その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は藤井彰夫さんの『 「ガラパゴス・日本」の歪んだ円相場(日経プレミアシリーズ) 』です。
【はじめに】
日本はなぜこれほどまでに為替相場に振り回され続けるのでしょうか。40年近くになる記者生活のなかで私がずっと考え続けてきたことです。
最近では2022年から24年にかけて進んだ急激な円安が大きな話題になりました。円相場は、22年初めの1ドル=115円から24年7月には一時は161円まで値を下げました。この間、日本では円安の脅威を訴える声があふれました。ウクライナ危機などに伴うエネルギー価格の高騰と、円安による輸入物価の上昇のダブルパンチで、ガソリンや小麦など日常用品のインフレに人々の不満が強まり、その「元凶」が円安とされたのです。
日本政府は円安に歯止めをかけるため、22年以降は累計24.5兆円の円買い・ドル売りの為替市場介入を実施したほか、ガソリン・電気・ガス料金を引き下げる累計10兆円を超す補助金や定額減税などの対策に動きました。円安が進むのは、日本銀行が長期にわたって金融緩和を続け、金利の高い米国との金利差が広がっているためだとして、日銀に利上げを求める声も上がりました。
時を少し戻してみましょう。民主党政権下の2011年10月に円相場は一時1ドル=75円32銭と、ドルに対し戦後最高値を付けました。08年のリーマン・ショック後の米国の積極的な金融緩和や、10年に深刻になった欧州債務危機などで、当時は安全資産、避難通貨とみなされていた円の買いに弾みがつき、急激な円高が進みました。この時は収益が悪化した輸出企業から悲鳴が上がるとともに、円高で国内のデフレが悪化するとして政府・日銀に対策を求める声があがりました。政府は円売り・ドル買いの為替市場介入を実施し、日銀も金融緩和に動きました。しかし、円高の勢いは止まらず、12年末の衆院選で日銀に積極緩和を求める安倍晋三氏率いる自民党が政権に復帰する遠因になりました。
こうみてくると、この10年余りの期間をとっても、日本は円安になっても、円高になっても大騒ぎしているようです。なぜ日本はこうも為替相場に振り回され続けるのでしょうか。私だけでなく多くの方々がそんな疑問を持っているのではないでしょうか。本書では為替相場が今後、円高に進むのか、円安に進むのかという予想は示していません。そのかわりに、なぜ日本は主要先進国の中では珍しいほど為替相場に振り回されるのか。その背景にある日本の特異性を歴史も振り返りながら解き明かそうと試みました。
「ガラパゴス現象」あるいは「ガラパゴス化」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。日本の製品やサービス・技術が国内市場で独自の発展をとげた結果、国際標準との互換性がなくなり、世界市場で競争力を失う現象を揶揄した言葉です。
「ガラパゴス」は南米エクアドルの西側、赤道直下の太平洋に浮かぶ火山群島です。19世紀に英国の自然科学者チャールズ・ダーウィンが進化論の着想を得た場所として名前が知られるようになりました。「ガラパゴス化」というのは、孤立した自然環境でゾウガメ、イグアナなどの生物が独自の進化をとげたこの島の生態系になぞらえた表現です。
私も20年以上前にガラパゴスを訪れたことがあります。白く美しい砂浜、様々な魚が泳ぐ透き通った海、恐竜を小さくしたようなイグアナ……。映画ジュラシック・パークのような別世界に心が躍ったことを今でも覚えています。
突然、ガラパゴスの話を持ち出したのは、日本人の為替相場についての向き合い方が、海外とはずいぶん異なり、どんどん「ガラパゴス化」しているように感じているからです。この本のタイトルもいろいろ思案したあげく「『ガラパゴス・日本』の歪んだ円相場」としました。読み進めていただくとその意味するところがわかっていただけると思います。
本書は仕事や投資などで、ふだんから為替相場に親しんでいる方だけではなく、為替相場になじみのない方にもなるべく読みやすいような説明を心がけました。それでも専門的な話が多くなってしまいますので、難しいところは飛ばして興味のある章だけ読んでいただいても結構です。それでは日本と円相場の謎を解き明かす旅に出かけましょう。
【目次】




