信頼され評価が上がる話し方をテーマに「話すこと」のプロ2人が熱く語ります。『「よい説明」には型がある。』著者で元・駿台予備学校の人気講師・犬塚壮志さんと、『最初の15秒でスッと打ち解ける 大人の話し方』著者でNHKキャスターとして17年活躍したスピーチコンサルタントの矢野香さんのオンライン対談。聞き手は日刊書評メールマガジン「ビジネスブックマラソン」編集長の土井英司さん。第3回はリーダーに必須のスキルとお薦めの「話し方本」3冊。
リーダーは「できなかった自分」を忘れる
土井英司さん(エリエス・ブック・コンサルティング代表取締役。以下、土井) 前回 「プロが教える 今日から使える『伝わる話し方』3つのスキル」 は若手のビジネスパーソンがすぐに使える話し方のスキルについて聞きました。今回はリーダーが身に付けるべきスキルについて教えてください。
犬塚壮志さん(教育コンテンツプロデューサー。以下、犬塚) まず1つ言えるのは、部下やプレイヤーだったときの自分を忘れないことです。リーダーや教える立場になった人は、どうしても「自分ができなかったときのこと」を忘れてしまうんですよ。もし、「自分は最初からできた」と言うなら、できない人のことに想像をめぐらせる必要があります。リーダーには想像力が求められます。
矢野香さん(スピーチコンサルタント。以下、矢野) 想像力と併せて俯瞰(ふかん)力が必要です。リーダーの方々からコンサルティングで伺うお悩みの1つは、「言いたいこと」と「言うべきこと」が違うこと。例えば、今は働き方改革で残業時間に厳しくなっていますよね。リーダーの立場としては「早く帰りなさい」と言わなければならない。でも、プレイヤー経験者としては「キリのいいところまで仕事をしたい気持ちも分かる」と。こういうときは自分を俯瞰します。リーダーとしての自分と素の自分とを切り離します。素の自分が、リーダーとしての自分の操り人形を操るイメージでリーダーの役割に徹したほうが、齟齬(そご)がありません。
土井 そういえば、僕は以前、「世界一のゴルフコーチ」といわれるデビッド・レッドベターと食事をしたことがあります。そのときに「優れたコーチの条件は?」と聞いたら、「選手が現場で陥っている窮地を理解し、それを俯瞰できる人間だ」と今のお二人の話に通じる答えが返ってきました。
今の時代、リーダーは公の場で話す機会も増えていますよね。このときに気をつけるべきことはありますか。
犬塚 僕が気をつけているのは「セルフチェック」ですね。例えば、オンラインセミナーとなると数百人の参加者がいらして、いろんなバックグラウンドを持っている方がいます。そのときに自分の発言で誰かを傷つけていないか、必ず自分自身でチェックし、言葉を選ぶようにしています。
矢野 公の場で重要なのは、「言葉のハンドリング」です。企業のメディアトレーニングを担当するときに申し上げるのは、記者会見後に公開された記事を見て、「えっ、こんなはずじゃなかった」という意図しない見出しが躍るような失敗をしないようにということです。これは書いた側ではなく、話した側の責任だからです。「かぎかっこで切り取ってもらえる名言」を口にすれば、メディアは必ず見出しに使います。それを仕掛けていきます。
個人でもSNS(交流サイト)での発言が、「そういう意味じゃなかった」「そこを切り取らないでほしい」と自分の意図しない方向に広まることがあり得ます。だからこそ、自分の発言、発信する情報をハンドリングする責任があります。
話し方のスキルが身に付くお薦め本
土井 実際に話し方のスキルを身に付けるために、お薦めの本はありますか。
犬塚 3冊あります。1冊目は矢野さんの『 【NHK式+心理学】一分で一生の信頼を勝ち取る法 NHK式7つのルール 』(ダイヤモンド社)です。この本には矢野さんの話し方のコアが詰まっているので、何回読んでも役立ちます。
2冊目はアリストテレスの『 弁論術 』(戸塚七郎訳/岩波文庫)。やはり今も昔も話し方とは「人を説得すること」なんだな、と話し方の原点を学べます。
3冊目は『 共に変容するファシリテーション 5つの在り方で場を見極め、10の行動で流れを促す 』(アダム・カヘン著/小田理一郎訳/英治出版)。話すという大きなくくりの中にファシリテーションも含まれますし、非常に高度な技術が必要となります。その技術によって周囲に生まれる変化も大きくなります。特にリーダーや、そうした仕事をしている人にはお薦めです。
それから書籍ではないのですが、話し方を上達させるために話している自分をスマホなどで自撮りし、その動画を視聴するのもお勧めです。最初は恥ずかしいかもしれませんが、自分を客観的に見られる何よりの方法です。
矢野 自撮りは私の研究室でも効果が立証されたお勧めの方法です。話すときに「低めの声でゆっくり話す」「ここでジェスチャーを入れる」などと話し方を意識しすぎると、頭がパンクしてしまいますよね。それよりも誰かロールモデルを見つけ、その話し方をモノマネしてみるといいですよ。それを自撮りして見返すことは立派なスピーチトレーニングです。
そのモノマネという意味でお薦めの本が『 リンカーンのように立ち、チャーチルのように語れ 聞く者の魂を揺さぶるスピーチテクニック21 』(ジェームズ・ヒュームズ著/寺尾まち子訳/海と月社)。この本ではジェスチャーや沈黙などまねしたい21のスピーチスキルが紹介されています。
2冊目は『 影響力の武器[新版] 人を動かす七つの原理 』(ロバート・B・チャルディーニ著/社会行動研究会監訳/誠信書房)。こちらは社会心理学の古典的名著です。なぜ人は話し方によって心を動かされるのか、原理原則が説明されています。
3冊目は、スキル本ばかりで疲れた人には、原田マハさんの小説『 本日は、お日柄もよく 』(徳間文庫)。ストーリーを楽しみながら、犬塚さんや私のようなスピーチをサポートする職業の人間がどんな仕事をしているか、どうやってスピーチを組み立てていくか裏舞台を知っていただけるでしょう。
土井 お二人ともお薦め本が重ならないのが、さすがです。読み応えのある書籍リストになりましたね。
取材・文/三浦香代子 構成/酒井圭子
元・駿台予備学校人気日本一のカリスマ予備校講師が、1000人以上の説明を分析して見いだした「よい説明の型」。実践で即使える11個の型に絞って一挙公開。聞き手を観察し、最適な「型」に当てはめるだけで説明上手になれる。
犬塚壮志著/日本経済新聞出版/935円(税込み)
元NHKキャスターで「話し方指導」のプロが教える、信頼され・評価される「はずさないコミュニケーション」。相手に心を開いてもらうには“最初の15秒”が肝心。心理学の知見を踏まえ、好印象を与えるスキルを徹底解説。
矢野香著/日本経済新聞出版/880円(税込み)




