顧客による迷惑行為「カスタマーハラスメント(カスハラ)」が大きな社会問題になっています。2026年10月からは、企業がカスハラ対策をとることが義務づけられます。具体的にどのような対策をとればよいのでしょうか。労働法学者でハラスメント対策に詳しく、カスハラ関連の法案審議などにも関わった原昌登・成蹊大学法学部教授が、カスハラ対策に生きる本を紹介します。
カスハラへの切り返し方が分かる
前回は「カスタマーハラスメントとクレームの違い」などカスハラの基本についてお話ししました。今回はカスハラ対策の実務や、カスハラなどハラスメントが起きる背景について学べる本を紹介します。
1冊目は私が監修を務める『 まずはこれだけ! カスタマーハラスメント対策スタートBOOK 』(原昌登監修/香川希理著/日本経済新聞出版/2026年10月上旬発売予定)です。企業でカスハラ対策の担当になった方、現にカスハラに悩んでいる方にお薦めです。2026年10月1日から、改正労働施策総合推進法で企業にカスハラ対策が義務づけられましたが、カスハラの基本から実践的な対策まで、分かりやすく、漏らさず、コンパクトにまとめてあるので、「これからどうすればいいか」が分かります。
この本の特長の1つは、実際にカスハラにあったときの切り返し方も紹介していること。著者の香川希理さんは弁護士ですから、個々の対策は法的な裏づけに基づき説明されていて安心ですし、現場で役立ちます。
前回紹介した『 カスタマーハラスメントの理路と実務 』(原昌登・香川希理編著/商事法務)が重厚な内容でカスハラ対策の決定版だとしたら、こちらは手に取りやすい入門書。企業や事業の規模に関係なく、多くのみなさんに読んでもらいたい1冊です。
ハラスメントはいい人もする
2冊目はパワーハラスメントが起きるメカニズムが分かる『 「不機嫌な職場」を科学する 悪意なきパワハラと攻撃を生み出すメカニズム 』(津野香奈美著/SB新書)です。
パワハラとカスハラにはもちろん違いがありますが、パワハラが起きる構造を知ると、カスハラの対策にも役立ちます。例えば、職場でパワハラを見て見ぬふりをすることと、誰かがカスハラを受けているときに周囲がフォローに入らない状況は似ていますよね。見て見ぬふりで放っておくのではなく、どうすればすぐに助けられるのか、被害者のケアをどうすればいいのかなど、共通の知見が得られます。
また、パワハラというと性格の悪い人がすると思いがちです。しかし、企業は見るからに危険そうな人は採用しないでしょうし、実際にパワハラが起きると、「まさかあの人がそんなことをするなんて」と驚かれるケースがあります。この本ではなぜパワハラが起きるのか、その環境と原因について科学的な視点から分析しています。
私が本書で印象的だったのは、「余裕のなさが人を攻撃に向かわせる」という表現です。裁判になった事例を見ても、長時間労働が常態化している会社でパワハラの問題が深刻化したケースが多々あります。長時間労働で余裕がないから言動が荒くなる、パワハラが起きる、そうするとますます仕事がうまく回らなくなり、長時間労働が繰り返される……といった悪循環が起こるのです。そうした職場の問題をどう改善すべきか、さまざまな研究成果をもとに学ぶことができます。
労働法について学べる本
カスハラやパワハラは労働施策総合推進法、セクシュアルハラスメント(セクハラ)は男女雇用機会均等法と、さまざまな法律で規定されていますが、基本的にはすべて「労働法」という分野に含まれます。その労働法について網羅的に学べるのが『 詳解 労働法[第4版] 』(水町勇一郎著/東京大学出版会)です。
「詳解」というタイトルにあるように、現在の労働法について、基本から応用的なトピックまで、まさに網羅されており、裁判事例も数多く紹介されています。何か分からないことがあるときに辞書的な使い方もできてとても便利です。
そして、ビジネスパーソンが働くうえで知っておきたい労働法について、さっと読んで基本を理解できるのが、私の著書『 あなたのキャリアと労働法 』(有斐閣)です。
この本ではアルバイトに始まり、就職活動、入社1年目、部下や後輩ができたときなど、職業人生つまりキャリアと関連づけながら、労働法について説明しています。さっと読めるボリュームなので、短時間で労働法の基本を一通り押さえ、その中でハラスメントについても理解を深められます。これから就職活動を始める人たちにも目を通してもらいたいですね。
カスハラを防ぐのは「相互に尊重する」こと
私たちは日々働く労働者であり、一方で消費者でもあります。ということは、自分がカスハラの加害者になる可能性もゼロではありません。
カスハラを防ぐには、私も制定に向けた議論に関わった「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」にある「相互に尊重する」ことを意識するといいでしょう。この条例には、「働く人(就業者)」と「カスタマー(顧客等)」は対等の立場であり、相互に尊重するという基本理念が書かれています。一人ひとりがこうした意識を持っていれば、カスハラは防げるはずです。
そのためにも、カスハラとはどういうものかを知っておく必要があります。防止措置義務が適用される会社で働くみなさんには、社内で研修があったり、資料が配られたりするでしょう。そこで学んでおけば、自分の行動について、「これがカスハラだとは思わなかった」といった事態が避けられます。
カスハラは年代、性別等を問わずに起きるトラブルです。今後ますます社会全体で周知、啓蒙を進めていく必要があります。その際、今回、紹介した本がお役に立てば幸いです。
文/三浦香代子 写真/稲垣純也
2026年10月より、カスハラ対策はすべての会社の義務になりました。本書では、人手や予算を十分に用意することが難しい場合でも、無理なく実践できるカスハラ対策の手法を紹介。理論と実務のトップランナーが最新の法改正をふまえてやさしく解説します。
原 昌登監修/香川希理著/日本経済新聞出版/1540円(税込み)



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