アメリカの中間選挙が11月3日に迫る。世界を揺るがすトランプ大統領への審判の機会として、与党・共和党と野党・民主党のどちらが議会多数派を占めるだろうか。勝ち負けに注目している方は多いだろう。しかし、重要なのは、アメリカ政治の潮流がどう変化していくのかだ。『バンスのアメリカ トランプ後の世界を動かす思想地図』を書き下ろした日本経済新聞社ワシントン支局記者の飛田臨太郎氏が現地の動向を踏まえて解説する。

迫るアメリカ中間選挙

 11月3日、アメリカでは中間選挙が行われる。日々、世界を揺るがすトランプ大統領への審判の機会だ。勝ち負けの行方に注目している方は多いだろう。しかし、最も重要なのは、中間選挙後、アメリカ政治の潮流やモメンタム(勢い)がどのように変化していくのかだ。

 アメリカの憲法では大統領の3期目の選出を禁じている。トランプ氏は2028年大統領選に出馬せず、任期通りで退く見通しだ。今回の中間選挙後は、アフタートランプへのカウントダウンと、その後のアメリカ、ひいては世界の未来を考えていく2年となる。

ホワイトハウス内で演説するトランプ氏(2026年10月、写真:飛田臨太郎)
ホワイトハウス内で演説するトランプ氏(2026年10月、写真:飛田臨太郎)
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新勢力「ニューライト」とは?

 民主党では有力な次期大統領候補は定まっていない。西部カリフォルニア州知事のギャビン・ニューサム氏やハリス前副大統領、ブティジェッジ前運輸長官、急進左派のオカシオコルテス下院議員らの名前があがる。

 一方の共和党ではバンス副大統領が最有力候補だ。バンス氏にとって、この中間選挙で自身の政治的な力をどのように示すのか、2年後を待たずに正念場となる選挙戦となる。

 バンス氏が描くアメリカの理想像とは何か。彼のまわりには「ニューライト」と呼ばれる次世代の保守勢力が陰に陽に結集している。彼らはトランプ氏をある種「乗り物」としてとらえ、アフタートランプの世界で自分たちの理想のアメリカをつくろうと考えている勢力だ。

 加速的な技術革新を求めるテック系右派や、労働者の尊厳や共同体の再生を目指すポスト新自由主義の人々、戦争介入を嫌う反介入主義者、キリスト教的な美徳を社会基盤の中心とする西洋文明の再生・復活に重きをおく文明論者などが一堂に会している。

 ビジネスマンだったトランプ氏は、損得論に似た「ディール」(取引)の世界を好んだ。しかし、ニューライトはより哲学的で、確信的・革新的にアメリカを変えようとしている。

 拙著『 バンスのアメリカ トランプ後の世界を動かす思想地図 』ではバンス氏を中心としたニューライトの実像、そしてなぜバンス氏がその中心にいるのかを描いた。

 バンス氏と関係が近い保守系シンクタンク、クレアモントのフェローで政治思想家のスコット・イエノール氏は「右派は左派よりもはるかに複雑な政治的有機体」と表現する。その仲介者としての位置づけがバンス氏だという。

 バンス氏がニューライトから求められているのは、彼自身の特異な人生そのものにある。共同体が崩壊したラストベルト(さびた工業地帯)で育った幼少期やシリコンバレーの大物、ピーター・ティールとともに働いた経験など、複雑なアメリカの様相を自身の半生の中に取り込み、自らの言葉で語れる強みを持っているからだ。

 「右派内には多くの緊張関係があり、それを仲介できる人物がリーダーとして必要だ。バンス氏はどちらにも属しており、彼を軸に双方が交われる。右派のすべての陣営が信頼を寄せられる人物が必要であり、バンス氏は間違いなくその一人だ」(イエノール氏)

事前予測と結果の差で政治ムードが一変

 バンス氏はトランプ氏と同様、中間選挙の激戦州に出向き、共和党候補者の応援演説に毎日のように繰り出している。特に自身の地元、中西部オハイオ州は近年、共和党が強い地盤となっていたが、敗退の危機に瀕している。これらの州の勝敗に注目が集まる。

共和党の中間選挙大会で演説するバンス氏(2026年9月、写真:飛田臨太郎)
共和党の中間選挙大会で演説するバンス氏(2026年9月、写真:飛田臨太郎)
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 アメリカの各種、選挙情勢分析サイトによると、下院は多数派を占める戦いで、民主党が優勢だ。2026年初頭の段階では共和党が勝つ可能性が高いとみられていた上院多数派の行方でも、民主党が勝つ可能性が高いとみる分析が増えている。

 中間選挙は、単なる勝敗の結果だけでなく、事前予想と結果の違いがその後のアメリカの政治全体のモメンタム(勢い)を作ることが多い。

 例えば、前回2022年の中間選挙では、当時の大統領だった民主党のバイデン氏の支持率が現在のトランプ氏と同じように低迷していた。民主党は大きな敗北を喫し、野党だった共和党が上下両院を制する「レッドウエーブ(赤い波)」が起きるとの事前の見方が多かった。

 しかし、結果は上院の多数派は民主党が制して、事前予想を裏切った。高齢で2024年の大統領選への出馬は厳しいのではと民主党内で考えられていたバイデン氏。しかし、中間選挙のサプライズの結果は党内の雰囲気を変え、「バイデンで良いのでは」という楽観ムードをつくった。

 自信を深めたバイデン氏は、中間選挙後に大統領選への再選出馬を宣言。だが、大統領選挙の戦いが始まってから、高齢不安が鮮明となってしまい、アメリカの歴史上で異例の、選挙戦途上での断念につながった。

中間選挙は与党が不利?

 中間選挙は、歴史的に与党は厳しい戦いを強いられるケースが多い。下院では1938年以降の過去22回の選挙のうち、20回で与党が議席を減らした。上院でも与党が議席を伸ばしたケースは数少ない。

 バンス氏にとっての中間選挙での命運とは、こうした事前予想の中で結果そのものは仮に敗北であったとしても、何らかの政治的サプライズをつくれるか、もしくは「バンスで良いのでは」という共和党内の安心ムードをつくれる要素があるのか否かにかかってくる。

 次回は、今後のアメリカはどうなっていくのか、バンス氏やニューライトが描くアメリカの理想像とともに説明する。中間選挙で争点になっている人工知能(AI)や労働の問題、そしてアメリカとイスラエルの関係の観点から考える。

世界の次の10年を左右する「ニューライト」とは?

いまアメリカでは、「ニューライト」と呼ばれる新しい保守勢力が急速に台頭している。その中心にいるのが、副大統領J.D.バンスだ。彼らは何を目指し、なぜ多くの支持を集めているのか。投資家、経営者、ビジネスパーソン、国際情勢に関心を持つすべての人のための、新時代のアメリカ入門書。

飛田臨太郎 著/日本経済新聞出版/2860円(税込み)