたい。

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【目次】

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