信頼され評価が上がる話し方をテーマに「話すこと」のプロ2人が熱く語ります。『「よい説明」には型がある。』著者で元・駿台予備学校の人気講師・犬塚壮志さんと、『最初の15秒でスッと打ち解ける 大人の話し方』著者でNHKキャスターとして17年活躍したスピーチコンサルタントの矢野香さんのオンライン対談。聞き手は日刊書評メールマガジン「ビジネスブックマラソン」編集長の土井英司さん。第4回はオンラインで話す・答えるときのテクニックなどです。
カメラオフの相手に話すテクニック
土井英司さん(エリエス・ブック・コンサルティング代表取締役。以下、土井) 前回までは、若手のビジネスパーソンが使える話し方スキル、リーダーが人前で話すときに気をつけるべきことなどを聞きました。今回はこのオンライン対談をリアルタイムで聞いている皆さんからの質問に答えていただけますか。
まず、「セミナーなどに参加している敵対的な受講者への対応を教えてください」という質問が来ています。
犬塚壮志さん(教育コンテンツプロデューサー。以下、犬塚) 私も研修後に「結局、今日の講義は意識高い系の人向けですよね」と、攻撃的な感想を言われたことがあります。そういうときは「素晴らしいご意見をありがとうございます」「新しい視点のご意見をありがとうございます」と、まずはお礼を言い、「私も配慮が足りませんでしたが、新しい視点に気づけました」と受け止めます。その上で、「ただ、この場にはもっと学びたいと思って受講してくださる方もいます」「時間をかけて遠くから来てくれた方もいます」と、発言者の視点を他の受講者に向けてもらうというか、視野を広げられるような返答をすると敵対心が薄れ、平静さを取り戻してもらえるように思います。
矢野香さん(スピーチコンサルタント。以下、矢野) 敵対心を持っている人は、こちらのことを「敵」だと思って攻撃してくるわけですよね。セミナーの内容について質問したいのなら、わざわざ攻撃してこないはずです。例えば、発言したいだけなら、その人に少し話してもらって自己顕示欲を満たしてあげるなど、攻撃の裏側にある心理状態を考えると打ち解けやすくなります。
土井 なるほど。なぜ、敵対心を持っているのか、想像してみるといいですね。次の質問は「オンラインセミナーやSNS(交流サイト)のライブなどで相手の顔が見えないとき、自分らしさを失わずに話し、参加者にも満足してもらえるポイントはありますか」。
犬塚 相手の顔が見えないのはつらいですよね。僕も最近は企業研修で、何百人ものカメラオフの相手に話すことがあるので、気持ちが分かります。そういうときは誰か1人ペルソナ的な人物を設定して、カメラの向こうにはその人しかいないと思って、テンション高めに話します(笑)。たぶん姿の見えない複数人の相手を想定すると自分の話す内容もブレてしまうので、妄想でかまわないから誰か1人を設定するといいですよ。
矢野 全員カメラオフはオンライン時代ならではの悩みですね。ただ、これはスタジオの中でカメラに向かって話しかけているアナウンサーのスキルに通じるものがあります。相手の姿が見えないとしても、「おそらく今の発言で、皆さん笑っていらっしゃるのではないでしょうか」「今のお話には、深くうなずいていらっしゃる方が多そうですね」と、自分がそうあってほしいと期待する相手の姿を実況中継するように話すという、放送でよく使うテクニックを試してみてください。
土井 相手の姿が見えなくても、「あなたのために話している」と分かると参加者の満足度が上がりそうですね。
自分の回答に自信がないときは?
土井 次の質問は「講師を務めるとき、自分の回答に自信がないと『これでお答えになっていますか』と言ってしまいます。対処方法があれば教えてください」です。
犬塚 僕も自分の回答に自信がないときは、普通に「今の回答でお答えになっていますか」と聞きます。やってはいけないのは、取りつくろうように、あれこれたくさん話してしまうこと。そうすると、相手が情報を処理しきれなくなります。一言、二言、回答して、「これでお答えになっていますか」と聞く。相手が物足りなさそうであれば、「それではもう少し具体例を挙げましょうか」「別の角度からお話ししましょうか」と付け足すといいと思います。
さて、これでお答えになっているでしょうか。
土井 はい。十分、答えになっています(笑)。
矢野 「質疑応答の時間ですべて答えなければならない、と頑張らない」と気楽に考えてはどうでしょう。手元にデータがなければ、「いつまでに調べてご回答します」と期限を明確にした上で後日正確に答えたほうが誠実です。
土井 その場で取りつくろおうとすると、かえってボロが出てしまうと。次の質問は「セミナーなどの質疑応答の際に、相手に自分を印象づけるにはどうしたらいいですか」です。
犬塚 あこがれの人や尊敬する人に自分をアピールしたい場合、その日の内容以外の情報をひも付けて質問するといいと思います。例えば、「以前のご著書では○○と書かれていて、今日のセミナーのお話とも通じる部分がありますが……」と言うと、「この人はちゃんと自分のことを知ってくれているんだな」と印象づけられます。
矢野 大学では、教員として就活生の指導もしています。「企業説明会に行ったら、絶対に質問してきて」「必ず一言は発してきて」と言っています。質問は自分を覚えてもらう絶好のチャンスですから。
そのときに大事なのは、「自分が何者か明らかにした上で質問すること」。例えば、私が金融関係のセミナーに行ったとします。ただ投資方法について質問するのではなく、自分がコミュニケーションの専門家であることを明かした上で自分の専門分野と関連づけて質問します。例えば、「良い投資情報を専門家から聞き出すための、上手な聞き方はありますか」「投資でだまされないために、気をつけるべきセリフやキーワードはありますか」などです。
土井 自分が何者か名乗った上で、相手のことをちゃんと知っているとアピールすると効果的ですね。現代ならではの話し方の悩みに対するアドバイスをありがとうございました。ビジネスパーソンが話し方のスキルを磨くのに、きっと役立つことと思います。
取材・文/三浦香代子 構成/酒井圭子
元・駿台予備学校人気日本一のカリスマ予備校講師が、1000人以上の説明を分析して見いだした「よい説明の型」。実践で即使える11個の型に絞って一挙公開。聞き手を観察し、最適な「型」に当てはめるだけで説明上手になれる。
犬塚壮志著/日本経済新聞出版/935円(税込み)
元NHKキャスターで「話し方指導」のプロが教える、信頼され・評価される「はずさないコミュニケーション」。相手に心を開いてもらうには“最初の15秒”が肝心。心理学の知見を踏まえ、好印象を与えるスキルを徹底解説。
矢野香著/日本経済新聞出版/880円(税込み)




