その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は田中安人さんの『 妄想力 答えのない世界を突き進むための最強仕事術 』です。
【はじめに】
妄想力が、人生をたくましくする。
1997年12月19日、僕の新卒からの勤務先が会社更生法の適用を申請し、事実上倒産した。その会社は、世界15カ国で百貨店などを展開していたヤオハングループの中核会社、ヤオハンジャパンだ。静岡県熱海市の八百屋から世界的なチェーンストアに成長し、最盛期の売上高はグループ全体で年間5000億円を超えていた。入社9年目の冬だった。
これだけの規模を誇る東証一部上場企業が倒産するなんて、当時の日本ではほとんど誰も思っていなかった。ところがここから、数多くの大企業が倒れ始めた。三洋証券、大同コンクリート工業、東食、そして山一證券、北海道拓殖銀行、日本長期信用銀行、日本債券信用銀行の破綻には誰もが驚いた。頑張っていい大学を出て、大企業に就職したら人生の安泰が約束されていた時代が、音をたてて崩れ始めた。
ヤオハンジャパンの経営がおかしくなってから倒産するまでの3年間、僕は経営企画室にいて、企業という生命体が死んでいくさまを内部から見つめ続けた。その間、毎月数多くの先輩や後輩たちが辞めていった。若い人たちは次の会社へ旅立っていったが、年配の先輩社員の中には未来に絶望して無気力になる人、現在置かれている状況がいまだに信じられず立ち止まったままの人もいた。すべての社員の行き先が決まるまで、僕は会社の真ん中で苦闘した。
給料は天から降ってくると思っていた
僕は若輩者だったが、世界中の社員を守りたいと思い、なんとか会社を更生させるべく、寝食を忘れて駆け回っていた。毎日が苦しい闘いだった。出口の見えないトンネルの中を、再建の可能性を求めて模索し続けたが、会社が復活することはなかった。
会社が倒産した日のことを、今でも鮮明に覚えている。
まず、僕は大きな勘違いをしていたことに気づかされた。自分は人生の勝ち組にいて、給料は毎月、確実に天から降ってくる。無邪気にもそう思い込んでいた。それがまったくの幻想だったことを嫌というほど思い知らされた。
だが、絶望的な状況に置かれた自分を冷静に俯瞰する「もう一人の自分」もいた。
「こんな経験、なかなかできないんじゃないか」
幻想が吹き飛び、目の前にあった道が突然なくなって絶望しているはずなのに、なぜか、新しいゲームが始まるときのようなドキドキした気持ちが芽生えているのを感じた。
この感覚は、以前にも経験したことがある。ロッカールームから暗い廊下に出て、身震いをしながら階段を駆け上がると、目の前が突然パッと明るくなり、大きなグラウンドが現れる―そんなイメージがわいた。僕は大学時代、体育会ラグビー部に所属し、日々練習に明け暮れた。かつて自分の青春のすべてをささげたラグビーの試合前の高揚感がよみがえった。
「やってやる!」
あのときと同じ感覚だった。
妄想は未来に進む力になる
そして、自分のこれからを、何の根拠もなく妄想した。やりたいことが次から次へと、イメージとして頭の中にわいてきた。本当に何の根拠もなく。
苦しさや修羅場の中でこそ、それに正面から向き合い格闘すれば、つらいけれど人は大きく成長する。そして、絶望に打ちひしがれた暗黒の中でこそ、妄想は未来に進む力になる。一筋の光さえ感じられない漆黒の夜であっても、明けない夜はないのだ。僕の妄想は苦しみを凌駕してしまうほど強力で、生きる支えになった。今の僕は、当時の妄想の延長線上にいると思う。
もう一度言う。妄想は力だ。
【目次】


